見出し画像

金融サービス仲介業①(令和3年1月)

1 2020年6月5日に「金融サービス利用者の利便性向上及び保護を図るための金融商品販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、同12日に公布された。改正の柱の一つが「金融サービス仲介業」の創設である。今後、公布日から起算して1年6か月以内の政令指定日から施行される。

2 これまでは、①住宅ローンなどの銀行サービスを紹介する場合には銀行代理業(銀行法)又は貸金業(貸金業法)、②金融商品などの証券サービスを紹介する場合には金融商品仲介業(金商法)、③保険サービスを紹介する場合には保険募集人(保険業法)などの規制が発生した。
  しかし、1つの登録で、銀行・証券・保険すべての分野のサービス(ただし、顧客に対し高度に専門的な説明を必要とするものとして政令で定めるものは取り扱えない。)が仲介可能となるため、事業者の負担が軽減されるとともに、ワンストップ提供の最適化が図られる。

3(1) また、現在、銀行代理業者、金融商品仲介業者、保険募集人等は、制度上、特定の金融機関に「所属」することになり、所属先の金融機関は、仲介業者の指導等の義務や、仲介業者が顧客に加えた損害の賠償責任を負うこととされている。
    しかし、金融サービス仲介業は、所属制を採用しない。そのため、上記の義務や賠償責任が発生しないため、金融機関と新たな仲介業者の関係は、業務上のパートナーとしての連携・共同関係となることが想定される。
  そのため、金融機関の側(セラーズ・エージェント)ではなく、顧客の側(バイヤーズ・エージェント)に立って仲介サービスを提供する者がより多く現れることも想定される。
 (2) このような制度において、仲介業者の中立性をどのように確保するかが問題となる。仲介業者の行動は、実態上、報酬・利益をどこから受け取るのかといった経済的なインセンティブの影響を強く受けていると考えられる。そのため、法律は、経済的なインセンティブに関する透明性を確保することで、顧客が仲介業者の中立性を確保できる環境を整えることが重要であると考えている。
    したがって、法25条2項は、仲介業者は、「顧客から求められたときは、金融サービス仲介業務に関して当該金融サービス仲介業者が受ける手数料、報酬その他の対価の額その他内閣府令で定める事項」を明らかにする必要があると定めている。
 (3) さらに、法24条は、仲介業者等が、「顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。」と定めている点にも留意が必要である。例えば、保険仲立人の誠実義務は、「顧客のために誠実に保険契約の締結の媒介」を行うことを要求しており(保険業法299条)、ベストアドバイスを行うことが求められている(梅津昭彦「保険仲立人の誠実義務」107~108頁)と解されているが、条文の記載ぶりがこれと異なる。
   したがって、仲介業者は、顧客に適した同種の金融商品・サービスが複数ある場合、仲介業者には、顧客の最善の利益ではなく、仲介業者が金融機関から受け取る仲介手数料の多寡に基づいて商品を紹介するインセンティブが働きうることを想定しており、仲介業者の中立性は、上記(2)の説明義務や新たな仲介業者において「顧客本位の業務運営の原則」を踏まえた自主的な取組が進められることで対応することを想定している(2019年12月20日付金融審議会決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ報告を参照)。

4 現時点で念頭に置かれているビジネスモデルは、顧客の資産状況やライフプランに応じて顧客に適した金融商品・サービスの比較・推奨等を行うというものである。例えば、スマートフォンの家計簿アプリを通じ、自らの預金口座等の残高や収支を利用者が簡単に確認できるサービスにおいて、利用者の収支を踏まえて、適切な住宅ローン、金融商品、保険などの比較や推奨等を行うことなどが挙げられる。しかし、これに限らず、より利便性の高い新しいプラットフォームが創出されることも期待される。
  また、銀行法の電子決済等代行業(例えば、①複数の振込先への銀行振込依頼をワンクリックで行うことができるサービス、②預金口座の残高や利用履歴等の情報を銀行から取得・集計し、自動的に家計簿を作成するサービスなど)も行うことが可能である。

5 上記以外のビジネスモデルとしては、住宅ローンや事業融資を顧客側に立って媒介する者(バイヤーズ・エージェント)には、貸金業法上の貸金業登録が必要であった(平成27年12月1日付金融庁における一般的な法令解釈に係る書面照会手続(回答書)を参照)が、今後は、この仲介業者の登録を行っていくことで、より利便性の高いサービスの提供が可能となることが期待される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?