6.モノを大切にする気持ちを育てる
おもちゃ修理ボランティア 『ゼロ』 代表:ウエムラ・ケンジロウ氏
(聞き手:けさらんぱさらん研究所 所長 にへどん)
にへどん:
本日は、壊れたおもちゃなどを直すボランティアグループ 『ゼロ』 の代表であります、『おもちゃ爺さん』 こと ウエムラ・ケンジロウさんにお話を伺いたいと思います。
ウエムラさん、よろしくお願いします。
ウエムラ:
はい、よろしくお願いしますよ。
(周りを取り囲む子供たちに)はいはい、ちょっと向こうに行って静かにしていてね。おもちゃ爺さんはこれから、このおじさんとお仕事のお話をするんだからね。
にへどん:
ウエムラさん、子供たちに大人気ですね。今もたくさんの子供たちが集まってきていますが、彼らのご両親からまで、皆、ウエムラさんのことを 『おもちゃ爺さん』 と呼んでいるようですね。
ウエムラ:
実は、この子供たちのお父さんやお母さんがまだ子供だった頃、屋台を引いてこのあたりにおもちゃを売りに来ていたのじゃよ。ワシはその頃から 『おもちゃ爺さん』 と呼ばれていてねぇ。(※1)
子供は20年たと大人になるけど、爺さんはずーっと爺さんのままじゃ(笑)。なので、親子二代でワシのことを 『おもちゃ爺さん』 と呼んでくれている人もいるんじゃよ、有難いことだねぇ。
にへどん:
そうだったのですね。ウエムラさんはかつては 『屋台でおもちゃを売っていた』 のですね。
ウエムラ:
若い頃のワシは おもちゃ問屋の経営をしていたのじゃが、ワシが50歳を過ぎた頃から不況になってなぁ。おもちゃの売れ行きがガタ落ちしたり、おもちゃメーカーが倒産してしまったりして、在庫だけが増えるかなり厳しい時代になってしまったのじゃ。
それで、それらの在庫の おもちゃを屋台に乗せて安い値段で売り歩くことを始めたんだねぇ。
『ワシのおもちゃは買って損が無い(※2)』 というのが当時の決まり文句だったかな。
にへどん:
そのとき おもちゃを買ってくれた子供たちが大人になって、今度はその子供たちの おもちゃの修理をしているというわけですね。いやー、良いお話ですねぇ。
ウエムラ:
ま、良いお話だけではないんじゃけどね(笑)。不良在庫だからと言って おもちゃ問屋が安い値段で おもちゃを売る、というのは、おもちゃメーカーさんとの取り決めもの内容にもよるんじゃが、契約違反だったりすることもあるのじゃよ。
それでそのメーカーさんから訴えられてしまって・・・。しばらく身を隠していた時もあったのじゃ。
にへどん:
なるほど。おもちゃを買う側からすれば、安い値段で買えるというのはありがたいことですし、おもちゃを倉庫で眠らせておくだけだと、倉庫の家賃代の支払も厳しくなりますから、在庫を安い値段で売ることは良いことだと思うのですが、いろいろと難しい事情もあるのですね。
それで、訴えられてしばらく身を隠していたというわけですね。どちらにいらっしゃっていたのですか?
