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21_原作モノRPG考察 -トリブラRPGで考えたこと-

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。と『平家物語』にあります。毎年7月になると、祇園祭の季節に夭折した天才作家を思い出します。『トリニティ・ブラッド』を書いた吉田直先生のことを。アンケート結果が悪ければ打ち切りという崖っぷち企画を応援するために雑誌『ザ・スニーカー』を毎号購入してアンケート葉書を出したりしていました。一介のゲーマーとして他に何かできることはないか。そう思ったとき、魅力的なトリブラ世界観を借りてTRPGを遊ぶことを思いつきました。厳密には、サークル後輩の茨之介さんが最初に『ソードワールド完全版』を用いてGMしました。それに刺激を受けて、汎用RPG『GURPS(ガープス)』化しました。結果的に、GMとして3年間でシナリオ5本(9セッション)を遊びました。そこで、原作モノTRPGについて考察します。

・原作RPGのコンセプト

1980年代から原作モノTRPGには『クトゥルフの呼び声』『ストームブリンガー』『ジェームズ・ボンド 007 RPG』など先行作品がありました。日本TRPG黎明期に『クラッシャージョウ』や『ワープス ルパン三世カリオストロの城』など原作キャラを遊ぶ仕様のTRPGがありました(私は遊んでいません)。特殊事例では『ロードス島戦記』など、元は別のシステムで遊ばれていたリプレイから小説が書かれて派生して専用RPGルールが作られたものもあります。これらを遊んできた経験から原作モノTRPGコンセプトを整理すると、以下の3種類になります。独立ではなく並列になる場合もあります。
(1) 原作の世界観の中でPCたちが行動する。
(2) 原作キャラ(NPC)とPCたちが共演する。
(3) 原作キャラをPCにして遊ぶ。

私が『トリニティ・ブラッド』を汎用RPG『GURPS(ガープス)』で遊ぶに際して、最初は(1)番の世界観の中で独自PCたちが行動するシナリオにしました。汎用RPG『ガープス』では古代から未来世界まで様々な世界観をカバーできます。特に日本独自展開の『ガープス・妖魔夜行』や、2002年3月にアップデートされた『ガープス・百鬼夜翔』は米国版『GURPS・Supers』を元にしており、一般人では及びつかない異能力を持った超人をプレイするのに適しています。長生種、機械化歩兵、強化人間、妖術使いなど異能者を再現するために使えるデータが充実しています。
ですが『ガープス』の欠点として、キャラ作成に時間がかかることがあります。『ガープス・妖魔夜行』を遊んでいた頃は、別の日に集まってキャラ作成することや、各プレイヤーが作成済PCをストックしておくことなどもありました。そこで、最初のうちはキャラ作成ルール無しとしました。GMが『ガープス・妖魔夜行』を参考にしてサンプルキャラを作成しました。PCたちの立場についても悩みました。小説の一節に教皇庁以外にも民間人のハンターがいるという記述を見つけたので、最初はそれを採用しました。現代世界の用語で言うならば、民間軍事会社です(当時はこの用語を知りませんでしたが)。
セッションするにあたって最も重視したのはビジュアルです。説明時には「ザ・スニーカー」トリブラ特集号のカラーイラストを見せて、世界観イメージをプレイヤーと共有しました。次に、ビジュアル的なロールプレイを推奨するため、いわゆるヒーローポイントとして「VP(Visual Point)」を導入しました。美形ほど多くのポイントを所持しています。プレイヤーがVPを使用することで、ビジュアル的なドラマティックな場面を演出を促しました。

