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月刊『中上級のにほんご』出版終了。12年の歴史を振り返る

(※以下の記事は2017年4月14日公開の過去記事です)

創刊号から最終号まで、142冊の『中上級のにほんご』

12年にわたり、「素材集」として愛されてきた『中上級のにほんご』が、3月1日をもって出版を終了した。制作と出版を手がけてきた「創作集団にほんご」の事務所で、いまの想いを聞いた。
※取材は2017年3月中旬に行いました


『中上級のにほんご』について

『中上級のにほんご』は、「初級を修了した日本語学習者が、読む力、理解する力、日本を知る力を養うための素材」として作成された月刊誌。B5版40ページの冊子に、新聞よりも学習者にわかりやすく書かれた「ニュース日本語版」や、ストーリーから日本語の語彙を増やす「マンガでわかるニッポン」、ひとつの言葉からたくさんの表現をおぼえる「ことば・絵辞典」などのコンテンツが盛り込まれている。

編集者・ライターの浅野陽子さんと、イラストレーター・漫画家の宇田川のり子さんを主なメンバーとする「創作集団にほんご」が制作し、2005年6月の創刊号から142号を出版してきたが、今年3月を最終号として出版終了となった。

最終号といっしょに届けられた挨拶

『中上級のにほんご』の主なコンテンツ

・ニュース日本語版

毎号4本のニュースを掲載。語句解説と確認問題がついている。それぞれにフリガナ付きとフリガナなしがあり、2本には縦書きバージョンもあって、学習者に合わせて使い分けられるようになっている。

・マンガでわかるニッポン「多辺田家が行く!!」

多辺田家の日常を描いたマンガをとおして、日本語の微妙なニュアンスを知るコーナー。ちなみに最終号は、多辺田家にホームステイしていた留学生のビーフ君が帰国する場面で、「船出」「第一歩を踏み出す」「体に気をつけて」などの表現がセリフのなかに登場する。

・ビジネスマナーの心

ビジネスで使う日本語やマナーを知る連載。浅野さんは、「おじぎの角度は○度」のようなノウハウではなく、日本人の考え方を紹介し、それがどのようなマナーとして表出しているのか、ということを書くように努めていたという。出版終了後に行っているテーマ別オンデマンド印刷で、もっともリクエストが多いコーナー。

代表・浅野陽子さんインタビュー

浅野 陽子(あさの・ようこ)氏 
創作集団にほんご代表。編集者、ライター。
『日本語ジャーナル』『月刊日本語』『日本語教育ジャーナル』(アルク)の編集に携わったのち、創作集団にほんごとして『中上級のにほんご』を創刊。出版関係の仕事のほか、漆教室も開いている。

――長い間、お疲れさまでした。

まだ終わったという気分ではないんですよ。最終の原稿を印刷所に入れたあとも、発送作業をしたり、バックナンバーのご注文をいただいたり。書店さんに置いていただいている分の精算はこれからですし。終わるのはたいへん。 ※取材は3月中旬に行いました。

――12年続けるのもたいへんなことだと思いますが、終わるときはどんな感じでしたか?

10年くらいはひとつのことをやらなくちゃダメだと思っていました。ただ、10年を過ぎてからは、終わるタイミングをはかっていたところがありますね。10年の間に家族を亡くして、私もとつぜん倒れることがありえる、と気づいたんです。『中上級のにほんご』は、私が倒れたら出ませんから、そのプレッシャーがありました。最後は、宇田川さんに「やめる?」と聞いたら、「うん」と返ってきたから、「そうだね」と、すんなり。たぶん2人とも10年でギリギリだったんだと思います。

――読者の反応はいかがですか?

知り合いはみんな「残念です! でもわかります、たいへんですよね」と言ってくださいました。

ほとんどの読者の方は、個人的に連絡をとりあっていませんが、昨年の5月号に終了のお知らせを同封したら、たくさんメールが来て……。嬉しかったです。お金が儲かる仕事ではなかったけれど、この読者とのつながりが財産だったと思いました。最終号が出たときにも、メールをいただいたり、お花を送ってくださる方がいたり……。たくさんの方に応援していただきました。

バックナンバーをコーナーごとにまとめたもの。記事執筆の際、既出の記事を確認するために使っていたという。

――『中上級のにほんご』は「素材集」なんですよね?

