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チンパン回覧実記(序章)①

[序章]

春の訪れは人間界で言うところの出逢いと別れ。自然界で言うところの冬眠からの活動再開。自然の摂理に従えば、私ナイジェリアチンパンは活動再開に当たるのですが、人間界に身を置いていますので出逢いと別れに位置します。しかし、私には出逢いはあるけれども別れはございません。捉え方の問題ではありますが、別れとは空間共有の別れを意味し、精神的な別れを意味しない。ヒト科ヒト属ヒトの友人と人間界からこう教わりました。ヒトとは何と高等な生物なんだろうと思ったものです。さて、今回の物語はナイジェリアチンパンが人里離れた山中に住んでいるヒトのところに居候した体験となります。

[序章]

 「寒い冬も終わろうとしておりますのでどこか環境の違う場所に一時期身を置きたいのです。」

ふと漏れた言葉をヒト科ヒト属ヒトの友人は聞き逃しませんでした。

「アフリカにでも帰れば良いんじゃない。」

 至極当り前な回答です。しかし、私は「日本のどこか」というこだわりがございました。アフリカ帰路には手続きが難しくその作業を考えただけでやる気が失せてしまうのです。日本の国境(県境)を越えるには何も手続きがなく、日本古来の「入鉄砲に出女」はどこかに行ってしまいました。気楽に横断できる事が魅力ですので、「気楽に」と「自然」が今回のモチベーションとなっております。

 「アフリカではなく日本山中を味わいたいのですが何か名案はございますか。私がそのまま山に入ったりでもしたら、間違ってマタギに撃たれてしまうかもしれません。」

 友人は「確かに」と言いながら笑っています。このような非常事態は避けなければなりませんので、必ずヒトを介入させたいのです。

「そうだね。じゃあ、俺のじいちゃんが山に住んでるから、じいちゃん家で過ごしてみる。農家だから畑仕事したり、動物もたくさん飼ってるし、何より自然を感じられると思うよ。」

「素晴らしいおじい様ですね。是非ともご連絡をして頂きたいと思います。チンパンジーが居候したがっていると懇願して頂けますでしょうか。」

「オッケー。じゃあ、今母親に連絡するね。」

(ナイジェリアチンパンがじいちゃん家に泊まりたいって言ってるけど大丈夫かな)

1分後。

(大丈夫だと思うよ。連絡しておきます。母)

「これでじいちゃんがオッケーを出したら念願の日本山中で居候ができるな。マジで何もない場所だから覚悟しておけよ。」

「私を誰だと思っているのですか。アフリカタンザニア、キゴマ州マハレ山塊国立公園出身のチンパンジーですぞ。コンビニも舗装された道路もない場所で過ごした経験がありますので問題ありません。」自然と声のトーンを上げて話している自分に気がつきました。

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ナイジェリアチンパンが日本山中の生活を体験します。ヒト科ヒト属ヒトの友人の祖父に頼み居候をさせて頂くことができました。チンパンジーが日本の…

バナナを購入したいと思います。メロンも食べてみたいです。