「化学は役に立つの?」という話

皆さまはじめまして。私は大学院で化学系の研究をしている者です。名前は二ヒコテとでも呼んでいただけると嬉しいです。国語は苦手なので文章作成にはあまり自信がないですが優しい目で気楽に読んでいただければ幸いです。

今回は「化学は役に立つの?」という話です。今日の内容は一部自分語りが含まれていることを予め了承しておいてください。

「物理は好きだけど化学はちょっと・・・」「高校で化学やっているけど面白さが見いだせない」「覚えることが多いし計算も論述もあるし・・・計算だけの物理の方が楽」という人も最近は多いようです。最近の工学人気志向から考えてもそう思う人が多いのも無理はない話かと思います。

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上の発言は化学専攻の私も否定はできません。高校化学の悪いところです。ただ私が化学系の学部を選んだのは私があまりにも物理ができなかったからなので消去法です。物理は計算だけやん!という人もいますが、私は物理現象のイメージがちっとも湧かなかったので計算以前の問題でした。なのでどんなに頑張っても高くて偏差値は60くらいでした。なので医学部進学を諦め、化学系の学部へ進学しました。

つまり何が言いたいのか。私が化学が好きになったのはつい最近の話ということです。もちろん中学高校は化学は得意科目ではあったのですが、当時は今みたいに化学系の学部で研究やっているなんて考えてもいませんでした。得意科目だけど化学はおもしろい!ためになる!なんてこれっぽっちも思っていませんでした。大学で化学ばっかりに触れれば嫌でも化学に対する見方は変わるものです。私は大学に入ってからようやく化学はおもしろいなと思えるようになりました。

話がわき道に逸れました。本題に戻ります。「化学は役に立つの?」という質問を化学を専門とする人間から答えます。結論・・・

化学を専攻しない限り役に立つことはない

ここで綺麗事を言ってもどうしようもないので正直言います。もちろんここで自信をもって役に立つよ!とでも本当は言いたいのですが・・・私が誇れる研究成果を挙げていない以上どの口が言っているんだと言われざるを得ません。

ではなぜ化学を中学高校でやるのか。中学は義務教育として最低限知っておかねばならない知識を教える必要があるからです。これとばかりは私は文科省に逆らう権限がないのでこれ以上は言えません。高校で化学をやる目的はもっと単純明快です。濾過です。まず高校で化学(基礎でもいい)をやるか否かの第一フィルター。次に文理選択の第二フィルター。最後に化学系の学部を選ぶ第三フィルター。ここに院進するか否かの第四フィルターまで入れると私のような人間はごく小数です(企業で研究をしない限り大学内容は多分使うことはないそうです)。つまり、高校の化学はほしい人間だけを選ぶために一部(大多数?)をふるい落としているのです。実は高校の物理も数学も同じシステムです。私の場合は早期に物理のフィルターは通りませんでした。それだけの話です。

次の話は「化学は何のために研究している人がいるの?」という話です。

よく化学は「生活をよりよいものにするため」と聞きます。よりよい素材を使って安全なものにしよう・より安値にしよう・より環境に優しいものを作ろうなどなど。でも本当にそうでしょうか?

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もちろん間違いではないとは思いますが、中には生活とはかけ離れた研究をしている人もいますし、何なら化学を破壊目的で使おうとする人もいます。私が思う化学の目的は以下の3点です。どれも自分にはまればおもしろい分野のはずです。

・生活をよりよいものにするため

・ロマンの追求

・破壊、国家転覆

です。最後は物騒な言い方ではありますが(笑)。要するに必ずしも生活と密着する訳ではないということです。

まず「生活をよりよいものにするためです」についてですが、なぜ化学がそう言われているのか。私が思うに特定のものに反映して研究成果が目に直接見える、更に「使用」することで直接研究成果のありがたさを感じる機会が多いからだと思います。正直物理は日常の身近な現象に関わっている以上、化学よりも身近だと思います。それでも化学の方が・・・といわれるのはものを介して意識して見る機会体験する機会が設けられているからだと思います。逆の言い方をすれば、例えば歩くことは当然日常の物理現象ですが無意識ですよね?物理は化学より身近なのに意識されにくいということです。

次に「ロマンの追求」についてです。役に立つか否かはあまり気にしない分野です。例えば超アクチノイドに当たる113番元素として知られているニホニウムですが、400兆回やって3回しか成功しなかったと言われています。しかもせっかくできても連鎖的に半減期を迎え1秒も満たず消滅してしまう。こんな元素役に立ちますか?実は日本は過去一回命名権を得る機会を逃しています。なのでニホニウムの発見は日本からすれば過去の雪辱を果たすことに成功したわけです。しかもアジア圏の国が命名権を得たのはニホニウムが最初です。日常生活には何にも使えない元素を作るのに莫大なお金を使うのは最早ロマン以外の何でもありません。ちなみに超アクチノイドは1秒以上残っただけでも奇跡です。更にウランのような半減期がものすごく遅い元素を見つけた場合は原子力の分野への応用が見込まれます。ノーベル賞相当レベルの成果だと思っても差し支えないかと思います。

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最後に「破壊、国家転覆」目的について。WW2でドイツが使用したマスタードガス、オ○ム真理教が国家転覆の為に密造したサリン・ホスゲンなどなど。他にも核を武器としての利用目的で研究する場合もこれに該当するかもしれません。この辺の話は後で別記事作ります。

要するに化学は「諸刃の剣」ということです。物理と化学の違いとも言える点かと思います。化学は物理以上に用途を間違えると国際問題に発展しかねない分野なのです。

最後に化学が嫌いな人にアドバイス。がんばって好きになろうとは言いません。嫌いなものはいつになっても嫌いという認識は余程のことが無い限り変わることはないのは承知しています。何気ない日常のものに化学が利用されていることが多々あります。意識して日常のものを見るようにしてみるとよいかと思います。そうすると俺知ってるなーと思えることがたくさんあると思います。石けんってミセルコロイドなんだな。頭痛薬バファリンにアスピリン(アセチルサリチル酸)が含まれているな。ショ糖の主原料はスクロースなんだな、分子式知ってるぞ。・・・などなど。今化学でやっていることなんて役に立つの?と思っても案外日常の無意識の部分に潜在しているものです。「俺知ってるぞ」を増やしていくことが化学に少しでも興味を持つきっかけになればいいなと私自身は思っています。

皆さまとの出会いに感謝、略してC₁₀H₂₂です!

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