見出し画像

ニコスケッチ#6 絵のウソ 2023

★ 現実をそのまま描けばいいの?
★ いや、ウソを少し混ぜたほうがイイ!

  • リアルとリアリティは同じではない。リアルに描けばリアルが伝わるかというと、そうとも限らない。

  • リアリティ…少しウソが混ざっているとリアルが伝わることもある。

ある物語

ヒーローは強大なラスボスに追い込まれていた。逃げるヒーロー、追いつめるラスボス、戦いはいよいよクライマックスへ…
そのときヒーローを追うラスボスの頭上に工事中の鉄骨が落ちてきてラスボスに当たった。そしてあっけなく死んだ。ヒーローは助かったのだ、メデタシめでたし…
…なんて話だとあなたは納得しますか? しませんよね、ヒーローとラスボスとの対決をキチンと語ってくれないとダメですよね。
でも頭上から鉄骨や看板が落ちてきてケガをする…なんてことは現実にあります。だからと言って現実に起こることをそのまま物語にしたらリアルになるか? そんなことないのです。
絵も似ています。現実をそのまま描いてもリアルに見えないことあるのです。

どちらが絵として正しい?

手すり
観葉

上のふたつの画像、AとB、どちらが正しくデッサンしたようにみえますか? どちらもBに違和感を感じませんか? Bの手すりはデッサンが間違っているように見えます。Bの観葉は、幹が曲がって見えて不自然です。

実際の画像

実際の画像です。Bは現実を忠実に描いたモノです。現実をそのまま描けば、自然でリアルに見えるかというと、そうでもないこともあるのです。
手すりも観葉も極端な例ですが、現実や写真画像に引っ張られて不自然になる…なんてことは、よくあることです。

不自然な現実

例にあげた手すりや観葉画像のような、不自然な現実をそのまま描くことがダメだと言ってません。不自然な現実をそのまま描くのは難しい…ってことです。

  • 不自然な現実も、画力があればリアルに描けます。見る人は…
    「へえー変わった手すりがあるのだなあ」
    「この観葉は幹がまがっているのかあ」
    …と受け取るでしょう。しかし画力に欠けると、
    「この手すり、へんだなあ」
    「幹が曲がってへんな観葉」
    …と絵が間違ってるように思われます。

そうは言っても不自然な現実は魅力的なモチーフだったりして、描きたいけどどのように描けばイイのか? 悩みどころでもあります。

さて絵のリアリティと言うと写真みたいな絵を思い浮かべる人もいるでしょう。リアリティと言うより説得力の方が近いかもしれません。作家が描こうとした世界を見る人がなるほど…って思わせる力、とでも言うのでしょうか。
ではその説得力を与えるにはどうすればイイのでしょう? ひとつは絵に少しウソを混ぜることです。

演出と省略

ウソから出た誠、雑に言えばゴマかし、カッコよく言えば演出です。演出のひとつに省略があります。ワタシの経験では省略の仕方が見えたとき、ひとつ前進するように感じます。
見たままは描けないことが多いけど、見たままを描くこと続けていくと省略のしどころがつまめるようになります。そしてその先に、自動化、暗黙知、反応反射で描くことにつながる…と思うのです。この考えが当たっているのかどうかは、まだまだワタシの経験で計ることはできません。
演出は、絵に説得力を与えるだけでなく、よりイイ絵にするためのもでもあります。
イイ絵…とりあえず作者の意図をより明確に見る人に伝え、見る人の想像力をかき立てる絵…としときましょうか。

省略いろいろ

奈良 法起寺

ずいぶん前に描いた法起寺です。実際の風景は…

現地の風景

もっとゴチャごちゃしてます。この現場をワタシのように省略するのがイイのかどうかは、意見が分かれるかも知れません。

相楽園 旧ハッサム邸

これも以前に描いたスケッチです。実際の風景は…

現地の風景

左側に白いテントや生垣、その後ろに建物、手前にはベンチに座る人、右側はヤシの木が茂っています。
この絵は大胆に省略しています。描きたくないモノは描かない…そんな気持ちです。
ただ描きたくないには…

  • 描かないほうがイイ絵になる!

という前向きな省略と…

  • 描けない、描くのがめんどくさい!

という後ろ向きな省略があります。実際のところ明確な区別はなくあいまいです。

滋賀 近江八幡

最近描いた八幡堀です。柳と家屋のスキマから見える小舟…これをねらって描きました。手前の石畳や左手の石垣は、どう描けばイイのか分からず省略しました。後ろ向きな省略です。で、結果は手前を省略したのは正解だったと思います。

大阪 てんしば公園

これはディテールを細かく描いてません。あいまいにしてます。雨の日でした。あいまいに描くことで雨を表現したかったのです、たぶん…なんとなく後付けの説明のような…こういう省略の仕方もあるということです。

京都 笠置

今年、描いたスケッチです。

現地の風景

右の建物にフォーカスするため、左の建物を省略し茂みを大きく描きました。前向きの省略です。まあ両方の建物を描いて右にフォーカス…という表現ができたらもっとイイのかもしれません。

演出のいろいろ

省略以外にも演出にはいろいろあります。

  • 位置を変える。

  • 大きさを変える。

  • 色を変える。

  • そこにないモノを加える。

  • 圧縮

他にもいろいろあります。ただ演出を明確でわかりやすく言語化することが難しく、うまく説明できないワタシです。
そして、ここまで書いてふと思ったのは透視図法のこと。
透視図法で描かれる世界と人が見る世界にズレがあること。風景を描くとき、いくら一生懸命観察しても透視図法のような世界に見えないこともある…ってこと。なのでそのズレを調整して描くのですが、それが演出するときの感覚に似ている気がしました。まあ、透視図法のことはまたの機会に…

おまけ

手塚治虫先生が…

  • 鉄腕アトムの絵にはウソがある。アトムの頭の2本のトンガリ、どの方向から2本見える。本当なら重なって1本にしか見えない向きがある。だけどもいつも2本見えるように描く。

…のようなご自身の絵のウソのことを語ってました。

記事を読んでいただいて嬉しいです。サポートしていただけたら、今後の活動に役立てたいと思います。