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耐震性能と立退料との関係

1 建物の耐震性能と立退料はどのような関係にあるのか。そもそも、耐震性能とは、地震力に対する建物の強さである。1981年に改正された建築基準法の耐震基準(いわゆる「新耐震基準」)は、中規模の地震動(震度5強程度)でほとんど損傷せず、大規模の地震動(震度6強~7に達する程度)で倒壊・崩壊しないように設計されている。したがって、新耐震基準が適用される年代に建築された建物は、耐震性能に問題がないものが多い。
  他方で、1981年以前に作られた旧基準時代の建物は、耐震性能が不十分であるものがあるため、建築物の耐震改修の促進に関する法律(いわゆる「耐震改修促進法」)で、一定の指標以下の建物に対して耐震補強工事を行うことで、一定の耐震性能を備えることを努力義務としている。
  正当事由の主張では、「耐震性能が不足していること」が老朽化とセットで論じられることが多く、実務的には、極めて重要な要素の一つである。

2 耐震性能を診断した結果、耐震性能が不足していると判断された場合であっても、裁判所は、どの程度の規模の地震が、いつ、どこで起きるのかは、将来の予測に関する事項であるから、耐震診断の数値それだけに依拠して正当事由を認めることには消極的である。
  裁判所は、より実質的に、耐震性能が著しく不足していたり、ひび割れ、変形、老朽化等によって構造的な欠陥が生じている場合などでない限りは、直ちに建替えが必要なほどの状態ではないと判断しているものがほとんどである。
  他方で、耐震補強工事によって建物の耐震性能の向上を図ることができる場合であっても、常に当該工事を行うことが求められるわけではない。耐震補強工事に要する費用、当該工事に係る費用(テナントに支払うべき休業補償)及び耐震補強工事をした後の建物の使用勝手を検討して、社会経済的に建物の建替えに合理性がある場合には、耐震補強工事を図ることは現実的ではないとして、正当事由の一要素として肯定的に考慮されている。
  例えば、ある裁判例では、工事費用として約1億8060万円、テナント休業補償(5ヶ月)として約6700万円の合計約2億4760万円の費用がかかるが、解体建替費用は、解体費用約5000万円と、新築費用約5億3500万円の合計5億8500万円であり、耐震補強工事が解体建替工事の半額以上を要するのと、補強工事により賃貸可能面積が減少することからすれば、社会経済的に必ずしも合理的な選択肢であるとはいい難い、と判断している。

3 そのため、建替えの検討にあたっては、事前に専門家に、(ⅰ)耐震性能を診断してもらい、(ⅱ)耐震補強工事の内容、それに要する費用と期間、(ⅲ)耐震補強工事後の建物の使い勝手を明らかにしてもらうことが極めて重要となってくる。

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