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クリスマスのホラーな話

会社で軽めのクリスマス会があった。
一人1000円でプレゼント交換をするというので、近くのショッピングセンターで適当に探していたのだが、ここは六本木。1000円じゃろくなものがかえないのである。700円の高級マッチ、買っていってもしけて火もつかぬだろう。しかし、普段気にしないような商品を観察するのは、なかなか良い経験だった。
良さげな爪切りや耳かきなど、その場で見てるとちょっと欲しくなったりする。だが、場所を変えて改めて見ると、きっと「なにこれ?」って感じであろうことが想像ついた。物の価値は場所に依存するのである。
もちろん。どれもこれも欲しいわけではない。どんな場所でみても絶対的にいらないというものも当然のように存在している。

「これどうかな?」
と、プレゼント選びに付き合ってもらった後輩に聞くと
「野田さん、こんなの貰ったってアフリカの子どもですらその場で投げ捨てますよ」
と、軽蔑の眼差し。私は【変な顔が描かれたダルマのような脱臭剤】をそっと戻しながら「ははは冗談さ」と冷や汗を拭う。

1000円という縛りは、時に人の価値観を狂わすのだ。

迷ったあげく、私はパステルコンテを購入した。予算は大幅に越えたが、クリエイターを増やすというライフワークとの相性もいいので大義はばっちりである。 

さて、縁もたけなわプレゼント交換の時間である。私のプレゼントは普段から塗り絵をしている女の子にあたり大変喜ばれた。本当に1000円なのかという疑いの目もあったが、1000円だ!と言い張ればこの世のものはだいたいが1000円になるのである。エアーマックスもパワーストーンもアデランスも、値段などあってないようなものなのだ。

さて、喜んでもらえたのも束の間。いよいよ私がもらったプレゼントを開封する時である。正直、期待はしていないが、若干ワクワクしている自分がいた。
しかし、プレゼントとして渡された雑なビニール袋を手にした瞬間、嫌な汗が吹き出した。
この身に覚えのある感覚はなんだろうと思ったのも束の間、すぐにピンときた。
わたしはその物体をビニール越しに感じながらアフリカの子どもたちを思った。
取り出した瞬間投げ捨てるべきか、真剣に悩んだ。

しかし、こうも思った。
あの時、あんな風に馬鹿にしたからきっと仕返ししにきたのだろう。これをどこかに投げ捨てても、家に帰ったらきっと戻っているに違いない、
と。
わたしはそんな【ダルマのような脱臭剤】をビニール越しに絶望しながら、しかしどこかで違うものであってくれよと願っていた。
人間とは最後の最後まで目視しなければ、かすかな希望を見出してしまうのだ。
むろん、いやな予感は現実となり、わたしはその奇妙な物体をしっかりと受け入れて家に持って帰った。
なぜならここはアフリカではないし、その物体を見る度に、ここがアフリカでなく日本であることを自覚させるには丁度いいかもしれない。もしくは、1000円という縛りは人を狂わすということを忘れないために。


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