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裸子百花。破瓜。

今日は初めての男の話でもしようと思う。
あの時、透明なただの空虚だった私が
肌を重ねても分かり合えなくてただのすれ違いのぶつけ合

寂しい十代の傷つけ合い。


中学校への入学式の日、ウールのセーラー服は普段スカートをはかない私にはとてもくすぐったくて落ち着かないものでした。
当時、髪を限りなく短くし、ショートパンツを履いてストライプのシャツを着ていた私は、いつまでも少年でありたかったし、そんな私には制服は残酷なまでに女を象徴し、それまで忘れていた女性性を無理矢理にでも受け入れさせられるものでありました。

その日は朝からじくじくと腹痛がして、何度も何度もトイレへ行きました。長い挨拶、見渡せば髪をきれいに梳かして結んだ同級生たちに衝撃を覚えます。いつの間にか彼女たちは女への準備を済ませていて、私はというと背も低くてやせっぽちで少年のような短髪で、自分の立場と本質のなにもかもがちぐはぐしていました。教室へ移り、教科書などを配られ、帰宅の前に手洗いへ寄ると、下着には赤黒い汚れが付着していました。初潮です。

体育の授業で説明されたアレだと、気が付くまでに少し混乱があり、ついに女になってしまったのだということと、汚した下着を母親にののしられるのではないかという不安で頭がぐらりとしました。

帰宅し、ナプキンをもらい、下着を洗いながら、「ああなんて惨めで身動きの取れない弱い存在になってしまったんだろう。もっと自由に走ったりボールを投げたりしたかったのに」と涙しました。

自宅にナプキンは長時間用などなく、普通用だけで、二個縦に並べたらいいわよと軽く言う母はたぶん月経が軽かったのだろうと思います。
私は学校を休むほどに体調が悪くなってしまう重さで、生理用パンツも長時間用ナプキンも要らない母とは全く相容れることがありませんでした。
生理のたびに自分の女としてのダメさを母にののしられ、起きて学校にいけないことがつらく、ああ早く老人になって生理なんてなくなりたいとそればかり考えていました。

死にたいなんて思わない中学生がいるんでしょうか。
周りからこうして”こどもをやめろ”と囲われてじわじわ逃げ場のなくなっていくことが恐ろしくてしょうがありませんでした。

大人への、女性性への、変化することへの不安を持て余していた私は、外を散歩することで自分を保っていました。
夜、新しくできた幹線道路を飛ばす車のヘッドライトとテールランプを眺めててくてく歩くときが幸せでした。
無関係な無機物と光の中で、自分を攻撃しないものの中にいられることがひどく自分を落ち着かせてくれました。

そこを走る車には私なんて見えていなかったはずでした。
それがよかったのに。

初夏の夜、Tシャツでは肌寒いけど、もう夏めいた空気の中、家を抜け出して散歩をしていると、速度を落として近づく青い車が一台。
洗車したてだったのかピカピカに輝いて、私の知ってる車よりずっと地面に近く、なんだか速そうな車だなと思ったことを覚えています。

助手席にの窓が開いて、運転手が首を伸ばして声をかけてきます。
「こんな時間に何してんの」
言葉に詰まり碌に返事ができないでいると「家近いの?」と一言。
ぱっと視線をそらしてしどろもどろでいると、「家、嫌になっちゃった?」と見透かすような一言。「行くとこないならくれば」と言って助手席のドアを開けてくれました。

なんだか派手な車内におっかなびっくりしていると、軽くなでつけた黒髪のスウェット姿の男が「前も歩いてるの見かけたよ、何してんのかなと思って声かけてみた。」とぽつぽつ話しかけてくれます。

連れていかれた家は一軒家で「静かに入って」と廊下を通って案内された一室には何人かがすでにいて、彼よりずっと派手な見た目のいわゆるヤンキーみたいな雰囲気の人もいました。
こわごわ腰を下ろして「拾ってきた」みたいな話で私の自己紹介をしてくれて、そのあとは誰にも何も聞かれないで彼らが話すのをぼーっと聞きながら過ごしていました。

夜も更けたころ、解散になり、家に送ってもらいました。
「またきたら」という声がいつまでも耳に残っていました。

ある日散歩していると、あの時部屋にいた彼のほかの友達が声をかけてきました。誘われるがままに車に乗り、また違う家に連れていかれます。
あの時よりも派手な人たちが4人。あの時よりも猥雑な雰囲気が何となく漂っていて、たばことシンナーの匂いのする部屋は居心地が悪くて、好きな人とかいないのとか、アイツのこと好きなのとかもうヤったのかとか聞かれて、答えられずに押し黙っていました。
私に興味をなくしたのかアイツ付き合い悪いんだよなとか言いながらそれ以上聞かれないでほっとした私は、あの人はいったい何を考えて私を拾ったんだろうなと思うようになりました。


答えが知りたくて、部屋に二人の時に投げかけてみます。
「ねえ、しようよ。してみたい。」

12歳と19歳の私たち、
恋愛感情を持つにはあまりにも余裕がなく、あまりにも拙い私が発せる言葉はそれしかありませんでした。

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