新型コロナウイルス影響下の賃料未払による契約解除

1 新型コロナウイルスの影響によって、飲食店等のサービス業は、数か月にわたって、営業の自粛を余儀なくされているところもある。また、新型コロナウイルスの完全終息の目処も立っていないことから、客足が戻らない状況が続く可能性もある。
 新型コロナウイルスの蔓延は、未曽有の事態ともいえるが、このような状況下にあって、テナントが賃料を支払うことができない場合に、賃貸借契約の解除が認められるのかが問題となる。

2 そもそも、判例においては、賃料が支払われなかった場合であっても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊しない特段の事情がある場合には、賃貸借契約の解除が否定される(最判昭和39年7月28日)。そして、一般論としては、賃料不払があっても、3か月程度であれば、裁判所は賃貸借契約の解除を認めないことが多いとされている。また、法務省民事局は、「最終的には事案ごとの判断となりますが,新型コロナウイルスの影響により3カ月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」としていることからも、現在の状況下においては、3か月程度の賃料不払があったとしても、直ちには、賃貸借契約の解除は認められない事案も多いと考えられる。

3 しかしながら、この点について、テナントとしては、3か月程度であれば賃料を支払わなくてもよいだろうと安易に考えることは危険を伴うものとも考えている。すなわち、信頼関係を破壊しない特段の事情の有無については、裁判所において、「①不払いの程度・金額、②不払いに至った経緯、③契約締結時の事情、④過去の賃料支払状況等、⑤催告の有無・内容、⑥催告後の賃借人の対応等を、総合に斟酌して判断され」ているとされる(渡辺晋『【改訂版】建物賃貸借―建物賃貸借に関する法律と判例』719頁(大成出版社、第2版、2019)。また、前記の法務省民事局の見解も、あくまで「契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。」と指摘するにとどまるものでもあり、日本弁護士連合会も、「緊急事態宣言の影響により3か月程度の滞納が生じても、直ちに解除が認められないケースが多いものと考えられる。しかし、どのような場合に信頼関係の破壊が認められるかは事案ごとの判断とならざるを得ず、賃借人の不安を解消しきれない。」としており、いずれも、3か月程度の賃料不払だけでは解除が認められないと断言しているわけではない。

4 確かに、①不払の程度・金額については、3カ月程度であり、②不払に至った経緯についても、新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言等による営業の自粛等であれば、考慮されるべき事情ではあると考える。しかしながら、①不払の程度・金額、②不払に至った経緯は、信頼関係破壊の有無を判断する上での一要因に過ぎないことから、新型コロナウイルスの影響とは関係なく、過去、度々賃料の不払が生じていたり、賃貸人から賃料の支払いを催告されたにもかかわらず、賃借人が不誠実な対応を行っている等の個別具体的な事情がある場合には、3か月未満の賃料不払であっても、賃貸借契約の解除が認められることがあり得ると考えられる。
 また、東日本大震災後の景気動向を踏まえた平成24年春以降の経営が軌道に乗りつつあることなどから、滞納解消の見込みが全くないとはいえないことを積極的な事情として考慮した事案などもあり(東京地裁平成24年10月3日判決)、今後の滞納解消の見通しも重要な要素になってくると考えられる。

5 以上のとおり、最終的に賃貸借契約の解除が認められるか否かは、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたか否かを基準とした個別事案による判断とならざるを得ない。
 そのことからすれば、賃借人としては、3か月程度の不払であれば解除されないであろうと安易に考えてはならない。
 賃料を支払うことができない場合であっても、賃貸人に対して、賃料の支払の猶予を求める旨を事前に通知をしたり、今後の賃料の支払の見通しについて、事業計画を示して説明する等の誠実な対応を行うことが重要であると考える。

【執筆者:鶴田雄大】

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