例え浅薄な理由であっても_人間力を高める読書案内

 山を登るために大仰な理由は必要ありません。
 例え見栄を張るような浅ましい理由であっても、一言で済む単純な理由であっても、それが足を動かし始めるための理由になるなら、それだけで十分な理由になりうるのです。
 この世の根源を探し、真理に目覚めた者も、探求の発端は「死にたくない」「安寧が欲しい」だったのですから。

 陳腐な理由で動くことより、そうしてでも動く人を座ってあざ笑うことにこそ恥の根元があると知らねばなりません。

三輪裕範『人間力を高める読書案内』

 というわけで、本日はこちらの本の紹介をさせていただきます。

 この本は、伊藤忠商事に勤め、現在は同企業の経済研究所の所長を務めている著者がこれはという自己啓発書をビジネスマンを主とした読者に紹介しているブックガイドです。

 とはいえ、このブックガイドで紹介されるのはありきたりな自己啓発書ばかりではありません。もちろんカーネギー『人を動かす』のような定番のものも紹介されていますが、それだけに収まりません。

 本田静六『自分を生かす人生』、安岡正篤『活眼活学』などの少し硬い啓発書から田中菊男『現代読書法』、苅谷剛彦『知的複眼思考法』、加藤秀俊『独学のすすめ』などの学問や学びに焦点を当てている学習書。さらにはマルクス・アウレリウス『自省録』やラファエル・ケーベル『ケーベル博士随筆集』などの哲学に足を踏み込んだ古典やジョージ・ギッシング『ヘンリ・ライクロフトの私記』など自己啓発書紹介と言いつつもはや小説です。

 だからこそ、この読書案内で紹介される作品群は多少の時代の流れや環境の変化には揺るがせにされない、重厚な精神を鍛えるものばかりです。

浅はかな動機

 この本を読んだのは、確か二浪目の夏(浪人生は「夏休み」という言葉を使わない)だったと思います。当時の私は「勉強」という行為がわからなくなっており、勉強とはどのように行えばいいのか、そもそも勉強とは何だ、と軽い混乱と疑いの最中にあった。

 そんな中、私は自宅の本棚の中でほこりをかぶったこの本を見つけた。思えば、「ブックガイド・文献案内」というものに触れたのもこの時であったかもしれない。

 正直なところ、最初に読んだときの感想は、まるで役に立たないな、という感想であった。「どう学ぶか」というテーマのもとに紹介された本たちなのに受験勉強にはまるで使えない。独学のすすめといっても勉強法など書いてあるわけではないし、現代読書法に至っては売られていない、絶版なのだ。

 結局その時は近視眼的な見方でしかその本を使えていなかった。その後三浪目の秋ごろ、進路が変わり、どう生きていけばいいのかと迷いを持っていたころ、ここに載っている本を読んだ。そのとき、ここで薦められる本の真価を知ったのである。

 多少の時代や環境の変化にゆるがせられない知を身に着ける本、それは還元するとそれほど重みのある能力を人に植えつけるものである。そのような本の真価が、先数週間や数か月での結果を求める人間にわかるはずがなかったのだ。その先数十年の人生どう生きるか、という問いを胸に抱えたとき、はじめてこの本の真価を理解できたのだった。

 今ではこの本に収録される本のいくつかは私の座右の書にもなっており、ことあるごとに読み返す。そしてそこには、一見解決法でないように見えて根本的な見方を提示してくれる知識が秘められているのである。

今回取り上げた書籍​

 調べて初めて知りましたが絶版のようですね……
 古本であればAmazonに安いものもちゃんとあるようですが…


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