13年ぶりの教え子のやり返しに、心が温かくなった話
教職も18年目に突入して、41歳になった。
この年になると、若い時に担任した教え子たちがすでに社会人である。
前、学区の交番に教え子が赴任してきた。
立派に警察の制服を着こなしている。初任者のときにうけもって、卒業させた子。
彼はいじめっ子だった。叱りに叱った。
多分、教員人生で一番叱った子だと思う。
それでも男気があって、いい男だった。記憶では、
「このクラスの中にいじめをしている子がいる!立ちなさい!」
と、クラス全体の前で話すと、その子は正直に「ぼくです。」と言って立ち上がった。
24人のクラスである。みんなの前で、覚悟を決めた瞳で立ったあの姿が忘れられない。
私は卒業した後も彼が気になって、3年後の中体連、夏季大会で柔道の選手だった彼の応援をしに行った。
あいにく、自分もバスケットの審判があり、試合と試合の隙間の一瞬しか行けなかったが、立派になった彼は目を合わせると、ニコッと笑って会釈をした。
「がんばれ!応援しているぞ!」
というと、あのころのいたずらっぽい表情で笑った。
先日、大人になった彼と飲んだ。あの時のことを話題にすると、驚くべきことが分かった。
「いじめをしている子は立ちなさい、と先生が言ったあの日の前、先生は僕を呼んだ。明日、みんなの前でいじめをしている人がいる、と言うから、反省しているのなら立ちなさい。」
と、実は根回しをしていたらしい。
驚いた。
みんなの前で、正直に勇気をもって立った彼の男気にほれてきたが、実はそこには初任3年目の僕の根回しがあったのだ。まったく覚えていない。恥ずかしい限りだ。
それから、いじめっ子だった彼を、みんなで更生させようみたいな「励ます会」を行った。落ち込んでいる彼を、クラスみんなで力づける。なんて素敵な会だろう。当時、私は満足だった。
しかし、警察官の彼はそのことを、「公開処刑だった」と笑いながら語った。
それでも、「僕に真剣に向き合ってくれて、うれしかったですけどね」と、優しさいっぱいでぼくをフォローした。
あのいじめっ子だった子が、教員経験そこそこの僕をフォローしたのだ。苦笑いするしかなかった。
先日、中学校区の生徒指導の先生と地域の方々と打ち合わせがあったとき、交番代表で彼が来ていた。ぼくは、彼が教え子であることを伝えた。彼は、地域の偉い方々の前で、
「僕は先生の教え子です。先生のおかげで、今があると感謝しかありません。先生が担任になってから、なぜか怒られて、怒られて、怒られた記憶しかないんですけど…」
と話した。
会場はどっと笑った。
公開処刑を、数年越しに仕返しをしたのだ。
そんな彼のたくましさを、うとましく思うことはなく、なぜか晴れ晴れとした気持ちで見守っていた自分がいた。
小学校の教育なんて、大人になってどのくらい価値があるのかわからない。でも、全力で向き合えば、多少まちがっていても、こんな日が来るのかとうれしくなったのだった。
今年の四月、彼は我々の小学校の安全教室に、講師として来てくれる予定だ。
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