ウエムラ:
全国を回ったかな。日本中にワシと同じように “不況で増えてしまった在庫” で悩んでいるいる同業者が結構いたので、彼らと連絡を取りあって、おもちゃの自主流通などができないかって、いろいろ計画を立てたりしたんだなぁ。
その時はあまりうまくいかなかったのじゃが、その後、ネットが出てきたおかげで、そのあたりはだいぶ進んできたようじゃな。
にへどん:
いろいろとご苦労をされていたんですね。
当時の子供たちの間では、『おもちゃ爺さんがいなくなったのは、子供たちを操って世界征服を企んでいたのがバレたため、国の防衛機関によって始末された(※3)』 なんていう、いかにも子供たちが考えそうな噂が流れていたそうですね(笑)。
ウエムラ:
・・・・・。 ま、子供というのは実に想像力が豊かだからねぇ・・・・。
にへどん:
それで、日本全国を回り、ほとぼりが冷めた頃を見計らって、またこの 『鶴見地区(※4)』 に戻ってこられたというわけですね。
ウエムラ:
戻ってきたのは3年前ぐらいかねぇ。それまではいろんな場所で “おもちゃ好き” の仲間を集めて、おもちゃを修理するというボランティアをやっていたのじゃが、3年前にこのあたりの公共団体から、この団地の一階の商店スペースを “地域ボランティア向け事業” に使うのなら無償で借してもよいよ、というお話をいただいただいてねぇ。
それで仲間を連れてここに “おもちゃの病院” を作ったというわけじゃ。今では、家電製品の修理などもしてるので、子供たちだけでなく、大人の人からも喜んでもらっているんじゃよ。
にへどん:
家電製品なんかも直してもらえるんですね。
ウエムラ:
こうみえてもワシは若い頃からメカをいじるのが好きでのう、その気になれば今でも 『アンドロイド』 ぐらいは作ってしまうぞ(笑)。(※5)
にへどん:
はははは、それは頼もしい。そのくらいの技術があれば家電製品の修理なんて朝飯前ですね。
ところでこのおもちゃの病院の名前の 『ゼロ』 ですが、どこからつけられた名前なのですか?
ウエムラ:
以前は、大量生産・大量消費とか言っていた時もあったけど、今の時代、環境問題や景気の悪化などを考えると、“モノを大切にしよう” という基本的な考え方に立ち戻る必要があるのじゃよ。
それで、最初に立ち戻ろう、ということで 『ゼロ』 という名前にしたのじゃ。
にへどん:
なるほど奥が深いなぁ。
『ゼロ』 で修理されたおもちゃや家電製品には、赤いシールが貼られますよね。それに 『ゼロ』 で修理を依頼した人にも同じデザインのワッペンが配られているようですが、これはどんな理由があるのですか?
ウエムラ:
このマークが付いたおもちゃや家電製品は “モノを大切にする気持ちで蘇った” という証で、このマークのワッペンを付けた人たちは “モノを大切にする気持ちを持った人たち” ということじゃ。
このマークを見るたびに、皆の心に “モノを大切にしよう” という気持ちが湧き上がってくれればいいなぁって思っているのじゃよ。
にへどん:
それは素晴らしいですねぇ。
想像力豊かな子供たちの間では、『このマークからは特殊な電磁波が出て、人々を操って世界征服をさせるんだ』 なんて噂もあるようですね(笑)。『ゼロ』 という名称も、『その特殊な電磁波が流されるのが ある日の午前0時だから(※6)』 なんて言っている子供もいましたよ(笑)。
ま、それはともかく、本日は素晴らしいお話をいただき、どうもありがとうございました。
ウエムラ:
・・・・・。 ど、どうもありがとう・・・・・。
※1:ウルトラセブン第9話「アンドロイド0号指令」において、オモチャを使って地球侵略を企てていたチブル星人は「おもちゃ爺さん」と呼ばれる、屋台でおもちゃを販売する老人に変身していた。
※2:「アンドロイド0号指令」における「おもちゃ爺さん(実はチブル星人)」の口癖。
※3:チブル星人は、おもちゃを利用して子供たちを操り軍隊を作り、その子供たちを使って地球征服を企んでいたが、当然のことながらウルトラセブンとウルトラ警備隊に退治されてしまいました。
※4:「アンドロイド0号指令」の舞台は鶴見だった。
※5:おもちゃ爺さんに化けたチブル星人は、金髪美女のアンドロイドを作り、彼女を操りモロボシ・ダンを殺そうとした。
※6:まさに「アンドロイド0号指令」にてチブル星人が企んだこと。
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