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2023/1月報告書(「やまぶき」、「バビロン(1980)」、「マッドゴッド」、「ノースマン」/ヤクザ映画小祭り、「サバービコン」「XYZマーダーズ」、「レポマン」「ヴェンジェンス 最後の復讐」)

 森田芳光監督作を全作レビューしていくnoteを今までやってきたわけですが、現在完全に座礁しています。せっかくインストールしたこのアプリが勿体ない!ということで、手軽にできるブログ的なものをやることにしてみました。果たして来月まで続けられるのか!?という早すぎる不安と無さすぎる自信はさておき、2023年1月に観た映画を振り返って行きたいと思います。

新作編

 今年に入ってからは映画館で4本の作品を観ました。「ノースマン」以外は昨年公開作で、「バビロン」に至っては1980年の作品なので、まだ2023年、映画生活が始まったという感慨は正直ないです。とはいえリバイバル上映の「バビロン」以外は今年の映画ベストテン対象作品です。

劇場始め「やまぶき」

 https://twitter.com/detective_cage/status/1612081881478213632?t=-C5Hc13OWxqyQpx_hTcF4w&s=19

 2022年の劇場始めは、岡山で農業を営みながら映画製作をしているという山崎樹一郎監督の作品「やまぶき」。空族作品から入江悠「ビジランテ」「シュシュシュの娘」まで、日本の地方都市を舞台にした映画というのにどうにも惹かれるので、本作もチェックしたのですが、すごく良かったです。地に足の着いた日常がまさに“転がる石のように”壊れていく様の、映画的説得力。それまでのリアリティラインとは異なるような荒唐無稽な飛躍も、不思議と受け入れさせられる強かさを感じました。エンドロールも良かったですね。黙ってジッと立ち尽していてるように見えても、心には色んな感情や想いで溢れ返りそうになっている。そんな映画でした。


チャゼルじゃないよ「バビロン(1980)」

 https://twitter.com/detective_cage/status/1612755929317138432?t=fVzZZnQ5xXl2uZ6Xofj47g&s=19

 デイミアン・チャゼル最新作「バビロン」が2/10から公開されるわけですが、先だって約40年前に製作された同名イギリス映画がようやく海を渡り日本初公開されていたのです。劇場前にはラスタカラーのタム帽を被った高齢男性を中心に、レゲエ好き達の輪が出来あがっていました。そんなホットな熱量を生で感じられるのも映画館の醍醐味です。
 豪華絢爛、酒池肉林な退廃の都ハリウッドを古代都市バビロニアとして描くチャゼル版とは異なり、本作での“バビロン”という言葉は悪しき権力などを意味するレゲエの用語からの引用。レゲエに青春を捧げる主人公たちに降りかかる激しい黒人差別とそれに起因した暴力は本作が公開された1980年から現在に至るまで、何も変わっていません。残酷な結末を迎える本作ですが、ダメな奴らだけど憎めない主人公とその友人たちのキャッキャ具合、本物のレゲエミュージシャンたちが提供した劇伴や劇中で披露される圧巻のパフォーマンスが超パワフルかつ魅力的で、不思議と後味は爽やかでした。


人体破壊と汚物でデトックス「マッドゴッド」

 https://twitter.com/detective_cage/status/1616785638401150976?t=zCOBqoQ-L0t9cOsGe7bo8g&s=19

 Twitterのタイムラインに賛辞の言葉として「心地良すぎて寝た」という感想が流れてきた時は「面白いんなら、ちゃんと起きて観たいなぁ……」という思いを抱きました。最後まで起きていようという決意のもと、いざ鑑賞を始めるとあら不思議!体の強張りが解けていき、大音量の不気味な劇伴と汚物と臓物が破壊されるグチャグチャという音に包まれながらいつの間にやら瞼を上げておくのも億劫な状態に。最終的には(おそらくですが)10分くらい寝てました。「何も内容が分からなかった……」と劇場を出たわけですが、なぜだか気持ちは晴れやかでした。下世話な話になりますが、ちょっと性的なスッキリ感がありました。極上の賢者タイムを味わえた作品です。


低体温残酷活劇「ノースマン 導かれし復讐者」

 https://twitter.com/detective_cage/status/1620076663982948353?t=_xD57iolvfv0Np7hcU4qyw&s=19