そうです。私は日本語を教える立場ではないから、こういうものをつくれたのかもしれません。「こういうふうに使ってほしい!」と考えていないんです。教える人をリスペクトしていて、「私は材料を用意したから、あとはそちらで料理してください」という気持ち。スーパーで売っている鍋のセットみたいなものです。味付けはおまかせ。鍋じゃなくて野菜炒めにしてもらってもいいんです。『中上級のにほんご』を少しだけ使って、そこから話題を広げて、ほかの活動をいっぱいしてもらうほうが、私はいいんです。

たとえば温泉の話題があったら、まず読解をして、あとは日本の温泉地図とか、お風呂の入り方とか、そういうのを組み合わせて使うとかね。バックナンバーのなかから温泉関連のものを探して使ってくださる方もいて、そういうのがいちばん嬉しい使い方でした。もちろん、ほかの雑誌、パンフレット、新聞記事などを使ってもらうのもいい。学習者には、身の回りにある生のものを理解できたというほうが嬉しいはずですから。授業の広げ方は学習者によって違うはず。教える人が上から教えるのではなく、「この人はこれに興味があるから、これとこれを使おう」という発想があってほしいですよね。

一方で、誰がやってもある程度は上手に教えられるという土台になってほしいとも考えていました。ニュースのコーナーに、読解の確認問題がついていますよね。当初、これは不要だと思っていました。教える人が自由に考えればいいのではないかと。でも見本誌を3ヶ月分つくって知り合いの先生方に見てもらったときに、リクエストがあったんです。それで、各ニュースに2つずつ、内容確認の質問と、「あなたの国ではどうですか?」というようなオープンな質問をつけています。経験豊富な先生なら素材から話を広げられるけど、それが難しいという人のためには質問も必要だと考え直しました。

試作の3冊。改良案が赤字で書き込まれていた。

――読者はどういう人が多かったんですか?

はっきりはわかりませんが、教える人が4分の3、学習者が4分の1くらいでしょうか。地域のボランティア教室の方、日本語学校の先生、プライベートレッスンをしている方などが多かったようです。

――形を変えて続けるようなこともしませんか?

続けてほしいという声もありますが……。どこかの会社が引き継いでくれればいいんですけど、いま紙媒体を出したら、たいへんですからね。

――デジタルにしたらどうですか?

これからはそういう方向に進んだほうがいいと思います。私たちは、海外の読者にもずっと郵送していましたが、海外の学習者や先生ほど、デジタルでほしいはずですからね。この10年で出版の形は大きく変わってきました。新しい出版の形を考えるべきだったことは確かです。

金銭的な問題も大きかったです。校正をやってくれる人や表紙を描いてくれる人、原稿を書いてくれる人に少しずつ(お金を)出して、印刷代でトントン。「書きたい」「やりたい」と言ってくれる人がいても、お金を出せない状況ではなかなかお願いできませんよね。だから私は人を育てられませんでした。それが大きな反省点です。

この業界は儲からないといわれています。確かにそう。そういう「しょうがないか」というところを、私が「うん、しょうがないや」とかぶっちゃったから、それにも疲れたのかもしれません。でも、私の尊敬している先生たちはみんな、そういうふうにやってきている。そこで私だけが「金、金」と言えないし、また言いたくなかったですしね。

最終号。表紙は牧田あゆみさん。
季語を題材にしたり、貼り絵にしたりと、毎号工夫が凝らされていた。

――浅野さんご自身の今後は?

ライターや編集の仕事は続けます。もともと取材・執筆や編集の仕事が好きなので。また、バックナンバーのコンテンツを本にしたいと思っています。だって、この(142冊の)知識が全部私に入っているんですよ。これを利用しなくてはもったいない。

――続けてきてよかったことは何ですか?

自分たちで執筆も編集も販売もして、読者と近かったのはよかったことです。出版物はつくっている人の自己満足になりがちです。それで営業から「売れていない」と怒られる。だけど私は、読者の申し込みを受け付けて発送もしていたから、読者のメッセージに直接触れられました。購読継続の申込書に、「いつも役立ってます」とか、そういう一言が添えてあったりして、「見てくれている人がいる!」と感じられたから、いままで続けられたのだと思います。

――今日はどうもありがとうございました。12年間お疲れさまでした。


《聞き手》平井美里 ライターとして9年働いた後、青年海外協力隊の日本語教師隊員として、2年間、某国の大学で日本語を教えた経験をもつ。


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