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「チェック柄」と「チェックする」は同じ語源

 記事は1405文字で、約2分半で読めます。

 服装の話を知り合いとしていて、「チェック柄かどうかチェックしないといけないね」とかいう寒すぎるギャグが出てきたんですよ。そのときに「チェック柄」と「チェックする」って両方とも check と綴るし同語源なのではないかという話になりました。それについて調べてみたのでまとめておきたいと思います。

両方ともチェスの用語が語源

 まず、柄の方の check ですが、これはチェス (chess) 盤の模様であることから来ています。かつてのチェック柄は2色刷りで等幅だったのでしょう。個人的に市松模様のような単純なデザインはもっと初期からあったイメージなのですが、チェスの方が先というのは驚きですね。

 そして、確認する方の check もチェスで王手を表す用語の check に由来します。似た用語に詰みを表す checkmate がありますね。こちらは少し意味が飛躍しています。「確認する」という意味で使われる英単語の check ですが、元々の語義は「動きを止めて検査する」なのです。

 王と女王の脇を司教が固め、正面を歩兵卒が、両翼側面を塔と騎士が固めていることから分かる通り、古代のチェスは軍の動かし方を模したものでした。ですから、キングがチェックされる局面というのは実質的な軍の崩壊です。そういった場面ではキングの逃げ道が僅かしかないわけで、チェックの手というのは8方向に動けるはずのキングの動きを止めて(制限して)チェックメイトの有無を検査する手だというのが check の語義に繋がっていくということになります。

チェスとチェックの語源

 さて、ゲーム名の「チェス」とその用語の「チェック」には関連性がないのでしょうか。実は驚いたことに、これら2つは少し前には同じ単語だったのです。少なくとも古フランス語においては両単語とも esches で統一されていたことが分かっており、これは俗ラテン語(狭義)の scaccus に由来します。

 さらに遡れば、「王」という意味だった中期ペルシア語の شاه (shāh) や古ペルシア語の 𐎧𐏁𐎠𐎹𐎰𐎡𐎹 (xšāyaθiya)、「力」「統治」を意味したアヴェスター語の 𐬑𐬱𐬀𐬚𐬭𐬀 (xšaϑra)、サンスクリット語の क्षत्र (kṣatra) にまで遡れます。特にサンスクリット語の क्षत्र はバラモン教社会におけるカースト制度の第2位、王族や武人階級を表すクシャトリヤ (क्षत्रिय, Kṣatriya) にもその関連性を見ることができますね。

 そして、最終的には「支配領域」を指したとされるインド・イラン祖語の kšatrám や「手で取る」「得る」の意とされる印欧祖語の tek- まで遡れるとのことです。

※註 楔形文字の音写については フランクフルト大学TITUS古ペルシア語コーパス を参考にさせていただきました。TITUSとはフランクフルト大学が提供するThesaurus Indogermanischer Text- und Sprachmaterialienインド・ヨーロッパ語族のテキストと言語のシソーラスの略です。

 ぶっちゃけ TITUS のサイトに辿り着くまでに数時間かかりました。楔形文字の音写が正しいかどうかってこんなに確認するの手間なんですね。

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