入ってないじゃん『バーズ・オブ・プレイ』

 バーズ・オブ・プレイ。意味は小鳥の餌食、というところ。つけたのはあの人だね、間違いなく。

 最近はポリコレがブームだ。女子受けとかポリコレとかフェミニズムとか、映画を語るうえで、いくらかこういう用語が混ざるけれど、私自身はこの辺りはあまり気にしていない。確かに中には思想先行過ぎて映画文脈的にはどうなのとか思わないでもないのもあるけど、古典的映画文脈で映画をつくれば男性の影響がみちみちているのはまあ間違いのないことだと思うので、そういう抵抗は映画業界的にももっと面白いものをつくるチャンスでもあると思うのだ。脱構築の時間というわけだ。

 バーズ・オブ・プレイはスーサイド・スクワッドのスピンオフだ。といっても、その内容はほとんど出てこない。この映画の主人公をつとめるハーレイクインを除けば、会話のなかにジョーカーが出てくるぐらい。気にする必要はない。

 お話は単純で、というかむしろテンプレと言えるだろうか。大組織のボスからなんやかんやあって仕事の依頼を受けて、結果的にそのボスを殺すことになるという、昔からハリウッドではよくあるシナリオだと思う。こういうの、名前はないけれど私もそんな名前で呼んだことはないけれど、依頼受諾ものと私は呼んでいる。キャラクターとアクションを魅せることに終始するシナリオだと思うので、マーゴット・ロビーがそれを選んだのは不思議なことじゃないだろう。この映画の場合は、他に復讐ものや女刑事ものやハリウッド系マフィアもの(中で働いている人がなんやかんやあって裏切って活躍する系)のプロットも盛り込んでいる。盛りだくさんだ。

 それぞれの主人公は全体の主人公であるハーレイクインをはじめ、ハントレス、レニー・モントーヤ、ブラックキャナリーの四人が務めることになる。

 上映時間がそんなに長くないのでそれぞれそれほどの時間が割けるわけではないけれど、もともとドラマ成分が濃い映画ではないのでそこは問題なかった。むしろ短い時間でなんとかキャラ立てできていたぐらいだと思う。お気に入りはもちろんハーレイクイン。ことハーレイクインというキャラクターを演じさせれば、マーゴット・ロビーは天才的だ。彼女以外の誰があのエキセントリックで、そして時に理知的なキャラクターを演じられるんだろうか。

 スーサイド・スクワッドでも唯一といっていい美点だった(ほかに何にもないというと言いすぎだが)彼女だが、スーサイド・スクワッドとは違う点もある。スーサイド・スクワッドでの彼女はガーリーで、一言で言えばロリコンの妄想みたいなキャラクターだった。14歳ぐらいの女の子に見えたのだ。一方でバーズ・オブ・プレイのハーレイクインはくたびれている。それもかなりくたびれている。それでもなんとかやっていくわけだが。この両者の違いはもちろん作風によるものだろう。コミックそのままのスカしたかっこつけをするDCEUの作風と、今回のキャシー・アンの(もしくはマーゴット・ロビーの)ポップでありつつやや現実の暗さも抱える作風とはまるで違う。マーベルで言えばローガンぐらい立ち位置の違う作品だが、作品としてさらに近いのはデッドプール2だろう。

 作品として、という言葉を使った通り、じっさい両者の雰囲気がだいぶ異なる。デッドプールにはブレーキ役の恋人がいるが、ハーレイには(前半には)いないからだ。これによってデッドプールはかなりマイルドに、ハーレイクインは最後の最後のギリギリまでハーレイはエキセントリックな異常者である。それでも両者が似ているとするのは、一つにはアクション・シークエンスである。この二つの映画はどちらも同じスタントグループを使っているため、やや体の動きが似ている。これはバーズ・オブ・プレイのひとつの欠点と言えるだろう。あのデッドプール2に比べると、バーズ・オブ・プレイのアクションはやや拙い。留置所や車上など、アクション+一要素だけならちゃんと魅力的になっているように思えるが、もうひとつやらなければならないことが増えると、とたんにやりづらそうになるのだ。遊園地のアクションなどはその最たるものである。せっかく遊園地の奇妙なギミックがたくさんあるのに、ほとんど活かせていなかった。冒頭やいたるところで画面にマジックペンで落書きしたりする演出や、冒頭の足をへし折るシーン、他にもいくつかの場面で使っていたのに、このシーンに限ってはそういったこの映画の特徴でもあるエキセントリックさがなりを潜めている。個人的にはクエンティン・タランティーノの映画みたいな過剰演出ぐらいしてほしかった。前半と後半で毛色がすこしことなるのはそういう演出の差もあると思う。二つ目は……ごめん、ないかも。ごめんね。

 とはいえ面白い映画だった。ハーレイ・クイン以外だとハントレスがよかった。ワルになり切れていない設定が可愛らしい。そのうちハーレイクインに騙されて食われたりしそうな感じがする。また、レニー・モントーヤのレズビアン設定などは、かなり自然な出し方で、普通にいる感じがよかった。80年代刑事ドラマから抜け出してきたみたいな人という設定も、彼女を埋もれさせなかったいい工夫だった気がする。

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