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ペア読書で読書力アップ!!

小学校教員として読書に力を入れて授業を組み立てています。担任する3年生のクラスで、3学期に「ペア読書」という取り組みを初めて行いました。これが本当に楽しくて、子どもたちの読書力もぐんぐんアップしました。今回の投稿はその実践を紹介したいと思います。記事の最後には、ご家庭で読書に取り組む際のヒントにも触れていきたいと思います。

ペア読書とはどんな実践?

私は、子どもたちに読書に親しむ人になってほしいと思っています。そこで、カリキュラムを工夫して『読書家の時間』( プロジェクト・ワークショップ・編、2014、新評論)を参考にしながら、日々実践しています。ペア読書もこの本で紹介されている取り組みです。

ペア読書とは、文字通りペアで本を読む方法です。1冊の本を真ん中において二人で読むこともあれば、同じ本をそれぞれが持って読むこともあります。読書家の時間では、ペアで同じ本を読んだり、同じ本を読み終わったあとに本について語り合ったりすることを「ペア読書」と呼んでいます。

「読書家の時間」p.139

今回、3学期の後半6週間をペア読書の期間とし、以下のようにして取り組みました。

  1. 読書力や人間関係をもとに、読書ペアを決めておく。

  2. 本を30種類ほど、それぞれ2冊ずつ教室に用意しておく。(私物の本+学校図書館や公共図書館の本で計2冊になるようにしました。)

  3. 授業でペアで一緒に読む本を相談して決める。その本をいつまでに読むか、どんなペースで読むかなどの計画を立てる。

  4. 1週間ごとに、進捗状況の確認や感想の共有、計画表の更新を行う。

ペア読書の実際

最初の2週間(わくわく!本選び!)

ペア読書をすることを伝えると、とても嬉しそうにしていた子どもたち。本選びは、みんなで本屋さんにお出かけしているかのような盛り上がりでした。用意した本の多くは、今まで学級文庫に並んでいたものだったのですが、こうして本屋さんのように並べると、「おもしろそうな本がいっぱいで迷っちゃう!」という雰囲気になるから不思議。友達と一緒にワイワイ言いながら選ぶのも図書館とは違った楽しさがあります。

本が決まると、ペアで予定を立てます。目次や小見出しを見て、「このくらいずつなら読めそう」というペースを決めていきました。ペア読書カードには、2週間後の予定まで書きこめるようにしました。「最低でも2週間に1冊は読みましょう」と呼びかけました。

大事なポイントとして、以下の2つを伝えました。
①難しかったり、おもしろくなかったりしたら本を替えてもいい。
②予定通りに読めなくてもいい。(先まで読みたかったら読んでもいいし、意外と難しかったら予定よりゆっくり読んでもいい。)

本来の読書に近付けたかったので、この2つのポイントを最初に伝えました。この呼びかけのおかげで、プレッシャーを感じることなく、のびのびと読書に取り組むことができました。今振り返ってみても、このポイントは共有しておいてよかったと思いました。

2週間やってみて、ペアの相性がよかったところは、驚くほど読書が進みました。特に、元気いっぱいの男の子たちがこのペア読書を楽しんでいたのが印象的でした。中学年の子どもたちにとって、「友達と一緒にやる」ということは、ものすごく学習を促進するんだなあと改めて思いました。

「先生!もう読んじゃいました。次の本、選んでもいいですか?」と2人ペアで嬉しそうにやってきます。
「次はどれにする?」とたずねると、
「もうちょっと文が多いのもいける気がする。」「今読んだみたいに、ちょっとドキドキする話がいいな。」みたいに、希望を伝えてくれます。
それに応じて、次の本を選ぶというようなサイクルです。2日に1回くらい本を選びに来ていました。

一方、ペアの読書ペースが合わないところもありました。「一緒に選んだ本、私はもう読んじゃったんだけど、○○ちゃんはまだ半分くらいで…。」そんなケースもたくさんありました。
「もう約束したところまでは読んでいるから、読書の授業の日まで読まなくてもいいけど、他の本読んでみたかったら、1冊持っていってもいいよ。」と言うと、ほとんどの子がプラス1冊読みたいと言って、持っていきました。

次の2週間(読書が軌道に乗ってきた)

2週間の振り返りを行い、ここまでのみんなの様子を全体にフィードバックしました。感想共有の時間は、私が作った読書トークカードを利用して、ペアでカードゲーム風に本の内容に関する対話を楽しみました。(読書トークカードのお題は32種類。画用紙に印刷しました。)

