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72_TRPG世代論『ダブルクロス』世界観の拡張

『ダブルクロス』が提示した概念のなかで革新的だったのは、一つのルールブックで複数の世界観を遊べることです。基本的には現代日本を舞台にした異能モノTRPGです。それが、ヨコに広がり、世界各地を舞台にして遊べます。タテに広がり、歴史上の様々な時代を舞台にして遊べます。さらには、パラレルワールド、別の世界観でも遊べます。『クトゥルフ神話』世界で異能モノを遊ぶことも可能です。

◆複数組織が対立する世界観

『ダブルクロス3rd』の基本的な世界観は、現在より溯ること約20年前。中東の某国にて、古代文明の遺跡が発掘されたことに始まります。発掘品や研究資料を載せた輸送機が何物かにより、高度1万2千メートルで撃墜されました。その発掘品の中にあった未知のウイルスが気流に乗って世界中に拡散。それから世界各地で奇妙な事件が多発するようになります。世界中の大多数の人間が感染し、無症状のうちは無害ですが、いちど発症すると超常能力を使うようになります。発症者の多くは力が暴走してしまう危険性があります。『ダブルクロス3rd』のPCやNPCはその未知のウィルス「レネゲイドウィルス」に感染して発症した者たちです。すなわち、敵も味方も異能力の由来は同じです。自我があるか無いか、あるいは自我があっても個人の欲望のために異能を使うか人類を守るため平和のため使うかが敵NPCとPCたちとの違いです。
 現代を舞台にしたダブルクロス世界観では複数の組織が対立または協調しています。組織により「レネゲイドウィルス」や発症者(オーヴァード)に対しる態度が異なります。

FH(ファルスハーツ)

「オーヴァードで構成された国際テロ組織でレネゲイド犯罪を支援している」と言われます。その実態は、オーヴァードの欲望に忠実に自由に生きることを肯定。例えば、欲望が人助けや世界平和ならば、味方になり得ます。しかし、大半は個人利益を追求する者なので、一般的に敵対組織として扱われます。他のTRPGに例えるならば『ソード・ワールドRPG』のフォーセリア世界における暗黒神ファラリス信仰に近いと思います。首謀者、目的、規模などは謎。UGN創設後に行方不明になっていたコードウェル博士がFH幹部に就任し「UGNの破壊」を公言しています。

UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)

秩序の守り手です。よくある勘違いは(自称)正義の味方ですが。レネゲイドウィルスの存在を隠蔽し、犯罪事件が起きたら解決のため行動します。解決後に情報封鎖や記憶操作も行ないます。もともとは「人類とオーヴァードとの共存」を目的に設立されました。事件解決のほか、オーヴァードの保護育成や研究開発も行なっています。アメコミ『X-MEN』における「学園」と同じようなもの。創設者が死亡した後に、各国政府に大きく介入され治安維持組織の傾向が強まっています。

ゼノス

人間とは異質の存在レネゲイドビーイングによる組織。神出鬼没、正体不明。レネゲイドビーイングは「人間を理解したい」という欲求を持ち、人間社会に潜伏して活動しています。ざっくり言うと、妖怪のような存在と例えられます。

神城グループ

日本を代表する巨大企業グループ。「レネゲイドウィルス」の研究部門を極秘に持っています。

他にも軍事組織や警察機構のなかに「レネゲイドウィルス」を担当する部門があったり、異能力者で構成された特殊部隊があったりします。マフィアやヤクザなど犯罪組織も武器の一種のように異能力を使います。

◆世界観を拡張する「ステージ」概念

『ダブルクロス2nd』のサプリメント『アルターライン』(2004)で、3種類の舞台が紹介されました。それ以降も『アウトランド』や『ダブルクロス3rd』のサプリメント『ディスカレードレルム』や単体サプリメントで遊べる世界観を増やしています。

平安京の退魔師

 新たな舞台の一つ目は、平安京です。ウイルスという概念のない時代ですが、鬼や妖怪変化もレネゲイドウイルスに感染した者です。陰陽師や衛士などの退魔師もまた、ウイルスの力を使える者です。力を悪用した政治闘争など、裏表ある事件を解決します。この時代、女性キャラクターは特殊な立場にあります。登場する場合は貴族の屋敷内で探索したり、仲間を指図する安楽椅子探偵のような立場になるでしょう。

魔界都市

 現代世界の封鎖された街、デモンズシティです。ウイルス感染者が大量発生し、日本政府と米軍の介入によって周囲から隔離されました。「市外」と異なり、ウイルスと能力者に関する情報が公開された街では日常的に危険な抗争が発生しています。そして、デモンズシティのもう1つの特徴は電波封鎖によって携帯電話とインターネットが使用できないことです。便利な道具の使用を制限され、通信環境が一昔前に逆戻りした世界も一興でしょう。なお、有力組織は緊急の連絡に使い魔の伝書鳩を飛ばします。余談ですが、この街の設定はTRPG『トーキョーN◎VA』の影響を受けているそうです。

MMO

 大規模ネットワークゲームの中の世界です。キャラクターはログインしたままログアウトできなくなり、その原因を探るためファンタジーRPGの世界をさまよいます。能力者であることに変わりはないのですが、職業はファイター、シーフ、プリースト、メイジ、エルフ、ドワーフといった別のTRPGを想像させるものになります。悪の魔術師やドラゴンと戦い、アイテムを探し、情報を集め、現実世界に戻るために冒険をします。

