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サンダース現象が憩い。今のアメリカ。

                             市川 公美

アメリカの第46代大統領就任式でほんの一瞬テレビに映ったバーニー・サンダースのミーム(meme)増殖が止まらない。ごめんね、これで最後といいながらまだまだ続いている。

Facebook で最初にサンダース・ミームが紹介されたときに、いちいち、いいね!と反応していたら、いつの間にか、カイル・マクラクラン(Twin Peaks Festivalへの招待が続いた)やポリス (スティング除く)のメンバー、そしてモンティパイソンの ジョン・クリースが自分たちのミームを紹介しに現れ、ついにはサンダースとは全く無関係に元ジャムのポール・ウェラーのページも舞い込んできた。

Facebookは、私が大昔ウェラーからAlan Sillitoe のThe Loneliness of the Long-Distance Runnerのペーパーバックに直筆サインをもらったことを知っていたのであろうか。謎である。

一般的に共産主義に対する嫌悪感があるアメリカで、フィデル・カストロに好意的な意見を表明してはばからないサンダース(79歳)が、とくに若い人たちの圧倒的な支持を得てカルチャーの中心に躍り出ているのは、1月6日の悪夢を経て癒されたいという願望からか、あるいは新たな潮流の兆しか。

奇しくも1月6日同日、香港では国家安全維持法に反対するデモでアメリカ人含む逮捕者が大量に出た。10日後には異国で毒物を盛られながら帰国した野党指導者ナワリヌイを擁護する大掛かりなデモがロシアで行われた。

サンダースは大統領指名では中道左派のバイデンに敗れたが、新大統領は先進的(progressive)な政策を続々と打ち出し、少なくとも国民の半分は歓迎しているようだ。

ニューヨークに住んで長いが、この一年で、時代の寵児となった言葉、とくに1月6日の暴動の直後には、今まで見たこともない言葉と遭遇した。たとえばfealtyは封建時代の領主に対する忠誠や献身。そしてegg (someone) onとは、扇動する、唆す、けしかけるという意味。ただ卵のeggとは関係のない古英語に由来するらしい。

新政権になってからはUnityがキーワードになったが、硬直したかのように民主党対共和党の構図ができあがり、しかも後者は今後の指針を巡って迷走しているようでもある。今のところ深い分断は新型コロナウィルス同様、収束する見込みはない。

その一方でちょっといい話もあった。かつてのホームラン王、ハンク・アーロンが死去したこと自体は悲しいが、人種を問わずに、彼がいかに素晴らしい人間であり野球選手であったかを皆が称えた。

知り合いの野球ファンには白人も多く、打率などデータをよく覚えているオタクっぽい人もいる。アーロンはベーブルースの記録に近づくにつれ、脅迫されたり、殺人予告も受けたそうである。ホームラン王となった瞬間、スタンドから二人の観客がグラウンドに入り混み、一緒にダイヤモンドを一周した光景が鮮やかに再現され、語り継がれた。

ところでサンダースのミームだが、レッドツェッペリンのPresenceのジャケット(英語ではcoverといい、jacketはレコードを直接入れる薄い袋を意味する)が登場するのではないかと密かに期待していたが、まだ見ていない。誰かやってくれないものか。
                           (2021年1月29日)

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