・原作RPGのシナリオ

『トリニティ・ブラッド』らしいTRPGとはどんなシナリオでしょうか? シナリオ制作にあたり、当時の既刊および「ザ・スニーカー」連載の小説を読み直しました。吉田直先生の筆致を別にして、作者でない私がGMしても再現可能な要素を調べました。
小説「トリニティ・ブラッド」の魅力とは何でしょうか? ヨーロッパの都市の街並み、優雅なゲストキャラクター、華麗なヒロイン、SF的魔導具ともいえる遺失技術などの要素が魅力の一因として挙げられます。TRPGのシナリオに活用するため、それらを書き出してみました。いわゆる三題話としてできそうです。次にストーリー構造です。教皇庁が依頼人、探索すべきは遺失技術に関する案件、敵対するのは「我ら、炎によりて世界を更新せん」と暗躍する薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツ・オルデン)です。
原作小説とTRPGシナリオとの関係性も考慮しました。原作の壮大な世界観を感じさせるには。アニメ『機動戦士ガンダム』とOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』などの派生作品や『Gの影忍』『機動戦士VS伝説巨神 逆襲のギガンティス』など外伝的漫画作品の関係を参考にしました。すなわち、正史(原作)では描かれないが、トリブラ世界であり得そうなエピソード。アベルたち小説の登場人物が関与しなかったエピソード。薔薇十字騎士団の暗躍とそれを阻止した知られざる者たち。そういうシナリオを考えました。

・セッション履歴

最初のトリブラRPGは2000年7月29日、GM茨之介さんの『ソードワールド完全版』セッションにプレイヤー参加しました。このセッションは、私がGMした前半のセッションと決定的に異なる点がありました。トリブラファンによる、トリブラファンのためのTRPGセッションでした。レオナルド・ダ・ヴィンチが関係した事件に対して、国務聖省特務分室予備部隊に所属するPCたちが協力して立ち向かいました。PC設定は、トレス・イクスの試作機や、薔薇十字騎士団を抜けた火炎魔術師、長生種、司祭など。それに空陸両用可変戦闘自動車を操る電脳調教師として吉田直先生も参加されました。
それから時を経て、2001年5月12日。サークルの新人歓迎セッションで『ガープス・トリニティ・ブラッド』を初お披露目しました。当時の既刊はR.O.M.とR.A.M.が1冊ずつ。トリブラ普及の意図を込めて、小説を読んでいない初心者も参加しやすいように配慮しました。敵キャラとして、キム・ニューマン『ドラキュラ戦記』からマンフレート・フォン・リヒトホーフェン男爵を借りたりしました。サークル内で遊んだ後、JGCフリープレイ卓、地元のコンベンションと同じシナリオを3回遊びました。吸血鬼モノが好きな人、『吸血鬼ハンターD』が好きな人、ガープスのユーザーなど幅広い人に遊んでもらえたと思います。

2001年当時は原作設定に余白が多かったので、TRPG独自設定の派遣執行官、異端審問官を出しやすかったという理由もあり、2作目は派遣執行官、異端審問官が共闘するシナリオを作りました。3作目は、薔薇十字騎士団もPCに加えて、PvPもあり得る館モノ。今では『シノビガミ』などPCが対立するシステムも普及していますが、当時はサークル内の独自文化という面もあったでしょうか。真人類帝国から逃亡した貴族を追って派遣執行官、真人類帝国監察官たちの思惑が交錯するシナリオを作りました。プレイ時期が12月だったので「ナノマシン・シンクト・ニコラス」というネタを突っ込みました。サークル内部でプレイしたときは、派遣執行官と薔薇十字騎士団のプレイヤーが2人ともトリブラのファンでありTRPG熟練者だったため、緊迫感ある対立をロールプレイして盛り上がりました。

2002年3月に『ガープス・百鬼夜翔』が発売されたので、『ガープス・トリニティ・ブラッド』をアップデートしました。グループSNE宛に投稿したりもしました。2002年の新入会員にトリブラファンが2名いると聞いて、2002年10月14日には原作キャラをPCにした原作前日談シナリオをやりました。2001年の活動と異なり、ファンのためのセッションにしました。原作では活躍が少ししか描かれなかったノエルやハヴェルを惜しんで、この2人に加えて、アベル、教皇庁に来る前のレオン、それと謎の少年DをPCにしました。例によって原作設定に余白があったので、ディートリッヒの若き頃を勝手に想像。ミノタウロスの迷宮を抜けた先で、悲劇のヒロインと遭遇する話でした。
2003年には、GMのgeneさんによる『真・女神転生誕生篇』にプレイヤー参加。レオン役で真人類帝国のアテナイに潜入するミッション。さらにGMとして、もう1回。また、前述のシナリオを2001年から2003年にJGCフリープレイ卓で遊びました。本当は、JGCなどのイベントで原作者をプレイヤーに招待した特別セッションをやりたかったのですが。かなわぬ夢となりました。