「陽炎の戦場」

黒海沿岸の架空の小国を舞台に傭兵部隊を扱う「陽炎の戦場」。3版のサプリメントにも収録されています。2022年から2023年5月現在、この地域での紛争テーマが現実的すぎて遊び難いです。個人的には、鉱山から発掘される架空元素「ダキウム」設定が他ステージでも流用できて気に入っています。

ウィアードエイジ(1930年代)

「リプレイ・トワイライト」も執筆されて大人気なのが「ウィアードエイジ」です。第二次世界大戦前年の欧州で冒険活劇を楽しめます。舞台は欧州に限りません。ざっくり言って映画『インディ・ジョーンズ』や漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第2部のような舞台です。私は上海シナリオで波紋使いを遊んだことがあります。

エンドライン

特殊な世界観が「エンドライン」です。基本ステージのパラレルワールドに位置付けられて、FHが世界を支配した世界観です。理想郷あるいはディストピアでレジスタンスとなって支配者と戦います。

巨大学園「オーヴァードアカデミア」

『ダブルクロス3rd』で紹介された新たなステージで特に人気なのが「オーヴァードアカデミア」です。太平洋上の孤島に設立された巨大学園。異能力の存在を隠蔽せず、一般人と異能力者が共に学ぶ社会実験といわれます。1990年代に多数のクリエイター志望者が参加した「蓬莱学園」や「アスティカシア高等専門学校」(機動戦士ガンダム 水星の魔女)、『STAR DRIVER 輝きのタクト』などを彷彿させます。

歴史のif

ほかにも『オーバークロック』ではタイムパトロールやタイムスクープハンターの概念を導入できます。平安京の再録、アーサー王と円卓の騎士の時代、シャーロック・ホームズが活躍する19世紀末ロンドンなどの時代で遊べます。

「クトゥルフ神話」世界観

ここまではステージ集サプリメントでしたが、1冊単体で追加世界観を紹介したサプリメントもあります。「クトゥルフ神話」世界観で遊ぶ「クロウリングケイオス」では、異能力が邪神に由来します。忌まわしき力を持ち、一般人からも忌避される存在となりながら、神話的恐怖と戦います。

ヒーローステージ

21世紀になってアメコミ人気が高まったことに影響を受けたと思われるのが、ヒーローステージ『レネゲイドウォー』です。PCたちはヒーローとして活躍し、ヴィランと戦います。功績ランキング制度は、アニメ『TIGER & BUNNY』そのものです。
 サプリメントで世界の広がりを感じさせる『ダブルクロス』の世界観ですが、ステージ集だけでなく、FHとUGNの2大組織について紹介したサプリメントもあります。世界各地での活動状況についても書かれてれており、UGN南極支部という設定もあります。

ビギニングエイジ(公式設定+独自解釈)

レネゲイドウィルスが全世界に拡散したのは約20年前です。未知のウィルスの恐怖、後手に回る公的機関の対応。混乱の時代、UGN設立前の歴史はルールブックやサプリメントに記述されています。その隙間で起きた事件を想像してはいかがでしょうか。有名NPCの若い頃を想像するのも遊び方の一つとして面白いです。私は、UGN日本支部長の学生時代を2回扱いました。一度は、キャンペーン中盤の敵役として(単発シナリオに変換して、JGCフリープレイ卓でも立卓)。2回目は、PC1に担当していただきました。

忍法帖(独自設定)

 現代だけに限りません。ウイルスが全世界にばらまかれる以前、特殊な一族が秘密を継承し守っていたのかもしれません。日本の戦国時代、一般の常識からは信じられない運動能力や特殊戦闘力をもった者たちがいました。それぞれの隠れ里で技を研鑽し、依頼主の要請に応じて特殊な任務をこなし、闇に生き闇に死した者たち。「忍者」の能力もウイルスに起因するものではないでしょうか。鋭い剣でかまい太刀を発生させる、毒の息吹で愛した男を殺す、風景に溶け込み姿を隠す、誰にでも変装してしまう、何度死んでも蘇生する、鳥獣虫を自在に操る、体内に隠し武器を仕込む、重力を無視して宙を舞う、仮面からレーザーを発射する、怪生物を召喚する、獅子に変化する、猛禽のような風貌に変身する。レネゲイドウイルスの能力者ならば、『ダブルクロス』のルールならば、こういった「忍法」を再現することも可能です。

◆私たちはこうして『ダブルクロス』を遊んだ

私は前述した「忍法帖」世界観で6回くらい遊びました。互いの【秘密】を持ち、一枚岩でないけれど共通の敵と戦う忍法帖。JGCのフリープレイ卓で遊んだときは、隠れ切支丹PCの見事な殉教に心を打たれました。大河ドラマ『真田丸』の頃には、真田家を助けるシナリオや、大阪冬の陣で真田丸と戦うシナリオを遊びました。現代編では、陽炎の戦場での鉄華団シナリオや、南極でショゴスと戦うシナリオも印象深いです。なぜか、南極では最後に狂気に陥るPCが1人いるという恐怖。ヒーローステージでは派手な話をしたいと、落下してくる隕石を破壊するクライマックス。後輩が巨大学園を気に入っていて、キャンペーンにプレイヤー参加しました。生徒会の秘密兵器として3m級のロボットを開発していました。
「現代異能モノ」と言われながら、多種多彩な遊び方を公式サポート側から提案されているのが魅力の一つです。特殊能力を持たない一般人PCを遊ぶ点では他のTRPGシステムが向いていますが、異能モノという一般人より強いPCを遊ぶ点では、最も適したTRPGの一つです。