ペアで読んできた本を机に置き、その本について話します。例えば、「登場人物の中で友達になりたいのはだれ?」というカードを引いたら、そのお話に出てきた登場人物を思い返し、「友達になりたいのはこの人」とペアに伝えます。この活動をしていると、理由を言うために自然と本を開くことになります。登場人物紹介のページだったり、印象的なエピソードが載っているページだったり…。

カードの使い方もペアで工夫していて、対戦型ゲームのように並べて使う子もいれば、ババ抜き風に使う子、話したいお題のカードを選んで使う子などいろいろでした。カードがあることで、本の内容についての話がしやすくなり、どんどん子どもたちで進めていくことができました。あっという間に時間が過ぎていきます。

ペアの読書力に思ったより差があったところや、読みたい本がバラバラになってしまったペアは、組み合わせを変えました。(ペアを変えたのはクラスのごく一部でした。)

この2週間(3~4週目)は、読書が軌道に乗ってきたことが目に見えて分かりました。「もっと読みたい!」「本っておもしろいな!」そんな雰囲気がクラス全体に漂っています。朝学校に来ると、ペアの子に「ねえ、どこまで読んだ?私ここまで読んだよ。」「この場面、めっちゃドキドキしたよね。」などど友達に話しかけている子がたくさんいます。

朝の会の前に、何か静かだな…と思って教室を見ると半分くらいの子が本を読んでいて、物語の世界に集中しています。そして、読んでいる本が今までと明らかに違っています。これまでは、雑誌のような読み方でパラパラ見ていたり、次々に本を取り換えたりということが多かった子も、ペア読書で読んでいる長い本に熱中するようになりました。

最後の2週間(より自分に合った読書を求めて)

ペア読書が終わりに近づくにつれて、読書に関してそれぞれが自分なりのチャレンジをするようになっていきました。

読書が苦手な子は、今まで読んでみたかったけど読めなかったシリーズの本を1冊読破したことが自信となり、もう1冊そのシリーズ本を手に取りました。「内容が理解しにくいところは、絵を描きながら読むといいよ。」というアドバイスをちゃんと実践しています。ペアの子と週1回話をすることで、絵を見せたり内容を確認できるので、それがモチベーションになっていました。

読書力中間層の子どもたち(ちょうど、中学年の読書力が身に付いている子たち)は、ペアがよく機能していました。週2~3冊、とてもいいペースで読んでおり、少しずつレベルアップしていきました。自分でなかなか選びきれない子も、ペアの子が「次これにしない?」と提案してくれたことで、スムーズに次の本を選べていました。

読書が得意な子たちも、「こんなにたくさん本を読んだのは初めて」と話していました。より分厚い本、内容の難しい本にチャレンジしてみようという気持ちの高まりがすごいです。この時期になると、読書が得意な子たちは、「ペアで同じ時期に同じペースで読む。」というスタート時の投げかけは、もはや意味をもたなくなっていました。

読書の得意な子たちにペアは必要ないのかも?と思ったりもしましたが、週1回の読書の授業のときには、ペアの子の読んでる本を読みたがったり、感想を話したりするので、ペアが機能していないように見える子たちにも、やっぱりペアはいた方がいいんだなぁと思いました。

ペア読書の成果

成果を語るには、現時点の様子を見るだけでは不十分だと思います。1年後、数年後に、もう一度この体験が読書に役立っているのかどうか子どもたちに聞いてみたいものです。

でも今見ている限りでは、今回の読書体験は子どもたちの読書へのハードルを下げ、本に親しむきっかけになったと感じています。子どもが読書をするには、自信が必要です。「ちょっと難しい内容の本が読めた」「文章の多い本も読めた」こうした経験が、次の読書へのステップとなります。

子どもたちの感想を読むと、そのような記述がとても多くありました。今までよりも長い本や難しい本を読めたこと、とてもおもしろい本に出会えたこと、ペアとの活動が楽しかったことなどが書かれていました。

ペア読書の難しさ・大変さ

子どもが本を読めるようになるペア読書。実践してみて感じた難しさや大変さについても書いておきたいと思います。

①児童書の知識

「先生のセレクトした本の中からペア読書の本を選ぶ」というのがこの活動の肝です。やはり、選書は重要ですし、子どもが本を選びに来たとき、その内容を知っておかないとアドバイスできないので、児童書の知識が必要です。今回、中学年向けに行ったペア読書では、絵本から中級・上級の児童書へのステップアップを目指しました。そのため、ある程度の長さの読み物を自分自身が読んでおかなくてはならないと思います。(読んでいないのに「おもしろいよ!」とは言えないですもんね。)

ペア読書が進んでくると、「先生が薦める本は、どれもおもしろい!」という信頼を得ることができます。「そうすると、表紙や題名には魅かれなかったけど、先生がおもしろいって言ってるから読んでみよう。」となりますから、子どもたちに信頼してもらうためにも、教師が読んだ本をペア読書で使うことが大事だと私は思っています。

