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新宿毒電波通信 第二号「新宿幻影」


新宿幻影「鬼の葬儀」 中野沙羅

鬼の葬儀

中野沙羅

 もう何年も会っていない父方のババアが北新宿で死んだ。口からヘドロみてえな激臭がするから、会うたびに近づいてくんなババアって思っていたけど、死んでぽっかり開いた口からは、なにもにおわなかった。
 葬儀は叔父がしきった。遺影がなぜか、法廷画タッチの鬼のイラストだ。おれはババアの顔を覚えていなかったけれど、さすがにこんなんじゃないんじゃないの、と伝えた。でも、父も母も親族も気にしなかったので、そのまま過ぎていった。
 焼き場は立川とかの方なのかなと思ったら、新宿西口らしく、おれ達は喪服のままぞろぞろ歩いて行った。業者が遺体をクレーンで吊り上げ、バスターミナルの前のデカいパイプにババアを放り込んだ。同時進行で、若い女やデブの男の死体もぽんぽん入っていくのがおもしろかった。途中で見るのに飽きて、高島屋でオムライスを食って戻ると、赤く燃えるパイプの中から絶え間なくカラスが出てきて、どっかに飛んでいった。新宿ではぜったいに死にたくねえなあと呟くと「今はどこもこんなもんよ」と野太い声が言う。振り返ったけど、そこには誰もいなかった。


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