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41_不完全情報ゲームとフェルミ推定

機動戦士ガンダムの1/1立像が東京お台場に立ったのは2009年でした。ガンダムを知らない人も含めて多数の観光客が訪れたそうです。私はいつ行こうか迷いながら、公開終了間際の2009年8月29日(土)に観に行きました。その日の午後、東京タワー近くの機械振興会館で細谷功氏の『フェルミ推定で鍛える「地頭力」』講義を受講しました。講義を振り返って2012年に書いた文章をそのまま公開します。

◆フェルミ推定の考え方を問題解決に生かす

 フェルミ推定を知って、「正解のない問題」に対して抽象化と仮説で考えることの重要さを学んだ。特に、限られた時間で物事の推測を要する場合に役に立つ。
 現実に起きる技術的問題を解決するにあたり、一つの障害として情報不足がある。情報収集にばかり時間をかけられない場合や、情報収集の手段が不十分な場合だ。情報不足を理由にわからないと言ってしまうこともできる。しかし、手持ち情報から推測するために、前提条件を自分で決めればいい。条件を考えると推定が可能になる。また、問題構造を抽象化して考えることで、骨組みの似た別の問題を参考にすることもできる。

 フェルミ推定の思考法が役に立つのは問題解決だけでない。情報を解析して立案した対策についても、実施前の段階ではどれほどの効果を挙げるのかわからない。とにかく実行してみるのも一つの手段ではあるが、フェルミ推定を使えば実行前に効果を試算できる。仮説とはいえ定量的に示すことができる。
 業務などで現実に直面する問題では、いかに品質向上に効果がある対策でもコストや納期との兼ね合いを考えなければならない。費用対効果を明確にしたうえで上司や関係部門を説得しなければならない。条件を設定して試算し、実際に効果があるのかを事前に推定した上で定量的に理論を固めれば、実行の承認を得るために役に立つ。

 現実に直面する問題には前例のない場合もある。だが、抽象化したり仮説を立てたりすれば、過去の事例から何らかのヒントは得られる。想定は可能である。だから、事後に想定外と言うのではなく、フェルミ推定などの思考方法を活用して、事前に十分想定していこうと思う。

◆付記

私が中堅技術者向けの自己啓発と交流を目的としたNPO団体に参加してから約20年になります。上記の文章は、10年目の区切りとして2012年に提出したものです。「これからの仕事上に、どのような形で生かしていくか、自分の取り組む考え方を述べなさい」という課題を出されて、それまでに受講した講義やゼミの中から「フェルミ推定」を選択して記述しました。2012年3月1日に提出すると、添削されて2012年6月に返送きました。書き直して、2012年11月24日に再提出しました。ありがたいことに「指導してあげますから」と赤文字で添削された経験は久しぶりのことでした。

しかし、「フェルミ推定」を活かせる場面は仕事だけではないです。思考法は量的な推定だけでなく質的な推定にも応用可能です。ゲーム区分のひとつに、完全情報ゲーム/不完全情報ゲームがあります。課題に書いた「現実に起きる技術的問題を解決するにあたり、一つの障害として情報不足がある」という文章は「ゲーム内で起きるイベントを解決したり、ミステリを解くのに、一つの障害として情報不足がある」と言い換えることが可能です。マーダーミステリーやTRPGの調査型シナリオ、あるいは『シノビガミ』対立型シナリオを遊んでいるとき、情報収集不足でも決断が必要な場面が起こり得ます。プレイヤーは全ての情報を完璧に獲得することはできません。情報の取りこぼしは想定内の状況です。情報が足りないと言って思考停止したり嘆いたりするのではなく、入手できた情報をもとに仮説を立てて推理を行えばいいのです。推理する、まさにミステリーの醍醐味です。

シャーロック・ホームズ曰く「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」(When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.)