見出し画像

日本語の外来語加工技術

                             鶴田知佳子

 日本語学習者が難しいと思うことの一つがカタカナで記述される外来語である。これは容易に想像がつく。たとえば、同じ「コン」で終わるカタカナ語であっても、「合コン」「リモコン」「パソコン」いずれもこの短縮形の「コン」は違う言葉からきているが、なかには「パソコン」は英語であると考えていた、などという日本人もいて、すっかりいまは日本語になったのに元が英語で英語でもこのまま通じると思う人さえいる。実はことばの行き来は双方向に行なわれていて、しかもいったん英語から日本語にはいったものが、日本語になったあとさらに別の単語に加工されたあと、英語へと再輸出されていることさえ、ある。

英語になった日本語

 オックスフォード英語辞書の編集者を1987年よりつとめるピーター・ギリバー氏によれば、「少なくとも1600年代より、日本語の言葉が英語に入ってきている。」「旅行者が‘サムライ’(samurai)や’刀‘(katana)の話を持ち帰ったときに、こういう言葉が英語の文献に入って英語にも入った」という。

 オックスフォード英語辞書にはいっている日本語の単語は、10個くらいは誰しもたちどころに挙げることができるだろう。karate(空手) bonsai(盆栽) kimono(着物) sushi(寿司) origami(折り紙) zen(禅) それにhoncho(班長から、ボスやリーダーのこと) tycoon (大君から、将軍やビジネス上の大物のこと)といったそれほど日本語由来が明白でないものやskosh(少し)や magatama(勾玉)などといった単語もオックスフォード英語辞書には載っている。

 紙媒体のオックスフォード英語辞書は20巻にもおよぶ見出し語29万語という膨大な辞書で、単語がとりあげられた文献や歴史的経緯も追っている。ためしにhoncho を調べてみたところ、hanchoとも記載されると注意書きがあり、用例の文献としては1947年にニュージーランド人の作家ジャーナリストである James Munro Bertram によるShadow of a Warに出てくる、朝鮮戦争関連の文献に出てくるなどとある。

画像2

再輸出された英語 (英語→日本語→英語)

 オックスフォード英語辞書には、ウォークマン、ポケモンやカラオケといったもともと英語の言葉からきた日本語の言葉を元にした英語の単語もある。オケとはオーケストラの短縮形だ。つまり、カラオケはいったん日本語にはいったオーケストラが、カラで演奏されるというのと合体して、カラオケとなり、それがもう一度輸出されて英語の単語にもなった。ギリバー氏は、「カラオケ」という単語はempty orchestra カラのオーケストラのイメージをよく伝えるこの単語を気に入っているという。

 日本語の柔軟性は、外来語を取り入れるだけではなく、それを再度加工してまた再輸出までしてみせるところにある、と言って良いだろう。しかし、そうなると日本語を日頃使っている私たちはそれがどこまでが英語からきたもので、どこが違うのか、なかなかみわけるのが難しいという面も伴っていることにあらためて気づかされる。

                         (2020年12月29日)

シェア歓迎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?