②本の収集

やはり、30冊×2も用意するとなると、結構大変です。読書の授業では、本選びの時間は本屋さんに来ているような雰囲気だと先ほど書きました。心惹かれる本が無く、しかも本が入れ替わらない本屋さんだったら、足を運びたくなくなりますよね。最初は、30冊×2くらいで用意したのですが、もう少し多くの本から選ばせてあげたいと思い、毎週、古本屋や図書館を回って本をかき集めました。

子どもたちの読書の様子をみて、「あのペアには次はこの本がいいかも」みたいに狙いを定めて本を探すこともありましたし、「先生、もう少し文庫の本を増やしてほしいな」という要望に応えて児童向けの文庫本を集めたりもしました。大変でしたが、苦労して用意した本を嬉しそうに手に取る子どもたちを見ていると疲れも吹き飛びました。本を入れ替えたので、最終的に50種類くらい用意したと思います。(どんな本が人気だったかは、また今度別の記事でまとめます。)

③読書状況の把握

どのペアがどの本をどんなペースで読んでいるか、ペアが機能していないところはどこかなど、子どもたちの状況を把握しながら実践しました。最初の2週間は、ちゃんと記録を取っていたのですが、予想以上に本を貸し出しするペースが速くなり、記録しきれなくなってしまいました。

ペアごとに記録していたのですが、ペアが流動的になるにつれ、ますます記録しづらくなってしまいました。どんな風に記録を取ると効果的なのか考えていくことは、今後の課題です。

家族も読書仲間になれる

学校でのペア読書の取り組みをここまで紹介してきましたが、読書仲間になることは親でもできると私は思います。

ペア読書の授業をするにあたって、我が子たちの選書も参考にして、アドバイスをもらいました。娘が読んでいる本を借りて私も読むと「どうだった?」「どのシーンが好きだった?」と本の話題で盛り上がりました。その様子を見て、息子が「次はそれ、ぼくも読みたい」と言い出し、結局息子も読んで感想を話しました。

子どもの読んでいる本や楽しんでいる本を親も読む。これは、ペア読書と同じような効果が得られると思います。私が『かがみの孤城』を読んだ後、しばらくして夫がこれを読み、それを見て娘も読む…みたいなことがありました。すると、その本の話が家の中で盛り上がり、もっと本が読みたくなります。こうした雰囲気が読書を促し、本について話すきっかけになります。

学校の雰囲気とはまた違いますが、「買ってあげるから読みなさい」ではなくて、「一緒に読んでみない?」という感じで誘ってみたり、子どものころ読んで心に残った本を子どもの前で読んでいる姿を見せたりすることで、何か伝わるものがあるかもしれません。

終わりに

アニメやゲームのノベライズ版や、5分後シリーズなどの短くておもしろい本、キラキラした目のキャラクターが表紙に描かれた小学生向け書籍などが人気な最近の状況を見て、子どもが本を楽しむことの難しさを感じていました。刺激の強い、楽しいコンテンツが増えているこの時代、地味で労力を要する読書という営みは、子どもにとってどんどん縁遠いものとなっていくのかもしれない。そんな風に危惧していました。

でも、今回の子どもたちの様子を見たら、まだまだ読書の楽しさを子どもたちと共有できる!と勇気が湧いてきました。こうして子どもたちは生き生きと楽しそうに本を読み、語り合えるのですから、ここは大人のがんばりどころです。

休み時間に本を選んでいる子がいると、周りにワイワイ集まってきて、「これおもしろかったよー」とか、「感動するよ」とか他の子が声をかけてきます。「〇〇ちゃんも読んで、おもしろかったんだ。それなら私も読んでみようかな」みたいに本が手に取られていきます。クラスに読書の雰囲気が漂っていたこの1か月半。私自身も楽しませてもらいました。

「読書しなさい」と子どもはよく大人たちに言われます。読めるようになりたいと思っている子もたくさんいます。でも、読めるようになる手立てが子どもたちにはわからないし、周囲の大人もなかなかわからない。

だから、今回「ここにある本の中から選んで、〇日までに読む。おもしろくなかったら交換してよい。計画通りいかなくてもよい。でも、この期間、友達と一緒にみんなで読書に取り組む」みたいな枠組と細かなサポートがあったことで、読書に前向きに自分のペースで向き合えたのではないかと思いました。

また次年度もペア読書をうまく授業に組み込んでいきたいです。そして、私も児童書を読みまくって、子どもたちにおすすめできる本を増やさねば!と思っています。

長文になってしまいましたが、この活動のおもしろさが皆さんに伝わったら嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。