窮地に陥ったバイデン氏を救えるのはバイデン氏自身でしかない。しかし、それも難しいらしい。

24年6月30日改訂版

日本時間の6月28日に開催されたバイデン氏とトランプ氏の討論会をしっかりご覧になった方なら多分感じたであろうことがある。

それは認知障害を起こし始めた高齢者の所謂“まだら状態”にバイデン氏も陥っているのではないかという危惧だと思う。勿論、あくまでも印象に過ぎない。しかし、討論会でのバイデン氏の酷いパフォーマンスとのっぺりとした表情に、この“まだら状態”に実際に接したことのある方々は“共通点”を見出したとしても不思議ではない。筆者もその一人である。

繰り返しになるが、あくまでも印象に過ぎない。しかし、バイデン氏の支持者達からは「見るに堪えず、途中でテレビを消した」とか「悲しみを通り越していて痛みさえ感じた」という声が直ぐにあがった。民主党関係者からはバイデン氏に選挙戦からの撤退を求める声も相次いでいる。

この危惧を払拭できるのはバイデン氏自身でしかない。あのパフォーマンスは風邪気味で体調が悪かったせいで起きた一時的なもので、根本的な問題ではないと有権者に納得させるには、バイデン氏自身が今後老いを感じさせないパフォーマンスを続け、大統領職に耐えうる能力を保持していることを証明するしかない。

ただ、そもそもアメリカ大統領選挙に於いて、候補者が大統領たる能力を今も保持しているか否かが最大の争点になること自体悲しいことなのだが、それは兎も角、数千万人が視聴したと言われる討論会でのイメージをバイデン氏がこれから覆すのは容易ではない。

思い起こせば、バイデン政権関係者でさえ“もしトラ”に備え始めている兆候はあった。アメリカの外交政策全般に詳しいある関係者が、つい先日、次のように言っていたのだ。

「国務・防衛・商務省などの関係部省庁で、アメリカの同盟関係や関係国とのパートナーシップを“トランプ耐性”のある強固なものにしようとする努力が続いている。目指すゴールは、より深い関係と様々な共通議題を最大限確立することで、協力プログラムと意思疎通のチャンネルを組織化し、どんな政権交代にも耐え得るようにすることだ。トランプが対中・対露政策ばかりに注力し、パートナーとのチームワークを疎かにすることを私達は危惧しているのだ」(要旨)

もともと同盟強化はバイデン政権の旗印の一つなのだが、彼らがバイデン氏再選を疑っていなければ、このような言い方はしなかっただろう。

バイデン政権の外交政策全般を取り仕切るブリンケン国務長官とサリバン補佐官はバイデン氏が上院議員時代からの側近中の側近である。バイデン氏に連日のように接している筈である。その彼らも、次の政権を意識し、このような行動を始めているのだ。

これには同盟国も呼応している気配である。所謂インナー・サークルと呼ばれる大統領に極めて近い立場に居る人々を除けば、アメリカ大統領とサシ、もしくは、少人数で、定期的に話し合うことが出来るのは同盟国の首脳である。彼らはバイデン氏に、時折に過ぎなくとも継続的に接しているのである。そして、“素のバイデン氏”の最近の状態を相当理解していても不思議ではない。

推測に基づくに過ぎないが、バイデン氏の状態と選挙情勢に対する楽観はもはや無責任とさえ言えるかもしれない。

となると“撤退論”が力を帯びてくるのもやむを得ない。

しかし、ワシントン・ポスト紙の報道によれば、バイデン氏やジル夫人、インナー・サークルの面々には、民主党非バイデン派に対し、怒り、というより、筆者からみれば、ある種の恨みとも言える感情があるらしい。

というのは、かつてバイデン氏が何度大統領選にチャレンジしても党は彼を支持しなかった。それに加え、2016年の選挙の時でさえ、オバマ大統領の後継として、本来、民主党が担ぎ上げる最有力候補であるべきだった当時のバイデン副大統領を推そうとせず、非バイデン派はこぞってヒラリー・クリントン氏を支持したからである。

挙句、トランプ大統領の誕生を許し、その責任を負う非バイデン派は、前回2020年の選挙で漸くバイデン氏担ぎ出しに動いたのだが、バイデン陣営はクリントン派やオバマ派、そして、左派に対して、実は、今も複雑な感情を抱いているらしい。そして、今回、いち早く“撤退論”をぶち上げた民主党関係者の中に、クリントン夫妻やオバマ夫妻の元参謀やスピーチ・ライターなどの面々が目立つことにも留意する必要があるらしい。

これまた推測の域を出ないが、「また、ジョーを切り捨てる気か?」とバイデン氏の身内が怒っていても不思議ではないからである。

しかし、身内ならばこそ、バイデン氏の現在の本当の状態が分かる筈である。あくまでも“もしも”であるが、もしも、あのパフォーマンスが一時的な体調不良のせいではなく、高齢化に伴う能力低下によるものならば、バイデン氏と陣営は、感情を脇に置いて、名誉ある撤退を真剣に検討すべきだろう。万が一、能力低下を認識していながら突っ走るとすれば無責任の極みである。

討論会後、バイデン氏は「私は真実の伝え方を知っている」と宣言し、トランプ氏との違いを強調している。バイデン氏にはその言に違わぬ行動を貫くことを願うばかりである。

或いは、この稿が完全なお門違いであることを願っている。

と、ここまで書いた初稿を掲載したらワシントン在住の事情通氏からメッセージが来た。そこにはこう記されていた。

「悲しいことにバイデンは選挙戦を続けると思われる。そして、敗北するだろう。大惨事だ」


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