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Evoking Model 思索の試作

武蔵野美術大学造形構想研究科で、Takt Projectの吉泉聡さんのお話を伺った。Takt Projectは、DESIGN THINK+DO TANKを掲げ「別の可能性をつくる」さまざまなプロジェクトを展開しているデザインファーム。スタートアップから大企業、大学、研究機関、行政機関など幅広いクライアントと共に多様なプロジェクトを展開している。クライアントワークと平行し、実験的な自主研究プロジェクトを行い、その成果をミラノサローネ、メゾン・エ・オブジェ、ヘルシンキデザインウィーク、CREATIVE EXPO TAIWAN、AnyTokyoなど国内外で発表している。

弱い価値のデザイン

吉泉さんが考えるデザインは、プロダクトデザイナーの視点の中に人類学や社会学的な「ずれた」視座が入っていて面白い。彼は"Design is to Cultivate"と語り、まだ「言語化/定量化」出来ていない弱い価値の可能性をどう現代社会の中で、強い価値と対等なものとして扱っていけるか?その方法がデザインだと考えている。サポートではなく、ドライブするものとしてデザインは存在すると述べた。

Evoking Model 思索の試作

吉泉さんは自身のデザインを「思索の試作」と表現していて、Takt Projectの作品はプロダクトの視点から「弱い価値」を言語化した挑戦的な取り組みばかりだった。

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COMPOSITION+
木を削り、家具をつくる様に、粘土をこね、器をつくる様に、素材からシンプルに家電をつくる方法はないだろうか?
加飾をまとった虚像のような外装で覆われた家電ではなく、素材から立ち上がったようなピュアな存在。
異素材を混ぜ合わせて新しい素材を生み出す様に、電子部品を素材と捉え、外装材となるはずだった樹脂と混ぜ合わせて固める。
この複合材は、電気が通る素材であり、電子部品が実際に機能する、プロダクトとして成立した素材でもある。
どこまでが素材で、どこからがプロダクトか?
素材から考える事で、素材がプロダクトに変わる境界線、そして、それを定義する既存の枠組みについての思索の試作である。
【機能概要】
家電の機能を成り立たせるために必要な電子部品を、透明なアクリルに封入。
電子部品は、電子基板を必要とせず、封入される事で固定される。
電子部品同士は極細の特殊な電気導線で接続されており、家電として実際に機能する。
非接触式による充電、傾き感知によるON・OFFなどが実装され、このままで通常の使用が出来る。
Bluetooth接続が可能で、スマートフォンで調光をリモートコントロールが出来る。

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Dye It Yourself
大量生産という概念は、生み出される製品が「複製可能」である事が価値であると言い換える事が出来ます。
プラスチック製品は、そんな大量生産における典型的な存在であり、均質である事を運命付けられた製品です。
しかしながら私たちは、時に人と違う物を欲したり、また、自分で作った物に大きな愛着を感じる物です。安価に量産可能なプラスチックの利点を生かしながら、そこに誰もが簡単に自分らしさを与えられる余白がある事。
Dye It Yourselfは、そんな概念を具現化する、新しいプラスチック製品の「あり方」の提案です。この概念を実現するにあたり、「多孔質プラスチック」と呼ばれる、吸水機能を持つ特殊なプラスチックを素材としました。
工業的用途に使われる事が多く、日用品にはほとんど使われない素材ですが、その吸水機能に着目「染色できるプラスチック」と解釈を変え、例として家具のプロトタイプを製作しました。一般的なプラスチック製品の様に量産されますが、ユーザーが思い思いに染色をする事が出来ます。
紅花、藍、桜といった天然の色で染める事で、草木染めのようなの美しい色の揺らぎや濃淡が現れる事も魅力です。
それは、大量生産品とクラフトといった本来対局に在るものの境界を超越する存在でもあります。均質である事を運命付けられた大量生産品が、ユーザーによって多様な表情を持ち、たった1つの存在となり得る。
それは、大量生産という概念とユーザーとの関係性に、新たな地平をもたらす可能性の提案であり、
その関係性や概念の再構築こそが、このプロジェクトを通して私たちがデザインしたかった事なのです。

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glow ⇄ grow
光る事で成長し、成長する事で光が変わる。姿形を完成させるデザインではなく、機能が新たな機能を生んでいく、そのプロセス自体のデザインです。光で固まる樹脂を、プログラミングされた光を放つLEDで直接硬化、LED自体が姿を変えながら光り続けていきます。氷柱や鍾乳洞のように成長するその姿は、光に様々な表情を与え、そしてまた、光によって新たな姿を獲得し成長していきます。それは、自然の模倣ではありません。制御という人工的な操作に、自然の原理を取り込む人工と自然の融合のプロセスです。自然と人工、自律と制御、未完と完成といった、相反する様々な事柄をつなぐ存在。それらが作り出す、自然でも人工だけでもない新たな環境を、インスタレーションとして出現させました。

クラフトとコモディティの間で

Takt Projectの作品は、クラフトとコモディティの間に存在している、その壁を溶かす存在であると吉泉さんは言う。製品化を前提としないで、プロダクトがあることでその背景にある考え方を描く。作り方やバリューチェーンまで立ち返って、新しい価値軸を提案していくことが彼らのデザインの根底にはある。

「新しいものをつくるときには『どこまで戻れるか』が重要だと思っています。デザイナーが入れるのは、よくても企画からですよね。
製造方法に入りこむことは難しい。しかし製造技術が決まっていると、当然つくるものがある範囲で決まり、企画も決まってくる。だから製造技術まで戻ってみると、すべてが変わる可能性があり、ビジネスモデルも変わる可能性があります」逆にいえば、製造技術からデザイン的な視点を持って変えていかないと、本質的な意味では変わらない。それが「戻る」ということ。「決められた枠の中では、おもしろいことは生まれにくいと思います。
みんなが同じ目的なので」

まとめ

・Takt Projectのデザインとは"Cultivate(耕す)"。まだ「言語化/定量化」出来ていない弱い価値の可能性をどう現代社会の中で、強い価値と対等に扱っていけるか?
・思索の試作として作り上げたプロダクトは、クラフトとコモディティの中間に存在している。数多作られているものの製造工程まで「戻り」、様々な思索を「Evoking(呼び覚ます)」している。

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