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ピエール・ボナールの「白い猫」を実体化し、共に暮らす


「白い猫」(the white cat)という絵画をご存知だろうか。

Pierre Bonnard,Le Chat blanc,1894,huile sur carton,H. 51,9 ; L. 33,5 cm. ,Achat,1982,©Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais/Patrice Schmidt
オルセー美術館公式ホームページより

それがこちら。フランスの画家ピエール・ボナールによって1894年に描かれた作品で、オルセー美術館に収蔵されている。
 
題名通り白い猫が描かれているが、なんというか、「言うべきとこは他にあるだろう」という感想をまず抱く。

ATATのようなプロポーションだが、猫を飼ったことがある人ならきっと「あぁ、こういう瞬間あるよな」と納得できる描写だと思う。
 
眠りから起き、ぐ〜〜〜っと上に伸びた一瞬を捉えたのだろうか。首が埋もれているのもリアル。

ピエール・ボナールの作品には猫が登場するものが多いが、やはり本作のインパクトは強いようだ。絵画を紹介するbotアカウントでもたびたび取り上げられており、他作品に比べて反応が多い。


僕です

2018年に国立新美術館で開催された「ピエール・ボナール展」で初めてこの作品を見て以来、筆者は「白い猫」の虜になってしまった。その時購入したポストカードをたまに眺めては、「ンッフ……」と思ったりしている。
 
ある日のこと。
 
「白い猫を実体化しよう」

そう思った。
 
筆者は引っ越しを控えており、もうすぐ実家を離れる。
 
実家では猫を飼っている。

実家猫。父のことを嫌っており、父がただ傍を通っただけで猫パンチする

すきあらば日光と埃の匂いがする猫の後頭部を吸ったり、ホァムホァムの腹毛を撫でたり、おしりをサッと触って「オチリ」と呟いたりしていた。毎日50回ぐらいは「ンかわいいネェ」とねっとり呼びかけていた。
 
そんな日々をずっと送っていた人間が、猫のいない生活に耐えられるのか?
 
否!!!
 
しかしペット可賃貸は高いし、新たな猫を迎え入れるとしても、安心安全な生活をその子に保証できる十分な蓄えもない。
 
だから元々好きだった「白い猫」を実体化して、一緒に暮らすことで寂しさを紛らわす。それしか方法はない。本当に。

♪君を作るよ

シシシシシシシシシ 白い猫♪

まずは簡単にスケッチ。

人類史上誰も見たことがない、「白い猫」の背面を想像してみる。

僕は暗算ができない

次に、大きさの比率などをものすごくざっくりと計算する。せっかくだから現実の猫よりも大きいサイズで作ろう。大きめのけものと暮らすのは人類共通の憧れなので。
 
筆者はデジタルでイラストをちょっと描いたりはするが、こういうアナログな、いわゆる工作は普段全くやらない。スキルも知恵もないが、用意周到に進めていくのは勢いとやる気を削がれるので、ある程度のワイルドさを持って作っていく。

ふわふわな毛の手触りを再現するために布を使いたかったが、スキル不足から扱いが難しいだろうということで、新聞紙を使用する。作り方は以下の通り。

①新聞紙で白い猫の土台を作る
②キッチンペーパーを土台全体に貼り付け、白くする
③顔や毛の模様を絵の具で描く

完成!

まずは土台作り。目安の大きさにカットした段ボールの上に、丸めた新聞紙を貼り付け体を形成していく。

そして頭部も付け足して……

おや? なんか香箱座りみたいでかわいいね。

<香箱座りとは>
猫が前脚を胴体の下にしまい込んで長方形っぽくなっている座り方のこと。英語圏では「Catloaf(キャットローフ)」と言うらしい。loafは塊や一斤(パンの単位のアレ)といった意味で、猫パン一斤ってあまりにも可愛い表現過ぎやしないか?

続いて、ホームセンターで買ってきた木の棒を脚の骨組みとして胴体にくっつける。

スクッ

めちゃめちゃ立ち上がってる。動物感が一気に増した。

あとは脚を太くしたり……

尻尾の骨組みをワイヤーで作ったり……

ちなみにワイヤーをペンチで切るときの感触、「パチンッ」とかなのかと思ってたら、「モツン…モツン…」という感じの不思議な感触で非常にクセになった。ストレス解消によさそう。

マズル※や耳など細部を調整し、どうにかこうにか頑張って土台は完成。
※マズル=猫の口周りの部分のこと。絵文字でいうこれ→(`ω´ )

続いてキッチンペーパーの貼り付け。水で溶いたボンドを刷毛でキッチンペーパーにぬり、ひたすら土台に貼り付けていく。

視察猫

生春巻きのような透け具合でとても不安(乾いたら大丈夫になった)。

そして顔や毛の模様をアクリル絵の具で描き……

環境汚染を描いたメッセージ性の強い風景画ではない

せっかくなので背景も制作する。

白い猫とのバランスを見ながら模写していく

そしてついに……

ついに……

完成!白い猫

けっこういい感じじゃない?

