高齢ポスドクの転職活動


はじめに

こんにちは。私は40代の高齢ポスドクです。研究活動は楽しかったもののいろいろあり、自分をより高く評価してくれるところがあればそっちに行こうと考えて転職活動を始めました。
アカデミアを辞めてビジネスに転じる、いわゆる脱アカデミア(脱アカ)の転職活動については、いろいろネット上に記録があり、自分もいろいろ参考にさせてもらいました。自分がそれに加えるような新しい知見は多分ないのですが、自分の記録用にもと思い、自分も書いてみます。

なぜ転職しようと思ったのか

あまり書くと個人特定&恨みつらみみたいになりそうなので書きませんが、主に二つあります。

  1. 今後の展望が見通せないこと
    高齢ポスドクと呼ばれる年になっているわけですが、自分の実績を見ると若い人に勝っているとは全く思えませんでした。その中で公募戦線で争った時に自分が選ばれる気が全くしなかったのです。今までは任期が切れるとその都度知り合いの研究者に拾ってもらうことで研究職を続けて来たのですが、これをいつまでもは続けられないと思いました。

  2. なんとなく今までの研究に満足したこと
    今の研究内容もまだまだ先(未来)があるしやりがいもあると思うのですが、自分の手で一つスタートを切れたこと、他にも、論文を出す、国際学会で発表する、コンビナーをする、など自分で出来ることはやったような気がしました。あとは出世していくということがありますが、そこは他人が下す評価次第になるので(自分の実績で)そこに賭ける勇気はありませんでした。

高齢ポスドクの自分がビジネスで必要とされるのかは全くわかりませんでしたが、応募するだけならただですし、一旦書類作ってしまえば(一応。本当は微妙に変えて行った方が良いにしても)使い回しができますし、やるだけやってみようと思いました。転職活動中、アカデミアの公募にも応募しましたが、アカデミアしかないという悲壮感をもってアカデミアでのみ転職活動するより、精神的に安定します。
また、自分のポスドクの任期も、切れるまでまだ余裕がありました。そのため、多少余裕をもって転職活動が出来たと思います。


ファーストペンギンになる

必要書類

転職にあたり、書類が必要になります。先に作成しても良いし、あとで必要とされてから作っても良いでしょう。

履歴書

一応、自動車免許あり、扶養家族あり、配偶者あり(扶養義務なし)、みたいなことを入れておきました。ずっとTeXで(どこかからstyファイルをもらってきて適宜修正して)履歴書を作っており、最早標準的な項目がよく分かっていません。志望動機とか自己PRみたいなのは欄を作ってません。

職務経歴書

自分は、要約、修士課程以降各所属での仕事内容、主な知識・スキル・能力・経験 、今後の展望、というのを書きました。そして、最後に業績リスト(論文リスト、競争的資金の獲得歴)をつけておきました。
職務経歴書の中では、どういう内容の研究をしたかというよりも(軽く入れてはおきましたが)、プログラミングなどどういった技術があるのかがわかるようにしました。今までの研究活動の中で、次第に専門領域を広げて行ったのですが、そういった柔軟性についても出るように書きました。それ以外には、(研究者として)英語を使えること、複数人でプロジェクトを進めた経験があること、国際共著論文や国際学会コンビナーなどでコミュニケーション能力に問題ないことについても伝わるように書きました。また、高齢ポスドクでもありマネージメント経験が問われると思い、自分が主導していた研究プロジェクトを強調して書きました(面接でも聞かれました)。今後の展望は、今までのスキルを活かして社会の発展やら会社の発展やらに寄与したいみたいなことを書いています。(一応これが志望動機っぽいか)
企業に応募する段には、転職エージェントにアドバイスをもらうのも良いと思います。