「ライトハウス」ロバート・エガース監督の復讐一代記です。非常に残酷で容赦ない描写や展開も多いですが、不思議とそこにエグみはなく、正直味気無さを感じました。「ウィッチ」や「ライトハウス」を思い出してこの味気無さの理由を考えると、ロバート・エガース監督作品の重要な要素であるホモソーシャル社会の暴力性を、内側からではなく外側から見ているような印象を受けるからじゃないかという仮説が思い浮かびました。画面構成といい、人物への突き放した視点といい、キューブリック的な皮肉な作りが特徴の人だと思います。A24ホラー組ということで比べがちな、明らかに実生活のトラウマを反映した物語で、対象との距離のとり方に異常を感じさせるアリ・アスター作品との違いが、本作を通してくっきり浮かび上がった気がします。俺はアリ・アスター作品の方が好き。キモいから


旧作編

 暇人だもんで、日がなボケっとテレビで映画を観ているわけなんです。

ヤクザ映画小祭り

 特にカッチリやっていたわけではないですが、新年の景気づけの意味もあり、まだ観ていないヤクザ・マフィア・ギャング映画をセレクトして観た1ヶ月でもありました。

  • 日本の首領(ドン)シリーズ3作

  • カポネ

  • 聖女伝説

  • シチリアーノ 裏切りの美学

  • 無頼

  • ヤクザと家族 The Family

 個人的には「カポネ」がかなり好みの作品でした。病とFBIからの執拗な監視により、完全に狂人と化した晩年のアル・カポネの姿は、凶悪なギャングだった男の虚飾が剥ぎ取られ、怪物性が剥き出しになったような凄まじさを感じました。ただ、いくらアル・カポネとはいえ病人を怪物みたいに描く姿勢はちょっとどうなのかな……とは思ったり。悪趣味さは感じました。でもそこが好きだったりするんですよね、悩ましい。

 「無頼」は井筒和幸最新作ということで、割と期待してました。井筒和幸本人は全く好きにはなれませんが、「ヒーローショー」は生涯ベスト衝撃作なので、何かくるものがあるんではないかと思って。ただ、なんかすごく変な映画だったんですよね。美術や小道具の作り込み、役者の演技など、一つ一つの画面の密度が凄まじく、“低予算作品にしては”というレベルではない、近年の邦画大作と比べても頭一つ抜けたようなリッチさを感じました。そこは素直にさすがベテランと思ったんですが、肝心の中身はというと、無いんです!無い!ただただあるヤクザの生涯が和気あいあいと描かれるだけです。点と点が線にならないというか。濃い点がまさに点々とあるだけ。どういう意図で作られた作品なんだろうと思わずにはいられませんでした。

「ヤクザと家族 The Family」に関しては、まあまあまあ……。組長襲撃シーンなどのアクション場面にはオッ!と感じるものがありましたが、高校生がインスタにアップする卒業おめでとう皆ありがとう動画みたいな湿っぽさが合いませんでした。普通の会社の上司より優しい舘ひろし演じるヤクザの組長にもビックリしましたが。藤井道人監督、今年公開の村スリラー「ヴィレッジ」と「最後まで行く」リメイクなど、作品の題材は自分好みなんですけどね。ちょっと不安だな……。

 あとこの2本に限らず、最近の映画に出てくる犯罪者はやたらと自分の生い立ちや境遇を語りたがるなと思います。そういった過酷な環境要因が犯罪を生むというのは理屈として分かるし、現実にそういう人たちがいるのも分かるんですが、「そろそろ帰っていいスかね……」みたいな気分になってきます。人間味を出したいなら、別に「虐待されて……」とか「いじめられて……」とかじゃない方法もあると思うんですが。犯罪者にスティグマを植え付けてませんよ!という製作者側のアリバイ作りなんじゃないかと思える時もあるのですが、穿った見方でしょうか。

コーエン兄弟が好き「サバービコン 仮面を被った街」「XYYマーダーズ」

 https://twitter.com/detective_cage/status/1612357337771282435?t=-JR_6x9kWcvXC6c1CSV6sw&s=19

 https://twitter.com/detective_cage/status/1620312024994693120?t=tG3OAwUtER0U4u-Xj5yAGw&s=19

 どちらもコーエン兄弟が脚本に関わっている作品です。好きなんですよ、あの人をバカにした酷薄な世界観。映画が好きになってすぐの時期に「ファーゴ」や「ビッグ・リボウスキ」にドハマりしてハメットやチャンドラーの小説にも手を出したような人間なので、もう故郷の味みたいなもんです。「XYZマーダーズ」はそこにサム・ライミ(「死霊のはらわた」!「ダークマン」!大好き!)のカートゥーン風お馬鹿コメディまで加わって、至福の一時でした。「サバービコン」はダメなところもあったけど(メインの事件と人種差別批判のサブプロットが全然繋がってないとか)、自分の親が明らかに良からぬ隠しごとをしているということへの気持ち悪さや、アホみたいな方法で人が死にまくる終盤など、彼らのドス黒い世界観がベッタリと貼り付いた作品で、大満足でした。



