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わかるようでわからない「食料自給率」のこと

国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことを「食料自給率」といいます。

TVや新聞などの各種報道で目にすることがあると思いますが、気にしながら生活をされてる方や食料自給率を実感を持って意識して生活をしている方は決して多くはないのではないでしょうか。

本来食べられるのに廃棄される食品のことを「食品ロス」や「フードロス」と呼びますが、それらと関係がありそうな気がします。また、SDGsで持続可能な社会を目指す上では知っておいたほうが良さそうな言葉のように思えますが、イマイチわからない点もあるのではないでしょうか。

そこで今回は食料自給率について解説していきたいと思います。

食料自給率とは

「食料自給率」とは、私たちが食べる「食料」を「自給している割合(率)」のことです。

「自給している割合」とは、「日本全体に供給された食料」に占める「日本で生産した食料」の割合ですが、「食料」には米や麦、肉、魚介類、野菜、果物など様々なものがあります。そこで、これらを品目毎に分類して、国内で生産している量や輸入している量を把握し、自給率を計算しています。

また「食料」には、日本人が口にする「全ての食べ物」が含まれます。

たとえば、スーパーや商店等で売られている生鮮品や加工食品、レストラン等での外食に使用される食材、輸入される原料や加工食品、お菓子類やジュースなども含め、日本で流通している全ての食料が対象となるのです。

食料自給率には単純に重量で計算することができる品目別自給率と、食料全体について共通の「ものさし」で単位を揃えることにより計算する総合食料自給率の2種類があります。

総合食料自給率は、熱量で換算するカロリーベース金額で換算する生産額ベースがありますが、畜産物については輸入した飼料を使って国内で生産した分は、総合食料自給率における国産には算入していません。

日本の食料自給率は、自給率の高い米の消費が減少し、飼料や原料を海外に依存している畜産物や油脂類の消費量が増えてきたことから、長期的に低下傾向で推移しているものの、カロリーベースでは近年横ばい傾向で推移しています。

図01_食料自給率の推移_農林水産省『日本の食料自給率』より

カロリーベース総合食料自給率

カロリーベース総合食料自給率は、基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)を軸に、供給される熱量(総供給熱量)に対して日本国内で生産された食品の割合を示すものです。

カロリーベース総合食料自給率(令和2年度)=1人1日当たり国産供給熱量(843kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,269kcal)=37%

上記の計算式は「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」に基づいて、各品目の重量を熱量(カロリー)に換算したうえで、それらを足し上げて算出されています。

生産額ベース総合食料自給率

生産額ベース総合食料自給率は、経済的価値に着目し供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示すものです。

生産額ベース総合食料自給率(令和2年度)=食料の国内生産額(10.4兆円)/食料の国内消費仕向額(15.4兆円)=67%

上記の計算式は「生産農業所得統計」の農家庭先価格等に基づき、各品目の重量を金額に換算したうえで、それらを足し上げて算出されています。(農林水産省『日本の食料自給率』より

このカロリーベースと生産額ベースで比較すると、カロリーベースが低くなっています。これを受けてか、日本国内の報道等で話題になる場合、カロリーベースの食料自給率を引き合いに出されることが多く、この数字を引き上げることが日本の農業を救うことであると説明されます。(農林水産省『日本の食料自給率』より

日本の食料自給率は低いのか

上記の図と文章で触れている通り、農林水産省の発表によれば2020年度(令和2年度)の日本の食料自給率は37%(カロリーベースによる試算)と、横ばいながらも年々下がっています。

これを日本で食べられているもののうち、37%が国内で生産されたもので、残りの63%は海外からの輸入に頼っていると、大まかに解釈してしまっているだけでなく、日本の食料自給率は主要先進国のなかでも最低の水準である事実を合わせ「日本の食料自給率は低い」とされます。

これは日常的な食料品を輸入に頼ってしまっては戦争などの有事が発生しようものなら食糧不足から食糧危機に追いやられるのではないか、という点を危惧した考えだと言えるわけですが、カロリーベースで計算する食料自給率には欠点があり、それは「カロリー」での算出することです。

どういうことかというと、カロリーベースの食料自給率だけを見てみると日本で野菜が生産されていない、もしくは輸入に淘汰されてしまっているような印象を受けますが、日常の食品を買うためにスーパーなどに行き、外国産の農産物が目に入る機会は多いのかというと決して多くはありません。

実際、生鮮野菜の購入数量については特に変化していません。おそらく、日常の食卓で外国産の野菜が出てくることも多くなければ、それを食す機会も多くはないはずですが、同時に、それを特に意識することもないのではないでしょうか。

図02_生鮮野菜購入数量・価格、購入金額の推移_農畜産業振興機構より

食卓で食べる野菜の総量が特に変化していないことを前提に、確認したいことが一点あります。野菜はカロリーが高いでしょうか、それとも低いでしょうか。そもそも食品におけるカロリーが高いのは「油」と「糖質」であることは誰もが知っていることかと思います。

生鮮食品は、そのどちらにも属しません。上で購入総量が増えてもいなければ減ってもいないことを踏まえると、何がカロリーを高めることに貢献してくれているのでしょう。

調べてみると、第二次世界大戦後、日本は当時のアメリカとの交渉において「小麦を輸入すること」を求められます。名目上は食糧不足によって栄養状態が芳しくなかった子どもたちの命を守るために小麦を無償提供するアメリカ側の好意だと受け止めることができます。

反面、アメリカでは余剰生産された小麦のはけ口とするだけでなく、将来的な小麦の購買顧客として日本を見ていたことが給食の歴史と終戦後の歴史を見ていくと理解できます。

全国学校給食会連合会

ここから小麦を利用したパンやうどん、パスタなどの食品流通が増えていくことになりますが、昭和40年当時の日本における食料自給率73%であったことと上記の流れを踏まえると、パンの消費が増えるのと米の消費量が減少していることに合わせて減少しているとも受け取れます。

図03_農林水産省「令和2年度食料需給表」よりminorasu編集部作成したものを抜粋

よって、パンの消費が増えるのに合わせ、米の消費が減少していることとはカロリーベースの食料自給率と無関係ではなさそうであることがわかります。

もちろん、パンの調理過程では油が入ってしまいますし、日本で小麦を生産することはプロ向けの高級な小麦粉は生産されていたりしますが、一般生活者向けの小麦は生産コストが見合わないため、生産量自体が少なくなります。

これらの状況を統合的に考えると、本当にカロリーベースでみた食料自給率が低いことは悪いことなのかというと、そんなふうにも言えないのではないかと見えてきますし、国内で生産されている食料品を購買することで経済自体を支えることのほうが重要だといえるような気もしてきます。

結局、大事なのは産国や製造国が日本の食品を意識的に購入することで、生産者にとって何よりの支援になるのだということではないでしょうか。


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