コロナ禍の患者の心のケアについて


病院のコロナ対策

私がくも膜下出血で運ばれたのはコロナ第七波の直前でした。おかげですぐに救急車で運ばれ手術をしてもらえたことは本当に幸運だったと思います。私の記憶にはありませんが危篤時には家族の面会も許されたようです。

ですが以降2ヶ月に及ぶ急性期での闘病中、一切の面会は許されませんでした。当時でコロナウイルスが騒がれてから三年以上が経っていました。病棟にコロナが持ち込まれないための対策は徹底的になされていたと思います。しかし、コロナ禍で影響を受けている患者の心への対策はなされていないように感じました。

目が見えない中での入院生活

私はくも膜下出血後、両眼にテルソン症候群による視力障害を起こしていました。意識が戻りまだぼんやりした状態の時におそらく先生から説明があったのだと思います。眼科の診察もあったことと思います。でも全く記憶にありません。私が記憶にあるのはおそらく発症してから2週間はたった頃だと思います。どんな状況だったかはわかりませんが両目が見えず足に麻痺があることを知りました。ショックを受けるどころではなく、何が何だかわからないそんな状態で始まった入院生活でした。

看護師さんが検温と血圧を測り「今日は何月何日ですか?ここはどこですか?」と毎日同じ質問をする、それが1日の始まりです。その後朝食が運ばれてきますが目が見えない私には何がどこにあるのかわかりません。重症の方が多く手が回らないためかテーブルに置かれた食事を手探りで食べていました。そのため袋に入ったパンだと思ってかじったらお手拭きだったり、コップに入った歯磨き粉を食べようとしていたこともありました。

朝に顔を拭いてもらえることもなく、歯磨きもお願いしないとできません。トイレに連れて行って欲しいと頼むことさえ気が引けて水分を控えたりもしました。そんな状態だったので食事の介助などもってのほかでしたが、手探りで食べることに特に苦痛を感じてはいませんでした。

ある日いつもと同じようにフォークを手渡され何かわからぬまま口に運んでいたら、ふとお茶が欲しくなりフォークを手放したらどこに置いたかわからなくなってしまいました。手探りでその辺りを探しても全く見つかりません。ナースコールを押してお願いすればすぐ渡ししてもらえるのにその日はなぜかそれができませんでした。それより一人で食事一つ満足にできない自分が情けなくて涙が溢れてきました。

目は出血がひどく眼底の状態が見えないので手術してみないと見えるようになるかわからないと言われていました。面会ができない上に見えないので家族とメッセージで連絡を取ることも一人で電話をしに行くこともできません。テレビを見ることも本を読むこともできずただただベッドの上で過ごすだけの毎日。そして食事も排泄もお風呂も人の手を借りなければ何一つできない。この生活が一体いつまで続くのか、なんでこんなことになってしまったのか、なんで助かってしまったのか。フォークがみつからないことがきっかけでそんな思いがぶわっと涙と共に溢れ止まらなくなってしまいました。

それに気がついた看護助手の人が重症者の世話で放って置かれたことを悲しんでいると勘違いし「ごめんね放っておいて。今食べさせてあげるからね」と寄ってきてしまいました。その言葉がさらに私を情けなくし「そんなことじゃないんです。違うんです」泣き叫ぶほど助手さんは私を子供のように扱い「手を拭いてあげましょうね、お顔を拭きましょうね」とタオルを持ち出しました。

もう感情が頂点に達してしまい私は泣きながら手探りで携帯を引っ掴み、見えないのにベッドから降りて電話のできる談話室の方へ歩き出しました。慌てた看護師さんが追いかけてきましたが構われたくなくて、夫の番号だけコールしてもらい放って置いて欲しいとお願いしました。しばらく夫と電話をしなんとか落ち着きましたが、スタッフに心の内を話す気にはなれず、また聞かれることもないままに終わりました。

面会禁止中の心のケアを

突然の病気や怪我で運ばれ気がついたら障害を抱えていた。脳外科以外にもそんな人はたくさんいると思います。家族との面会は禁止です。目の見える人はラインなどは可能ですが、電話は談話室へ移動しなければなりません。誰かに話を聞いてもらいたくても看護師さんは常に忙しそうです。突然の体の変化に心がついていかない。でもどうしたらいいのか。その辺りのことは全く考慮されていなかったように思います。

緩和ケアの対象者はなぜ癌とAIDSの患者さんだけなのでしょうか?
コロナになって何年も経つのにどうして家族と面会できない患者さんに対する対策はなされていないのでしょうか。

看護師さんたちが忙しくて手が回らないことは理解ができます。手が足りていたならもっと見守り寄り添ってくれることと思います。
でもただでさえ人手不足なのに、ひとたびコロナの波が押し寄せたならそちらにも手をとられどうにもならないのだと思います。
であれば、この数年の間に何か対策を立てられなかったのでしょうか?
withコロナというならば、行政や医療機関だけではなく皆がもっと関心を寄せるべき問題のような気がします。

かくいう私も自分がその立場になるまでは考えもしなかったことですが、自分も含め、いつ誰が患者側になるかはわかりません。
だからこそ身体の治療と共に心の治療を、身体のリハビリと共に心のリハビリもできるような体制が整うことを切に願いたいと思います。