穏やかな日々を大切に。『ライオンのおやつ』感想
穏やかで、お日様みたいにぽかぽかするような小説。
この本を紹介するなら、その一言に尽きる。
病に侵された主人公は、最後の日々をホスピスで過ごすことを決め、瀬戸内海のレモン島へやってくる。
瀬戸内の、海から吹く風に身を任せていられるような穏やかさに、思わず肩の力が抜け、ふうーっと息を吐いてしまうはず。
今回は、小川糸さんの『ライオンのおやつ』をご紹介します。
忙しい日々のなかで、ゆっくりと目を瞑るような時間の取れない人たちに、ぜひ読んでいただきたいです。
瀬戸内で出迎えてくれる、温かな心溢れる人たち
なかなか普段の生活で、自分の悲しみを誰かに受け止めてもらったと感じる機会って、あまりないかもしれない。
一人暮らしをしていればなおさら、パートナーがいる人も、感情を曝け出してしまうと受け入れてもらえないのでは、という不安が常に付きまとい、素直に感情を吐露することはあまりない気がする。
でも、この本の中では、ホスピスのスタッフも、主人公と同じように島で最後を迎えようとしている人たちも、島の住人たちも、誰かの悲しみを当然のように一緒に感じようとしてくれる。
恐怖や不安は変わらないけど、誰かが共有してくれるだけで、少しだけ落ち着く。
そういう心と心でつながるような、温かな触れ合いが、とても印象的だ。
肩の力を抜いてもいいんだよ、と教えてくれる
主人公は、決して明るく楽しく、という状況ではない。
そこまで強調されているわけではないけれど、喪失感や虚無感を感じていることがよくわかる。
だけど、私はどちらかといえば、その日々の穏やかさが身に染みた。
何も努力しなくていいとなった時に訪れる、本当に穏やかな日常。
この本を読んだとき、会社帰りだったからだろうか。
主人公の穏やかな日々をありありと想像しながら読んだ時、自然と肩の力が抜けた。
その時はじめて、肩も首も頭も、ずっとほんの少しだけ痛かったことに気づいた。
自分は日々に忙殺されていたんだ。
自分は常に自分の何かを改善して、スキルを向上させていかないといけない。
何かに向けて、常に準備をしていないといけない。
そうでないと、自分の人生は良くならない。
と、無意識に自分を縛りつけていた。
私たちは便利さを手に入れたけど、その代わりに行き着く暇のない日々を背負うことになったのかもしれない。
この本を読んだ時、主人公に「もっと力を抜いて、穏やかに生きていい」と言われた気がした。
私たちにはこの先も長い未来が待っている。
苦しいこともきっと多いけれど、これからの日々の中、その瞬間瞬間の手触りを、もっと感じながら、穏やかに生きようと感じられた。
日々に疲れ、それでも休む暇のない人たちに、ぜひお読みいただきたい一冊です。
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