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「建物の賃借人(借主)が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条)の解釈

1 貸主側とは異なり、「建物の賃借人・・・が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条・以下「使用の必要性(借主)」という。)は、どのように解釈されるのか。使用の必要性(借主)は、条文上、正当事由を判断する際に、主として考慮される要素である。なお、使用の必要性(借主)を判断する際には、①居住用か、②事業用かで、考慮すべき要素が異なる。

2 ①居住用の場合
  まず、居住用について検討すると、借主の収入、年齢、健康状態、居住期間などを考慮して使用の必要性が考慮されている。なお、家に愛着があるといった主観的な事情は、裁判所ではあまり重要視されていない。
  また、現在の住宅事情から、当該居住場所の近隣に家を新たに借りることは、決して難しい状況ではなくなってきている。そのため、裁判所では、特段の事情がない限り、使用の必要性自体は認めるものの、それが切迫・重大なものとまで判断される例は多くないように思われる。また、生活の一部にしか使用していない場合(例えば、別に起居生活する場があり、当該場所は、洗濯機等の日用品置場や車庫代わりに使用していただけの場合には、一応の使用の必要性は認めているが、必要性の程度は低く評価される(東京地裁平成23年8月10日判決など)。

3 ②事業用の場合
  次に、事業用について検討すると、当該場所で営んでいる事業の性質や当該場所の環境などから代替物件に移転することが容易であるか否かが重視されている。例えば、士業が営む事務所では、当該士業を営む者の個人的な信用が大事であり、場所は重要視されない場合が多いこと等から、使用の必要性は高いとまでは言えないと判断される傾向にある。また、事務所(オフィス・ワークを行う場所)なども一般的には場所は重視されないことが多い。
  他方で、物販や飲食店などの店舗等は、一般的には、場所がかなり重要な要素になる。路面店(1階店舗)であるか否か、多数の人が働いているオフィスビルの近くか否かといった要素は売上げに直結する。したがって、使用の必要性は事務所などに比べて高いと判断される傾向にある。しかし、最近は近隣で同種同等の物件を探すことが容易になってきていることから、特別な事例、例えば、駅から著しく近い物件で同種同等の物件は見つからない状況、現状の賃料が著しく低いため移転した場合の同種同等物件の賃料では経営を継続できないことが見込まれる場合、有名地域のメインストリートの1階路面店で、著しく多数の人が行き来し、広告塔としての機能も有している場所にある場合といった事例でない限りは、使用の必要性が著しく高いとまでは判断されない傾向にある。


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