顔から首、胸あたりのつるりとしたラインなんかは結構うまくいったのではないかと思う。正面から見た脚の見え方は本家と異なるが、バランスを取るのがあまりにも難しかったので、これでよしとしよう。

ニコッ

リ猫肉(リアル世界で猫の体を受肉)できて白い猫もとっても嬉しそう。

身長160センチの家族が立つとこんな感じ。
高さ60センチ・幅45センチのビッグ猫ちゃんである(しかし体重は1.1キロ)。

未知との遭遇

実家猫がやってきた。白い猫を一旦移動させ、フォトスポット的な感じで白い猫と同じポーズをしてくれないかと期待したのだが、

一切絵に乗ることなく、横のソファでバリバリ爪をといで去って行ってしまった。

猫あるある:間違えて廊下側に締め出されてしまい、誰かが気づいてドアを開けるまでじっと待っている

咳をしても一人

こうして白い猫との生活が始まった……

とはいかず、実は色々とタイミングが合わなくて白い猫と一緒に新居に引っ越すことが叶わずで、筆者が1人先に新天地でしばらく生活していた。

新居。模範囚の部屋?

なんとまあ殺風景でつまらない部屋だろうか。入居の初期費用で懐が厳しくなってしまったのでまだ椅子を買えておらず、デスクワーカーなのに床かベッドの上での業務を強いられている。そろそろ腰が終わる。
 
在宅勤務で、近くに知り合いもいない。一言も声を発さずに1日を終えることもある。「咳をしても一人」というあの自由律俳句がものすごいリアリティを持って感じられる。無音の空間で、ただひたすらモツン…モツン…とペンチでワイヤーを切る日々……。



無理・・・・・・!!!
 
ということで頑張って時間を作って帰省。

久しぶりに実家猫と再会した。ふにゃふにゃであたたかな生き物に触れたことでちょっと泣いてしまい、すごい熱い涙が出た。尿ぐらい熱かった。
 
実家猫を吸ったり揉みしだいたりして数日過ごし、一人暮らしの部屋に帰る日を迎える。

白い猫はそれなりに大きいし尻尾が繊細なので袋に入れることはできず、新聞紙で顔と胴体を包んで持ち帰ることにした。

再現イラスト

家族の誰も運転免許を持っていないので電車で白い猫を運ぶしかなかったのだが、なぜだか筆者の周りの席は空いていて、ゆったりと帰れたのでラッキーだったなぁ。

???「ニャォ〜ン

なんだぁ?どっかから鳴き声が……

白い猫「ミ゙ョ〜〜

あっ!?

猫ちゃんが……!いる……!
 
ただ無機質な空間が、猫が現れたとたんに「猫の安全のために不要なものを片付けている部屋」に変わった。
 
ここが今から君のおうちになるんだよ。よろしくな、白い猫。

ふたりが暮らした。

──こうして、一人と一匹のエブリデイが始まった。

コラ!デスクに乗っちゃだめだって。…まあ椅子ないし使えないからいっか。

ちょっと〜、資料作んなきゃいけないのに〜。
構ってほしいのカナ?(笑)
猫ってなんで人間が集中してると邪魔してくるんだろね?(笑)

パカッという音に目ざとく反応

あちゃ〜見つかっちゃったか。ごめんこれ白い猫のごはんじゃないんだわ〜。猫缶じゃなくて人間用。

毎日飼い主がこの扉の向こうで何してんのか気になるみたいだ。
隠れてちゅ〜る食べてるとでも思ってんのかな。

不満そう

そりゃまあ、水しかないよ。そんな顔されても。

就寝したいんだけど、ど真ん中に居座られて寝れない(笑)ったく(笑)

あらっ、ヨギボーに乗っちゃって。可愛いねぇ。

これカバーごと人からもらったもので、こんなうっすいハムみたいな色のカバー嫌だったけど、白い猫の毛並みに映えるからこれでいいかもな。

筆者「白井さ〜〜ん、どうしてそんなにかわいいんですか〜?」
筆者「なんでやろなぁ?」
筆者「ねこちゃんだからよ」
筆者「って引っ越し業者違い〜〜! アリさんじゃなくてアートの箱だろっつーの笑笑」

白い猫「ンミィ」

ウケるwごめんてwつい可愛くてw
 
白い猫「ヴァッ」

筆者「……ッ!!!(白い猫の後ろ右脚がちょうど自身のへそにジャストフィットしており、へそを突き破られるのではないかという恐怖を感じている)」


……そうだ。引っ越して1カ月ぐらい経ったし、親に近況報告の動画でも送るかな。

筆者「え〜、父さん、母さん、猫ちゃん、僕はなんとか一人暮らしやっております」

筆者「でもこの前買って放置してたじゃがいもの袋開けたら『散!』って感じで虫が7匹ぐらい飛びdあっ、ちょっと」

筆者「いや〜〜…ちょっと猫が、はは」

白い猫「ルァ〜〜」

筆者「…………」

ほんとかわいいねぇちみは!!!!!
 
このような感じで暮らしております。

実家猫と離れるのが寂しい一人暮らし予定のみなさんも、白い猫を作ってみてはいかがだろうか。
 
おわり

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