見出し画像

【日本遺産認定地域インタビュー】郷土愛あふれるまち 八王子

執筆:日本遺産普及協会インターン 高瀬

はじめに
今回は日本遺産推進課のお三方にお話を伺いました。自分たちの地域を自分ごととして考える、郷土愛のあるまちの魅力が感じられました。

八王子市役所にお邪魔しました

日本遺産に認定されて何か変化はありましたか?
認定を受けた令和2年度はコロナ禍で、当初期待していたインバウンド需要がなくなってしまった時期でした。その中でも認定されたことは喜ばしいことであり、地域の方の期待が感じられました。

地域についての教育はどのようなことを実施していますか?
八王子は昔から絹産業で栄えたまちで、何代も前の世代から八王子に住んでいる方も多いです。一方で、都心部へのアクセスが良いため、他の地域から転入してきた方など八王子に馴染みがないという方も多くいらっしゃいます。
そこで、日本遺産ストーリーを通じて郷土愛を醸成する手段の一つとして学校教育の場を活用しています。学校教育の中で八王子の伝統文化を体験できる場を作ったり、学校教育外でも織物体験をできる場を提供したりしています。

伝統芸能をどのように次の世代に繋げていきますか?
学校教育の中でたくさんの子どもたちに伝統文化に触れてもらうことで、その中から少しでも興味を持つ子が出てきてくれたら良いと思っています。
また、八王子市全体としては人口規模が大きいため、今のところ後継者が育っているものもありますが、どうしても伝承が難しいものもあります。
そういったところで日本遺産の冠をつけて活動してもらうことは意義があることだと思っています。日本遺産に認定される前はあまり知られていなかったものも、認定後、認知度が高まってきた印象があります。

八王子市役所は八王子駅と西八王子駅の間にあります。西八王子駅の様子

八王子市の皆さんで盛り上げていこうという気持ちが強いのでしょうか?
市民の方全体への認知度向上が大事だと思っています。
多摩市や日野市に近い地域に住む方は、八王子の中心市街地に住む方とは生活圏が少し異なっているほか、最近八王子市の住民になった方も多いため、八王子市の伝統文化にあまり触れてこなかった方もいます。
もちろんその逆もあり、中心市街地に住んでいる方が、多摩市や日野市に近い地域のことをあまり知らないということもあります。そういった環境の中でどうやって八王子市に住む人たち全体に八王子の伝統文化を伝えていくかということが大事になってきます。

その方々にも八王子市の伝統芸能を伝えていくことが重要ということですね。
八王子市は10の町村が合併してできたまちです。地域の伝統文化がそれぞれの町村で受け継がれてきた部分もあり、市内の他の地域についてあまりご存じない方もいらっしゃると思います。そういった方に日本遺産を通じて八王子市全体の歴史文化を知ってもらうことも大事だと思っています。

観光の面ではどのような取り組みをおこなっていますか?
観光面では高尾山に観光客が集中しているのが実情です。日本遺産は、市内各所に点在する地域の魅力を、点ではなく面で捉えて活用・発信することがテーマとなります。このため、今年度から産業振興部に日本遺産推進課を設置し、日本遺産ストーリーを観光面でも活用することで、高尾山からそれ以外の地域への人の流れも作れるように取り組んでいきます。

八王子駅の様子

高尾山はやはり観光客は多いのでしょうか?
都内からのアクセスが良いということもあり、市外の方や外国人の方も多く、年間約300万人の方が高尾山にいらっしゃっています。一方で、アクセスの良さから、市内の他の地域には寄らずに帰ってしまう方が多いようです。残念ながら、高尾山が八王子市にあることを知らなかったという声を耳にしたこともあります。しかし近年、八王子市がメディアで取り上げられることが増え、高尾山と八王子市が繋がってきているという印象はあります。

高尾山に人が多く集まることによりゴミなどの問題は発生してるのでしょうか?
ゴミは持ち帰ってもらうことがルールとなっており、高尾山でご商売をなさっている方々をはじめとした地域の取り組みのおかげで、最近では目立ったゴミ問題は発生していないと認識しています。

高尾山以外のおすすめスポットはありますか?
日本遺産の構成文化財にもなっている国史跡の「八王子城跡」「滝山城跡」のほか、八王子駅周辺には八王子織物の手織り体験ができる「多摩織工芸館」や「桑都日本遺産センター 八王子博物館」、八王子芸妓、八王子車人形の実演を観ることができる「桑都テラス」などがあります。特に「桑都テラス」があるエリアは、かつての“花街”の風情を復活させるまちづくりに取り組んでいます。ぜひ足を運んでもらいたいと思います。

多摩織工芸館や八王子博物にもぜひ足を運んでください

八王子市が抱えている課題はありますか?
これまでの話と重複する部分はありますが、高尾山は都心部からでも日帰りで来られる場所であるため、登山後、市内の他の地域には寄らずに都心部などへ帰ってしまうということが挙げられます。今後、より多くの来訪者に宿泊していただいたり、市内を回遊して食事や買い物を楽しんでいただけるよう、高尾山以外の構成文化財をはじめ、地域資源の魅力を高め、広く周知していく必要があると考えています。

