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事業再生の方法

1 会社が支払不能の状態に陥った場合、民事再生法に基づく再生手続によって事業の再生を図ることが考えられる。しかし、再生手続開始の申立てを裁判所に行い、その決定がされると、官報公告や再生債権者への通知(民事再生法35条)が原則行われることから、倒産状態にある旨の事実が周知され、取引先が不安を覚えて取引を停止されるなどして、事業価値に著しい毀損が発生するおそれがある。

2(1) 上記のような事業価値の毀損を避けるため、日本弁護士連合会の「事業者の事業再生を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」(令和2年2月19日改訂)を利用した「特定調停スキーム」が実現できるどうかを検討すべきである。特定調停スキームとは、金融機関に過大な債務を負っている事業者について、準則型私的整理の一つである特定調停手続により債務の整理を行う手続である。
 (2) 具体的には、①受任した弁護士が、税理士・公認会計士等と協力し、財務・事業に関するデューディリジェンスを実施するなどして再生計画案を作成し、②その上で、金融機関と調整を重ねて、同意の見込みを得た上で、③裁判所に特定調停の申立てを行った上で、④裁判所の関与の下で、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の調停を成立させるものである。なお、調停では場合により、17条決定(民事調停法17条<裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。>に基づく決定である。)を受けることもできる。
 (3) また、方式としては、大きく分けて、①金融機関から債務を免除してもらう方式(いわゆる「債務免除方式」。なお、この場合には、債務免除課税について留意する必要がある。)、②別会社に事業を引き継いだ上で、金融会社に対して事業引き継ぎの対価を原資に弁済を行った上で、当該事業者を清算する方式(いわゆる「第二会社方式」)の2つがあり、状況に応じて使い分けることになる。
 (4) 特定調停スキームを用いることで、①特定調停を申し立てた事実が公告されたり、全債権者に通知されたりしないため、密行性が確保でき、事業価値の毀損を防ぐことができること、②手続コストが低いこと(民事再生の場合と異なり、数百万円の予納金を裁判所に納める必要がない。)、といったメリットがある。
 (5) なお、当事務所が担当した特定調停スキームの概要は「事業再生と債権管理(2020年・金融財政事情研究会)169号・146頁」に記載したので、具体的な進行のイメージについて興味がある方は、そちらを参照していただきたい。当事務所の経験からすれば、自力での再建ではなく、スポンサーの支援を受ける形で再建を図るほうが金融機関からの納得は得られやすい。

3(1) また、上記のような再生手続や特定調停スキームを用いずに、適正価値にて事業譲渡を行った上で、事業譲渡代金を適切に保管したままで、当該事業者の破産申立てを行って清算するという方法が取られることがある。
 (2) このような事業譲渡については、破産管財人による否認権行使の対象となる可能性(破産法160条、161条)があるから、慎重に行われなければならない。少なくとも、公認会計士や税理士などの専門家による事業価値の分析、弁護士による清算時における貸借対照表に基づく清算価値の分析といった多角的な観点から譲渡対価を算定すべきであるし、加えて、再生手続や特定調停スキームを用いずに事業譲渡を行う必要性があるか否かについても十分な検討が必要である。
                                以上

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