バレンタインその後

突然だが、私は自分の夫をつけている。

それは決して浮気を疑っているからではない。

これは復讐であり、奇襲である。

なぜ復讐であり、奇襲なのか?

それは私が海外出張の話を受けた時に彼は私を応援してくれ、是非行くよう言ってくれた。

それが……それが……

今回の発端である!

私は引き留めて欲しかったのだ。

「君と離れるなんて出来ない。」とか、「君がいないと生きていけない。」とか、「どうしても行くと言うなら辛いけど、我慢する!でも必ず君に会いに行くよ!」とかあるでしょ普通!

なのに貴方は「良かったね。家のことは気にしなくて大丈夫だから行っておいで」と。

確かに! 確かに!

今回の海外出張は私がやりたかったことの一つであったし、貴方は料理、洗濯、掃除と完璧にこなせるし、多感な年頃の娘とも仲がよい。理想の夫だ。

だが! だが!

女心がわかってない!

しばらく離れ離れになる愛する人にさらっと「君がいなくても大丈夫だから」的なことを言うなど!
しかも一度も会いに来ない!!

だからこそ復讐なのである!

作戦は単純だ。
貴方が我が家の前に来た時、おもいっきり跳びげりをする!

これは娘と話し合ったバレンタイン特別作戦だ。
娘は幼馴染みの男の子に、私は夫に奇襲する!

インパクトが大事なのだ!インパクトが!

娘はバレンタインである昨日、作戦を決行したようだ。

私も本来であれば昨日、作戦を決行しようと考えていたが、飛行機のトラブルで今日になってしまった。

昨日はバレンタイン、恋人たちの日。

愛の再確認にはうってつけだったのに。

しかし、娘と盛り上がり、お互いに決着をつけようと固く誓ったのだ!

バレンタインの次の日でも構わない!

だんだん見えてきた

我が家だ

息を大きく吸う

夫の背中を睨み付ける

走り出す

勢いよく踏切る

宙に浮く身体

私の足が夫の背中に………

数日後…

「あら~、鈴木さんとこの!」
近所のコンビニでおばさんに話しかけられた。

この人は確かご近所の……
白石さんだ。お母さんと良く井戸端会議をしていた。

「久しぶりね~」

「あっ、こっ、こんにちわ。」

「聞いたわよ~。お父さん骨折したんだって~?大変ね~」

もう、広まってるの!?

「何か転んだんだって~?」

「えっと、ハイ、ちょっと転んでしまって……手首を…」

「あら~やっぱり骨折してたのね~。大変ね~。何かにつまずいたのかしら~?」

………

………

言えるわけないよ!


母親が、父親に跳びげりをして骨折させました。

なんて!

2月15日は我が家にとって忘れられない日になってしまった。
私はお腹抱えて笑ってしまったが、さすがにご近所さんには恥ずかしくて言えない。

「え~と。何かにつまずいたらしいんですけど、暗くてわからなかったって。」

「あー、そうなの~、大変ね~。あらっ、もうこんな時間?じゃあ、お大事にね~。」
白石さんは去っていった。

ふぅ、もう広まっているんだ。
お母さんと盛り上がって決行した作戦は負傷者を出してしまった。
私の方は怪我をさせなかったのは練習のお陰だと思う。
うん、ちゃんと練習しといて良かった。

するとコンビニに蹴られた男の子が入ってきた。

「あっ、いた。いつまでかかってんだよ」
しまった。待たせているのを忘れてた!

「ごめん!ちょっと知り合いと会っちゃって!。」

「あぁ、そうなのか。じゃあこれからレジ?」

「うん、ちょっと待ってて!」

「わかった」

レジを済ませて、コンビニの外にいる彼に駆け寄る。

そう言えば彼に言おうと思ってたことがある。
恥ずかしいけど。

「ねぇ、今度の日曜日さ、どどっか行こうよ!そのっつ、つ、付き合っててるんだし!」
恥ずかしい!言葉に出すと死ぬほど恥ずかしい!

「ん、わかった、日曜な。つかさ、今さら照れんなよ。あんだけのことやらかしてんださ。」

「う、うるさいな!あれはそっちがわるいんだからね!」

「えっ俺が悪いのか!?」

「当たり前でしょ!それにさ、こっこっこういうのは!そっちからさっ誘いなさいよ!」

「えぇーそうかぁ?まぁいいけどさ」

「まったく!」
あぁ、恥ずかしくて死にそう!

「それじゃあさ、」

「うん?」

「次の次の日曜もデートしような!」

…………

ばか………

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