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「建物の賃貸人(貸主)が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条)の解釈

1 立退きにおける正当事由の要素の一つである「建物の賃貸人・・・が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条。以下「使用の必要性(貸主)」という。)は、どのように解釈されているのか。使用の必要性(貸主)は、借地借家法の条文上、正当事由の判断にあたって、最も重要な要素の一つである。

2 そもそも、使用の必要性(貸主)が認められる事例は、(a)建物を建て替えて所有者が自ら使用するという事例があるが、(b)敷地を有効利用するために、現在の収益建物をより経済性機能性の高い収益建物に建て替える事例も、近時の裁判例では多数存在する。
  上記(b)の敷地の有効利用の事例について近時の裁判例を見ると、①具体性がないもの(例えば、建築計画が極めて簡易な手書きの各階平面図で、計画の概要をごく簡潔に示すものにすぎない場合や、建替後の予定建物の内容が暫定的な見積もりにすぎない場合など)、②建替計画に要する資金の裏付けを欠くもの(例えば、所有者が税を滞納する状態にあるから、立退料を支払った上でビルを建て替えるだけの資力があるとは認めれない場合など)、③裁判が始まってから建替計画を作成して提出した場合などについては、差し迫った使用の必要性が貸主に認められないなどと判断されている。

3 また、実務上は、使用の必要性(貸主)を明確に主張せずに、耐震性や老朽化のみを正当事由の要素として主張している事例が見られる。これは、敷地の有効利用が所有者の経済的かつ一方的な事情であるため、正当事由の要素にはならないのではないか、かえって立退料が高額化するのではないか、という先入観がある反面、耐震性や老朽化は、生命身体の安全に関わってくるため正当事由の要素として考慮されやすいように見えることが原因だと思われる。
  しかし、建て替えによって収益性をより高い建物にすること、いわゆる「敷地の有効利用」は、前述のとおり、正当事由の要素として認められている。他方で、耐震性や老朽化を主張するのみで正当事由が認められるケースは、極端な耐震性能不足や老朽化が見られるもの以外はほとんどない。そのため、敷地の有効利用は、必ず緻密に検討した上で、主張する必要があり、そうでなければ裁判になった場合には、敗訴する可能性が高くなるおそれがある。したがって、敷地の有効利用については、具体的かつ緻密に計画を立てる必要がある。

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