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地代等の増減額請求

1 地代等が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる(借地借家法11条)。なお、平成4年7月31日以前より締結された借地契約は旧借地法12条が適用されるものの、内容はほとんど異ならないと解されている。
  賃料増減額請求権は、「従前賃料決定時以降の経済事情その他諸事情の変動により、従前賃料を維持することが公平とはいえなくなった場合に相当な額に改定することを認めるものである」(新基本法コンメンタール 借地借家法【第2版】68頁)とされている。

2 増減額請求が認められる要因は、条文上、①公租公課の増減、②土地価格の高低、③その他の経済事情の変動、④比隣地代等との比較により、従前賃料が不相当となったとき、とされている。
従前賃料とは、賃貸借当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(「直近合意賃料」と呼ばれる。例えば、当初の契約時から3回賃料の改定があった場合には、原則として3回目の賃料を改定した時点の賃料)とされている。
そして、従前賃料が不相当となったか否かの算定手法については、国土交通省の不動産鑑定評価基準によれば、①差額配分法、②利回り法、③スライド法、④賃貸事例比較法などの方式が存在し、かかる方式を複数採用して、それぞれの方式によって求められた各試算賃料を比較勘案し、その他契約の経緯等の諸事情を斟酌して決定する方法が、実務的には定着した方法となっている。

3 上記で述べた各方式について、以下に詳述する。
(1) 差額配分法
 ア 差額配分法とは、「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料 又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。」(不動産鑑定基準 総論第7章第2節Ⅲ1(1))と説明される。
 イ 簡単に言えば、改定時の客観的適正賃料と実際の支払賃料との差額について、借地権者が負担すべき部分(実際は2分の1又は3分の1を借地権者の負担とする場合が多い。)を求める方法である。例えば、客観的適正賃料100万円、実際の支払賃料50万円、借地権者が負担すべき割合2分の1とした場合には、75万円が試算賃料となる。
(2) 利回り法
  ア 利回り法とは、「基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。」(不動産鑑定基準 総論第7章第2節Ⅲ2(1))と説明される。 
  イ 簡単に言えば、借地の対象土地の価格(ほとんどの場合は更地価格から借地権相当額を控除した底地価格)に期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算した額によって求める手法である。例えば、底地価格が直近合意時点から10%程度上昇し、期待利回り及び必要諸経費等に変動がない場合には、10%程度上昇した賃料が試算賃料となる。
(3) スライド法
    ア スライド法とは、「直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。」(不動産鑑定基準 総論第7章第2節Ⅲ3(1))と説明される。なお、「変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとする。」とされている(同Ⅲ3(2)①)
 イ 簡単に言えば、直近合意時点からその後の経済変動指数を乗じて相当賃料を定めるものである。経済変動指数は、家賃指数、消費者物価指数、企業物価指数、GDP、市街地価格指数、企業向けサービス指数、賃金指数、建設物価指数等が用いられる(なお、不動産鑑定士により用いる指数は異なる。)。
(4) 賃貸事例比較法
 ア 賃貸事例比較法とは、「新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める手法である。」(不動産鑑定基準 総論第7章第2節Ⅲ4)と説明される。
 イ 簡単に言えば、継続中の賃貸借に係る賃貸借等の事例を収集して、適切な事例の選択を行い、必要に応じて事情補正や時点修正を行い、かつ地域要因の比較及び個別要因の比較を行うなどして試算賃料を求めるものである。もっとも、継続中の賃貸借に係る事例の収集は困難な場合が多いなどの理由で試算が行われないこともある。

4 上記3の方式に基づく試算は極めて高度かつ専門的な検討を要することから、不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価を得ることが望ましいと考える。しかしながら、継続賃料の鑑定評価に係る費用は一定の金額となることから、費用対効果の観点から、鑑定評価を得ることが難しい場合がある。その場合には、担当する弁護士が収集可能な資料の限度で、実際に賃料増減額請求を行うべきか否かを検討する場合がある。

5 では、地代の増減額請求の実務はどのように行われているのか。
(1) 交渉段階
 ア 地主が地代の増額を求める場合には、上記3の方式を踏まえ、増額の可否及び金額について検討する。増額請求が可能と判断した場合には、増額を請求する旨を書面で借地人に通知し、交渉を行う。
 イ 借地人が地代の減額を求める場合には、上記アとどうように減額請求の可否を検討し、減額請求が可能と判断した場合には、減額を請求する旨を書面で地主に通知し、交渉を行う。
 ウ 地主及び借地人で交渉を重ね、交渉が調えば書面で合意を交わすが、調わない場合には調停を行うこととなる。なお、弊事務所の経験上、不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価を得ておいたほうが交渉はスムーズに進むことが多い。
(2) 調停
 ア 地代等の増減額請求に関する紛争については、まず調停を申し立てなければならない(民事調停法24条の2。調停前置主義)。なお、東京簡易裁判所においては、弁護士1名、不動産鑑定士1名の調停委員が担当することが多い。調停では、話し合いが原則となるが、調停委員から相当賃料についてある程度の示唆がされることも多い。
 イ 数回の期日(早ければ、2回から3回)を経て、当事者の合意が得られれば調停成立となるが、不調の場合には、裁判所に訴えを提起することとなる。
(3) 裁判
   裁判においては、当事者の申し出により、裁判所が選任した不動産鑑定士による賃料の鑑定が行われることが多く、当該鑑定結果に基づいて裁判上の和解や判決がされることとなる。鑑定費用については一定の金額が発生することになるから、調停の段階から費用対効果を見据えた対応が求められることになる。

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