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トリ―じゃないの?

                                      松井ゆかり

クリスマスの時期になると娘が小学生になり、カタカナを覚えたての頃に書いた作文を思い出す。彼女はフロリダ生まれ、ニュージャージ育ち。なんとかバイリンガルに育てたいと思い、毎週、日本語補習校に通わせていた。日本に住んだ経験がない子供にとって、実はカタカナ表記の学習が凄く大変だった!という発見。その視点から逆に、英語の発音学習の際の配慮点について考えてみた。

いきなりですが、いくつか例を挙げると: 

トリー、ベンク、キャレフォーニャ、カナディケット さて何でしょう?

英語: tree, bank, California, Connecticut
カタカナ表記:ツリー(木)、バンク(銀行)、カリフォルニア(州名)、コネチカット(州名)

日本育ちの人には、「単にローマ字読みして、カタカナで書けばいいだけでしょ?」となるが、米国育ちの子供にはそもそもカタカナのように聞こえていないし、英語の発音を考えるとますます混乱、何とか音の近いカタカナで書こうとすると、上記のようになってしまう。

上記以外にも例は山ほど。娘の勉強不足も充分承知しているが、カタカナ表記が特に独創的(?)なのは補習校「あるある」事象のようだ。                   

クリスマスツリー
娘の作文は、冬休みについて。クリスマスツリーの下にプレゼントが置いてあったという内容を「クリスマストリーの下にプレゼンツがありました」と書いていた。添削された原稿用紙を見て、「トリー(tree)じゃないの?」と聞かれ、私は「なるほど~」と思った。

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                    Photo by Sapan Patel on Unsplash

先生も(こちらも米国在住日本人)「う~ん、このように書く理由はよくわかるけど、国語の答えとしてはバツになってしまいます、頑張って勉強しよう。」と説明されていた。日本育ちの父母の間でも「子供のカタカナ表記、逆に発見が多い」等と話した事を覚えている。

日本育ちの私は周囲の大人の「クリスマスツリー」というカタカナ発音を聞いて育ち、むしろ正しい英語の発音で「tree」などと言う人は誰もいないので、これは「ツリー」だと、自然に刷り込まれている故、カタカナ表記は難しくない。一方英語発音で「tree」が最初に脳ミソに登録されている娘にとっては大混乱。せめて小さい「ゥ」を使って「トゥリー」なら、バツでなくて△くらいもらえたか?という気もするが、カタカナ習いたての小学生にそれを期待するのは無理だろう(笑)。

別物として認識する
現在は、大学生になり、時々補習校時代の仲良しと集まってカタカナが話題になると、「一体どうしてXXXXなんて表記になるの?」「誰が最初に決めたの?」などと話している。

対応する日本語や漢字があるものは、覚える以外ないので、混乱はない。覚えていなければ書けないだけの話だ。銀行などはその例、バンクかベンクか悩むより銀行と覚えるだけである。

一方、カタカナ表記しかない場合は、発音を頼りにしがちだが、それだと間違う事はさんざん学習済。「Los Angeles出身です」とか「Connecticutに住んでいます」と書きたい場合、「ロサンゼルス」、「コネチカット」と書くためには、発音とは別物と認識し、(漢字同様)覚えて書いていたらしい。(ある程度パターンがわかってくると楽になったらしいが)

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私はローマ字やカタカナ教育を否定するつもりは毛頭ない、これらは日本が外国から新しい思想、技術などを取り入れ、さらに日本語を豊かにする上において必要不可欠な要素である点充分理解している。

ただ、英語学習においては上記の例の逆で、カタカナ表記の音は必ずしも正しくなく、ローマ字読みも危険である。カタカナ表記を使い始める際にもっと実際の発音に近い表記をする工夫がされる、発音記号を使っての学習をもっと意識的に行う、カタカナ表記は英語の発音とは別物であるという意識がもっと浸透すれば、日本人の発音向上に貢献するのではと思う。

                                                                                                (2020年12月27日)

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