「レポマン」これがアメリカ映画だ!

 https://twitter.com/detective_cage/status/1619574377514938368?t=WCQejUwpbNGApUArIb_FpQ&s=19

 初めてアレックス・コックス監督作を観たのですが(その前に出演作の「マッドゴッド」は観てますね、覚えてないけど)、この真似したら間違いなく火傷するんだけど、「これなら俺にも撮れそう!」と思わせてくれる土臭くてポップでカッコつけな魅力に、俺も当てられてしまいました。最高だ!観た直後は、90年代のサブカル系みたいなテイストだなと思ってたけど、今はこれが"アメリカ映画なんだよな”というところに落ち着いてます。ロビー・ミューラー撮影の映画は、アメリカ度強く感じます。


1月のワースト

ヴェンジェンス 最後の復讐

 今までは誰かの恨みを買いたくない一心で、面白くなかった映画の悪口なんか書くまい……と思っていたんですが、しかし実際映画の悪口言うのって映画を褒めるより楽しいし、脳が段違いに活性化するんですよね。なので、とりあえず"今月のワースト”枠を作ってみました。卑しい人間です私は。
 本作はなんとなくあらすじを読んで気になりWOWOWで録画して鑑賞したんですが、まあ酷い!本当に酷い!掛け値無しに酷い!恐らく産まれてすぐの赤ん坊にこの映画を観せても「酷い!」と立ち上がるのではないかというぐらい酷いです。俺の中では、映画の駄作基準の最低(最高?)ランクに位置する作品です。

こんな映画を海を越えて運んでくるな!


 あらすじは、チャールズ・ブロンソンの「デス・ウィッシュ」シリーズやマイケル・ケインの「狼たちの処刑台」あたりが元ネタだろうと思われるいわゆる自警団もので、娘をレイプされた初老のアウトローが街の極悪不良を相手に大立ち回りの復讐劇……かと思うじゃないですか?
 違うんです。この親父、復讐も何も出来ないんです。不良相手にイキり散らかして喧嘩を売ったらアッサリ返り討ち。不良のリーダーの母ちゃんが「コラーッ!」と不良を追い払うまでタコ殴りされてるだけです。(大体この不良たちも道端で通りすがりの女性を遊び半分でレイプするような外道集団のくせに、劇中ではその辺の公園や道端でボーッとしてるだけです。もう帰って寝ろ!)そしてラスト近く、再び親父が彼らと対峙するシーン。ようやく決着が……と思いきや、なんとここでも親父が背後を取られ、ナイフで背中をグサリでダウン!この時点でやめちまえ!とこちらは叫んでいるわけですが、ここで再び母ちゃん登場、「コラーッ!」と不肖の息子を追い回した結果、主人公の仇であるその不良は偶然通りかかったトラックにあっさり轢き殺されてしまいます。
……何なんだこの結末は!「最後の復讐」わい!こんなに期待外れな主人公もなかなかいません。
 その無能主人公を演じるビリー・マーレイのキザったらしい演技もなかなか酷いです。燻し銀でございというような佇まいもさることながら、ほぼ生き別れ状態だった娘に対面し、彼女に父親としての責務を果たさなかったことへの激しい怒りと呪詛をぶつけられるシーン(あとこの作品は1時間弱の短いランタイムですが、会話シーンがかなりの時間を占める上に編集などのせいか凄く間延びしています。辛いです。)では、沈痛の気持ちを表現したいのか、相対する娘の斜め上辺りの遠くを見つめる演技をします。それが「説教早く終わんねぇかなぁ」の顔にしか見えません。俺は産まれて初めて人が人の話を聞くのを辞める場面に立ち会えました。そして案の定、次のシーンでは娘の忠告を無視し(道端でボーっとしてた)不良に喧嘩をふっかけます。そのせいで、娘の家は報復として焼かれてしまいます。馬鹿すぎる……。
 

 ここまで書いて、改めてここまで人を怒らせ、筆を走らせる力をくれる映画もないなと気づきました。そういう意味では、本作は非常にエモーショナルな傑作なのかもしれません。
だから、ここまで読んだそこのお前!お前も観るんだ!「ヴェンジェンス 最後の復讐」を!!


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