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【記者コラム】記事のエッセンス

師走、忙しい季節になると思い出す。私がにいがた経済新聞社に入社して、まだ数ヶ月の頃。特集記事の原稿がなかなか書き終わらなかった。そんな時、当時の社長兼編集長から言われた言葉がある。「時間をかけていい。そのうち本当に必要な内容だけが抽出されてくる。そのエッセンスを記事にしろ」。

仕事を抱え過ぎていた私を励ましただけかもしれない。実際、その後「仕事が遅い」と何度かお叱りも受けた。私自身も現在は、執筆は早いに越したことはないと思っている。当然、早く手をつけたほうが書きやすいし、ネタにも鮮度がある。早く掲載したほうが、インタビューの相手方も嬉しいだろう。前提として、雇われている立場なのだから、いつまでも成果物を出さないわけにはいかない。

だが、当時の社長の言っていたことも痛感している。そもそも、文章を書いている時に悩まないことなど無い。記事の方向性が定まらず、後の構成を考えながらとりあえず序文を書いたり(だいたい後で書き直す)、追加で質問や調査が必要になることもある。毎分のように筆は止まるし、時間をかけた一段落を泣く泣く削ることもしょっちゅうだ。そのようにして模索しながら、大量の資料とコメントを自分の脳で濾過し、エッセンスを抽出していくのだ。

2023年は生成AIが飛躍した年であった。紛れもなく、産業の歴史が一歩進んだだろう。私も食わず嫌い気味ながら、少し触れてみた。だが個人的な感覚として、生成AI利用時の心理は「結果ありき」な印象がある。イデア的な完成品に近づけるために、あれこれ指示を考えるのに苦心する感じだ。定型的な記事であれば大いに役立つ。だが、上記のような帰納法的な記事制作の中では、用途はかなり限定されている。

それで良いのだろう。テクノロジーによって思考停止気味でやっていた作業が減り、より本質的な業務に注力できるようになれば。逆に言えば、効率化が進めば仕事は本質が重要になる。記者で言えば、文章も企画も思考することを止めてはいけない。抽出したエッセンスを薄めるようなことはあってはならないのだ。

そんな年の暮れらしいことを書いて、2023年最後のコラムを終えたい。これ以上書くと、現在執筆中の原稿が年内に終わりそうにないので。

上古町商店街(2020年10月撮影)。私が入社した当時、にいがた経済新聞の事務所は上古町にあった

(編集部・鈴木琢真)

にいがた経済新聞 2023年12月17日 掲載


【にいがた経済新聞】

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