転職サイト

Twitter(X)をみるとわりと何を使ったか参考にされるようなので自分の感想を書いておきます。それぞれのポスドクの年齢や分野によって転職サイトの向き不向きがありそうなので、さらにエージェントにも力量の差や自分との相性の差がありそうなので、下に限らず複数利用するのが良いと思います。
エージェントは、転職が決まると会社からお金が入るので、転職希望者がお金を払う必要はありません。
エージェントによっては、脱アカデミアの転職の支援をした人もいると思います。面接時にどういう人がいたのか聞くと参考になると思います。自分も面談で聞いて、なんとなく自分でもいけるかもと意を強くしました。

アカリクキャリア

とりあえずアカデミアの人が登録してみるサイト? 自分もまずここに登録しました。登録すると連絡が来て、エージェントの人と面談し、現在の仕事内容や希望について聞かれました。また、アカデミアの人の転職事情なども教えてもらいました。面談後、求人票が送られて来たのですが、専門から遠く自分の強みを活かせなさそうな求人だったこと、専門に近い求人は勤務地が遠かったことから、アカリクキャリアからは企業に応募しませんでした。

JACリクルートメント

登録して数日後、紹介できる求人がない、と返事がきました。
が、その後、もし今後良さそうな求人があったら紹介したいので、一回面談しませんか、と言われたので、面談しました。
面談後しばらくして、いくつか求人も実際に送られて来ました。下のビズリーチ経由のものより条件が悪かったので、そちらがだめなら応募するかと思っていました。

ビズリーチ

自分は、ビズリーチ経由から内定を得ました。
登録すると、ヘッドハンター(エージェント)から連絡が来ました。明らかに職務経歴書を読んでいないだろうという一人を除いて、順番に4人と面談しました。だいたいどの人とも1時間ほどで、転職の動機や希望条件などを聞かれました。中にはそれっきりの人もいましたが、だいたいは面談の前後に求人票が送られて来て、また自分は履歴書と職務経歴書を送って、求人内容が良さそうならば後日それに応募する(エージェントが会社に履歴書と職務経歴書を提出する)、という形になります。
面談した4人以降も4人からメッセージが入りましたが、紹介された求人が前のとかぶっていたり、あまり興味が持てなさそうな内容だったり、で面談はお断りしました。
以上のように、初め予想していたよりも多く声がかかったのですが、これはビズリーチ上の職務経歴書に、はやりの言葉を入れておいて、検索に引っかかりやすくしたからだと思います。自分の経歴の中で、そういうところが出るように書いた方が良いです。
ビズリーチはプレミアムステージというのがあり、スカウトの閲覧や返信などに特典があります。基本ステップの完了や、5人とコネクションを作る(要はヘッドハンターから来たメッセージに返信する)というので10日とか30日とかのプレジアムステージのチケットがもらえます。自分はもらったチケットの期間内で転職が決まりましたので、利用料金は支払っていません。

リクルートエージェント

登録しましたが、直後からビズリーチからの連絡が増えてきて手が回らず、結局こちらはほとんど利用しませんでした。

LinkedIn

以前からアカウントはもっていたので、経歴をまともに書き足したりしましたが、何の反応もありませんでした。

応募企業について

今回の条件としては、引っ越さない(今の家から通える)、研究職にはこだわらない、給料は最低でも現状維持、という条件で考えました。研究職にはこだわりませんが、研究内容が生かせるところとも考えました。その方が自分が有利だと思ったからです。研究内容が生かせそうなところが全て駄目だった場合、より広く考えようと思っていました。任期切れまではまだ時間があったため、余裕が少しあったと思います。

選考について

エージェントから紹介された求人が良さそうなら、エージェントがその企業に履歴書や職務経歴書を送り、選考プロセスに入ります。早いところだと数日、だいたい1週間前後、長いところだと1ヶ月くらいで返事が来ます。書類選考通過だと、その後何度か面接があります。