・『ブルーローズ3055』

もはや小説応援企画をする意味がなくなったということで、普及セッションを終えました。しかし、トリブラ世界観が魅力的であることには変わりありません。2006年には『ブルーローズ3055』として、少し別の切り口からセッションを行いました。トレジャーハンターをテーマにしたRPG『ブルーローズ』のヴァリアントルールとして整え、2回遊びました。過去記事から発掘して、下記に紹介します。

「いつの時代も未知の世界を求めて旅立つ者がいる。人は彼らを冒険者と呼んだ」

冒険者が活躍するのは『ソードワールドRPG』などのファンタジーRPGだけではありません。危険な秘宝は現代世界にも存在します。そして、未来にも。

遠未来の冒険者『ブルーローズ3055』
約千年後の未来の地球。人類の文明が一度滅亡しかけて復興しつつある世界だ。そんな世界で秘宝・発掘品として扱われるのは我々21世紀の人間(プレイヤー)がよく知る製品であったり、21世紀中に実現可能と予測される科学技術だったりする。

1.概要
22世紀、火星まで到達した地球人類は異星人の古代文明を発見した。しかし、その利権を巡って地球で最終戦争が勃発した。核兵器、細菌兵器などの大量破壊兵器により人類は存亡の危機に陥った。危機を救ったのが火星植民計画からの帰還者たちであった。だが、吸血鬼へと変化した帰還者と地球人との間に争いが起き、暗黒時代(ダークエイジ)がはじまった。教皇の前に聖女が降り立ち、人類は力を結集して吸血鬼を辺境へ追いやった。
そして数百年が過ぎた。時に、西暦3055年。人類の文明レベルは20世紀初頭レベルまで回復していた。教皇庁の絶対的な権力は衰え、ヨーロッパ諸国が国力を回復しつつあった。さらに進んだ科学技術を得るため、各地に残された旧時代の遺物を探し、発掘復元していた。新興の工業国ゲルマニクス王国は、ヨーロッパ諸国の力関係で優位に立つため、特に遺失技術の発掘に力を注いでいた。
ベンチャー企業ローゼン商会も、ゲルマニクス王国で遺失技術を探すトレジャハンターの集まりである。夢と希望を胸に抱き、冒険が始まる。そんな冒険者たちの探索の果てに何が待つのか。

2.用語
「ローゼン商会」
ゲルマニクス王国にあるベンチャー企業。代表取締役は、20歳の才媛ヒルダ・ローゼンブルク。本社所在地はユーバー・ベルリン、王国内の主要都市に支社が有る。業務内容は遺失技術の発掘復元。特に、遺跡の現地調査を主要業務としている。いわゆるトレジャーハンターである。ヒルダ自身も現場に出ることが多い。また、ゾディアック7と呼ばれる、外部の有力者たちと謎のコネクションがある。ヒルダ社長は騎士団の一員ではないかという噂もある。

「教皇庁」
暗黒時代に人類のリーダーシップをとり、吸血鬼と戦った。以後、人類社会に絶大なる影響力を持っている。

「大災厄」
22世紀頃に、核兵器、細菌兵器などの大量破壊兵器により人類が滅亡しかけた事態。

「吸血鬼」
大災厄後の地球に現れた、超人的身体能力を持つ種族。伝承の吸血鬼とは異なり、伝染性をほとんど持たない、十字架やニンニクも効かない。大多数は辺境に移住したが、人類圏に隠れ住む者も残っている。

「長生種(メトセラ)」
吸血鬼は自分たちをこう呼ぶ。

「真人類帝国」
21世紀でのトルコ辺りに位置する、長生種たちの国家。

「電動知性(コンピュータ)」
遺失技術の中でも特に高度で謎が多い。電脳調律師という専門技術者のみが扱うことができる。

「強化人間(チューンド)」
遺失技術による薬物によって身体能力を強化された人間。吸血鬼に対抗できる能力を持つ者もいる。

「魔女」「妖術使い」
大災厄前のテクノロジーで遺伝子調整された異能者の末裔たち。テレパシー他の超能力を使うことができる。能力には個人差が大きい。細胞配列を変換して半獣半人形態になれる「獣人」という種類も存在する。

