チンパン回覧実記（出発前日）②

［出発前日]

　翌日。ジャコウネコの分泌液の匂いと共に清々しい朝を迎えました。近いうちに竜涎香を購入したいと思っているのですが、いかんせん高級品ですので妄想止まりとなっております。インターネットを取り込みパソコンをマリアナ海溝まで持っていき、水圧により凝縮させた小型機器の画面に連絡通知が来ておりました。

（じいちゃんからオッケーが出たよ。チンパンジーと同居できるなんて楽しみだって。じいちゃんはいつでもいいからって言ってくれてるけど、具体的に何日にする。）

　この時の感情とジャコウネコの分泌液の匂いが空間内で一致しておりますので、今後ジャコウネコの分泌液の匂いを嗅ぐときにはこの幸福感も同時に想起されることでしょう。テーブルの上でチンパンダンスを踊ってしばらくした後、「出来ればすぐに行きたいのですが」と友人に返信をしました。

（了解。明日の朝7時はどう。車で送っていくよ。でも、帰りは俺が運転しないといけないから、行きはチンパンが運転してね。）

　早速、返信をして了承を得ました。さて、手ぶらで行くのも人間界から教わったことですが、良くありませんので、何かしらお土産を持っていこうと考えました。初めはスーパーでお土産を買っていこうとしましたが、私がチンパンジーという利点を活かし、メイドバイナイジェリアチンパンの作品を持っていこうと思います。材料探索のために外出をします。

　公園に行きジャングルジムで体を動かしました。人間界に侵入した当初、公園にジャングルジムという名の遊具があると聞いて興奮したのを覚えています。色は青色で違和感はありましたが木々をすり抜ける感覚には近かったので今も使用させてもらっています。また、なぜか車に装着するタイヤも地面に埋め込まれており、これは直立歩行のバランス練習に最適です。かつて、人間界に身を置いたであろう大型類人猿のご先祖様がめり込ませたのだと考えておりますが真相は未だに解明されておりません。ブランコはなかなかの絶叫マシーンです。私が必死にブランコを漕いでいますと道行く霊長類が面白がって写真撮影をしたり、動画で撮っていたりしてヒトと類人猿の関係性を維持するキーストーン種になっているなと鼻が高くなります。競馬の練習ができる遊具もかつて私がアフリカにいたときに乗っていたジャガーを彷彿させます。あの感覚は自分が強くなったと勘違いしますのでいささか良くないことではありましたが、自信を取り戻すために時折、使用をさせて頂いております。

　いい汗を手足にかきましたので、そろそろ友人のおじい様に送るお土産の材料確保をしなければなりません。さてさて何が良いのか。役に立つ物、観賞用の物。よく分かりませんでしたので両方にしたいと思います。役に立つ物は、農家の方と伺っておりますので農具がいいかなと考えました。木を削って鍬を作成しようと思います。備中鍬ならぬ、チンパン鍬。木材はホームセンターで購入し、道具は私の握力と顎でいいでしょう。

　「すみません。鍬を作成するのに最適な木材はどれでしょうか。」

　チンパンジーの問いかけに店員さんも困惑しているようでしたが、樫(かし)や楢(なら)の木材が良いとのことでしたのでこちらを購入しました。様々な道具もあり、当初の決断はどこかへと行き、せっかくですので「のみ」も1つ購入しました。これで美しい造形に仕上げることが出来ます。

　意気揚々と木材を担ぎ、のみが入ったチンパンエコバックを手に持ち帰路に着く途中、「万屋ゴリラ」の前を通りました。

「おい、チンパン。何持ってやがんでぇ。家でも建てるんか。」