面接で

面接では、なぜ転職か、なぜその業界か、なぜその企業か、ということを聞かれるので答えられるようにしておく必要があります(とエージェントに言われました)。求人票をよく読んでおくと良いと思います。なぜ転職かについては、ネガティブなことは言わず、今までの経験をビジネスで生かしてみたい、とポジティブに答えました。
面接では、先方からビジネス内容の紹介を受け、あなたの経験をどのように生かせますか、ということを聞かれましたが、答えてもあまりヒットしないようでした。準備不足でした。
面接ではこちらから質問をする時間がありますが、いくつか用意しておいた方が良いとのことでしたので、博士はいるのかとか、ビジネスの展望、働き方など10個くらい考えていきました(流れの中で分かったこともあり、全部は質問しなかったです)。

英語力について

エージェントには、TOEICの成績などがあれば職務経歴書などに書いてくださいと言われましたが、自分は受けておらず書けませんでした。面接では特に英語力について聞かれることはありませんでした。(企業によるのかも)

SPIについて

一週間以内にSPIをオンラインで受けてくれという企業がありました。そこからネット上で練習サイトをいろいろ探して練習しました。2日ほどでしょうか。成績が悪ければ面接はなしにすると言われたものの面接に進んだので、合格ラインは超えたのだと思います。試験時間がタイトなので、練習はした方が良いと思いました。

戦績

3人のエージェントを通し、計12社に応募しました。
選考の結果は、書類落ち7社、1次面接落ち2社、内定1社、返事なし2社です。
並行して、専門分野どんぴしゃなアカデミアのテニュアトラック職が公募に出ていたので応募していましたが、こちらは不採用でした。あまり後ろ髪を引かれることもなく転職することになりました。アカデミアで採用になっていても、テニュア審査で落ちた時のことを考えるとここで脱アカデミアするつもりでしたが、多分いざとなると迷っていたと思います。

その他いろいろ感想など

高齢ポスドクになると脱アカデミアも大変だと言われていますが、自分は無事内定を得ることができました。これはたまたま専門性が転職先のニーズにマッチしたからで、運が良かったと思っています。脱アカデミアを見越して研究分野を決めるということもないと思いますが。
アカデミアの公募への応募の場合、公募要項(その機関のもつ設備なども含む)に合わせて研究計画を書かないといけないので、かなり大変です。しかも結構落ちるという。それに比べると、複数の会社に一遍に出せますし、書類も一度作ってしまえばあとは微調整でいけますし、ビジネスでの転職活動の方が楽だと思います。あと、何かとエージェントが励ましてくれるのは、エージェント経由で応募することのメリットになると思います。(この人ならどこかの企業に採用されると思ってエージェントになって時間を割くわけですが。)
自分はテレワークが出来たので、転職活動(面接)は主にその間にオンラインで行いました。いちいち会社に面接に行かなくて良いというのは、テレワーク時代の良いところかと思います。
企業が出す求人ですが、業界によると思いますが、企業もどういう人が応募するか、どういうことができるかわからずに出している場合もあるようです(結構あいまいなというか、幅が広すぎるように思える求人もある)。少しでも引っかかりそうなら出してみる、という態度でも良いかと思います。(書類の準備も大変ではないですし)
待遇面については、私は年収アップになり、もう苦労してアカデミアにしがみつかなくても良いやという気分になりました。アカデミアでどこまで行けたか、ビジネスでどこまで行けるか、現時点では分からないですが、年収は業界と職種で決まるとも言います。アカデミアの研究職の待遇に不満ならば、転職に挑戦しても良いと思います。

読んだ本

別に読まなくても良いんですが、視野を広げる役には立ったと思います。

  • アカデミアを離れてみたら博士、道なき道をゆく 岩波書店編集部 岩波書店
    いろいろな脱アカデミアの実例が載っているので、心強いです。

  • ポスドクの流儀 Elvidge, Spencely, Williams, 羊土社
    脱アカデミアの本ではないですが、脱アカデミアにも触れられています。


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