「騎士団」
ゲルマニクス王国の有力者たちの間で公然の秘密となっている組織内組織。軍事技術や情報面で王国を援助している。この組織に関わらないと、王国内での出世は望めないらしい。

3.基本設定
【文明レベル】
基本的な技術:20世紀初頭
遺失技術:大災厄前の科学技術を発掘復元した技術あり(22世紀相当)
超技術:暗黒時代に聖人が起こした奇跡や、真人類帝国の持つ遺産。

【地勢】
ヨーロッパ地域:教皇庁領を中心に、工業国ゲルマニクス王国やアルビオン王国が力を持っている。次いで、教皇庁領寄りの政策を行っているヒスパニア王国、農業国フランク王国などが有力国である。
東ヨーロッパ地域:真人類帝国がギリシア・トルコに相当する地域を領土としている。人類圏と接する辺りは緩衝地域となっている。
ロシア・シベリア地域:大災厄の際に何かあったらしく、人間の生存が望めない絶滅地帯(ダークランド)となっている。
アフリカ大陸:北アフリカは真人類帝国と人類圏の勢力範囲にあるが、中央アフリカ、南アフリカには人知の及ばない地域が多数ある。赤道直下に軌道エレベーターが存在するという説もある。
アメリカ大陸:大災厄の際に壊滅した。
アジア、オセアニア:状況不明。大災厄の際に激しいダメージを受けたと思われる。
日本:大災厄の頃に日本列島は海の底に沈没し、その民族は難民となって世界各地に散らばった。

【カルチャー】
民族:ゲルマン民族、アングロサクソン、ラテンなどヨーロッパ系。アジア系アフリカ系人種はほとんど見られない。
宗教:人類圏ではキリスト教のみが残っている。ただし、異端派などは存在する。長生種は無宗教らしい。
言語:人類圏ではローマ公用語が通じる。真人類帝国では帝国語が公用語。
貨幣単位:人類圏の貨幣単位は「ディナール」で、1ディナール=約100円。
食文化:現代と同様のものがあると考えて大きな問題はない。
交通事情:鉄道、飛行船の定期航路あり。自動車、バイクは貴重品。

【略史】
22世紀、大災厄(アルマゲドン)により世界が壊滅しかける。
23世紀、人類と吸血鬼の闘争はじまる。暗黒時代(ダークエイジ)
2250年、東欧に逃れた長生種が真人類帝国を建国。
2401年、西側の長生種の国を滅亡させ、教皇庁の勝利宣言。聖歴元年。
2792年、第十一次十字軍、教会軍の惨敗。
2948年、帝国軍と人類軍、最後の国境紛争(この後、百年間は両軍の戦いがない)。
3045年、ゲルマニクス王国がオストマルク公国を併合。
3055年、教皇グレゴリオ30世没。11歳の少年アレッサンドロ18世が教皇に。
3057年、モロッコ独立戦争、ヒスパニア軍に鎮圧される。
3058年、ボヘミア公国でフス派異端軍の反乱、教会軍が介入して鎮圧(ボヘミア戦役)
3060年、ボヘミア公国ブルノで新教皇庁の反乱事件(第二次ボヘミア戦役)
3064年、アルビオン王国の女王ブリジット2世没(享年65歳)。新女王が即位。
3065年、プラークの悲劇
3066年、第十二次十字軍

4.参考資料
この世界観は、吉田直先生が遺した著作を基にし、TRPG世界観として使うにあたって不明点に対して独自解釈を付加しています。原作使用80%、追加設定20%くらいでしょう。正確な設定を確認したい場合には『トリニティ・ブラッド Canon 神学大全』を参照してください。

『トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星』
以下、R.O.M.シリーズ6冊
『トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons フロム・ジ・エンパイア』
以下、R.A.M.シリーズ6冊
『トリニティ・ブラッド Canon 神学大全』

以上、小説12冊と遺稿集&用語事典1冊を参考にしました。世界観の独自性と魅力が高く、一過性のブームとして忘れ去られるのはあまにりも惜しいことです。TRPGへの適性も鑑み、背景世界として使いたいと思います。『クトゥルフの呼び声』『ストームブリンガー』など、優れた作品がTRPGへと転化する前例もあることですし。

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