自分の関わりのある地域以外の認識はあるのでしょうか?
昨年の11月に日本遺産フェスティバルを八王子で開催したことで、日本遺産に対する認知度は上がったものと考えています。今後も引き続き、市内各所に所在する構成文化財を点ではなく面として捉えて八王子全体の伝統文化のつながりを認識してもらえるよう、日本遺産ストーリーを通じて働きかけていきたいと考えています。

後継者を育てなくてはいけないという課題からでしょうか
構成文化財を守っている皆さんの中ではそのような危機感もあると思います。そういう意味でも先ほど話に出た通り、学校教育を通じて八王子の歴史文化を子どもたちに知ってもらう取り組みは続けていくべきであると思います。「笑顔と学びの体験プロジェクト」などの取り組みを通して、子どもたちが八王子の伝統文化に直接触れる機会の提供を今後も継続していきます。

学校教育として八王子を知る機会が多いのでしょうか?
八王子市では、従前から郷土学習に取り組んでいます。具体的な例として、蚕の飼育や繭の糸取りが挙げられます。

八王子市が好きという方が多い印象がありますがいかがでしょうか?
生まれた時から、また、何世代も前から八王子市に住んでいるという方が多くいます。そういった方の中には、八王子を一度離れてもまた八王子に戻ってきて、地域のために何かをしようという方もいらっしゃいます。そういった方を一人でも多く増やしていくためには、郷土愛の醸成が必要であり、そのために日本遺産ストーリーを通じて継続的に取り組んでいくことが私たちの使命であると考えています。

学生が多く活気がある印象があるのですがいかがでしょうか?
八王子は大学等が多いので、学園都市としての活気はあると思います。しかし、市外から通学する方や、入学を機に市外から転入してきて就職を機に転出してしまうなど、転出入が多い世代でもあります。普段の生活や大学の授業などを通じて八王子のことを知ってもらい、卒業後も八王子に住み続けてもらうのが一番良いのですが、そうでなくても、転出した先で八王子と何らかの繋がりを持ち続けてもらえれば良いと思います。

アクセスが良い分、市外から来ている方も多いのですね。
市外から通学している方も多いと思いますが、そういった方は、学生生活が終わると八王子とのつながりが希薄になると思われます。学生生活を送る間に八王子の魅力を感じてもらい、八王子の企業に就職したい、八王子に住みたいと思ってもらいたいです。

日本遺産に関する今後の目標はありますか?
八王子市では、日本遺産を通じた「地域活性化」、「関係人口の増加」、「郷土愛の醸成」の3つを目標に挙げておりますが、目標を達成するためにもこれまでお話しした課題を解決していきたいと考えています。そのためには、必ずしもすべてを行政が担うのではなく、地域の方々が課題解決に向けて自立できる仕組み作りも重要です。日本遺産制度の趣旨でもある文化財の保存と活用の両面を実現するため、その取り組みに関わる人が増え、経済効果が生まれ、それを受けてまた関わる人が増える、といった好循環を作っていけると良いと思います。

日本遺産を通じた「地域活性化」、「関係人口の増加」、「郷土愛の醸成」が目標

自分たちで走り続けるための仕組み化が必要と言うことですね
自分たちのまち、自分たちの文化であるという意識を持っていただくのが一番ではないかと思います。行政が地域の取り組みをサポートしていく、繋げていくという在り方が好循環を生み出すと思います。日本遺産という制度をうまく活用して、地域全体が活性化していくことが大きな目標です。

行政は、先頭に立つというよりはサポートとして役割を果たすべきということですね
日本遺産に認定されて4年ほど経ち、日本遺産「桑都物語」推進協議会の構成団体である企業・団体を中心とした地域の方々のご尽力により今に至っています。これまでの取り組みを継続する中で、行政は、先頭というよりも、チームの輪の中の一つとしての位置づけになっていくと思います。

最後に読んでくださった皆さまにコメントをお願いします
高尾山以外にも八王子市には魅力的なところがたくさんあります。高尾山に興味をお持ちの方には高尾山の中にある構成文化財に寄って日本遺産のストーリーを感じていただくことで、是非とも八王子の他の地域にも足を運んでいただきたいと思います。そのためには、一人でも多くの方に興味を持っていただけるように、これからも頑張っていきます。

終わりに
伝統芸能を伝承するには大きなハードルはあると思います。今まで超えてきたからこそ、これから先も、地域の方の想いと共に郷土愛、伝統を守り続けていけたら素晴らしいなと思いました。今回お話を伺って、私も八王子の伝統芸能を体験してもっと魅力ある八王子市を知りたくなりました。

「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」(ストーリーNo88)

運営:日本遺産普及協会


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?