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ニコニコ雑記:ダメ人間(しかも殺人鬼)の生活記「ドリラー・キラー」

 首都圏やら大都市の方では同じアベル・フェラーラの未DVD化作品「天使の復讐」が劇場で上映されているみたいですが、まあ地方民には縁のない話(「バッド・ルーテナント」リバイバルはあるので、行こうと思ってるけど)、ということで、去年買った「ドリラー・キラー」のBlu-rayを観ました。こどもの日の夜中に!

イカしたポスター

 フェラーラ自身が演じる主人公リノは売れない画家。「俺は傑作を描いてるってのに、金は無え!女はうるせえ!隣の部屋のバンド演奏もうるせえ!画商は偉そう!全員死ね!!」と悶々鬱屈を溜め込む中、夜中にボーっと観ていたTV通販で偶然知った携帯用バッテリー、これを家にある電気ドリルと組み合わせればアラ不思議!気分爽快殺人マシンが出来上がるではないか!ということで、リノは夜な夜な衝動の赴くままに街をさまよい獲物(主に路上生活者)をドリルで穿り回す、殺人鬼“ドリラー・キラー”へと変貌を遂げるのだった──。

 と、おどろおどろしい感じであらすじを書いてみたが、実際に映画を観るとそういったホラーやスリラーの要素はあまりない。殺人シーンではそれっぽい音楽とムードは出してるが、もっと印象に残るのは70年代NYの荒れた街並み、堅気ともヤクザともつかない人々の姿、そしてそこから滲み出る殺伐とした空気感をそのままパッケージングしたような撮影だ。映し出される路上生活者(寝ゲロを吐いてたりする)はゲリラ撮影で撮られてるんじゃないかな?という生感だし、リノがマンションの屋上から通行人が襲撃されるのを目撃するシーンも、望遠撮影のドキュメント性も相まってマジの事件映しちゃったんじゃ……という迫真性がある。
 また、本筋とはあんまり関係なさそうなリノの隣室のロックバンド「ザ・ルースターズ」の練習風景やライブもやたらとフューチャーされており、音楽映画としても結構楽しめる。

 鬱屈と暴力衝動を溜め込む主人公リノとその他の人々のドラマも味わい深い。特に同居する恋人キャロルとのエピソードは一抹の切なさも感じさせる。まあその切なさも、ラストでリノが台無しにするんですが……。

「絵、ほぼ完成してんだからもう売ればいいじゃん」という恋人キャロルの一言に対してブチギレ、
二十三言くらい余計に言い返すリノ(アベル・フェラーラ)

 殺人衝動を開放するシーンに至るまでの「不思議の国のアリス」を思わせるシュールな撮影と編集、時折映し出される暴力衝動に溺れるリノのイメージショットなど、ドキュメンタリックな作りの中にもアートな要素も織り込まれた傑作です。

余談・思い出した映画

①「タクシードライバー」
 
70年代NYの荒れた街で暴力衝動を爆発させる男といえば、映画好きならまず「タクシードライバー」のトラヴィスを思い出す。ただ、非モテ拗らせ男子だったトラヴィスと違い、「ドリラー・キラー」のリノは恋人キャロルに加え、何故かもう一人セフレ?の若い女性(いつもラリパッパ)と同居するモテ野郎なのである。ただ、中絶費は画商にタカるなど、モテる故の害悪性はこっちのほうがある。
「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」
 
実在のドイツの殺人鬼フリッツ・ホンカが主役の映画だが、実録モノというよりもダメ人間(しかも殺人鬼)の生活記を描くというスタンスが強く打ち出された作品。そのスタンスが「ドリラー・キラー」と重なる。
ロマンポルノ
 
特定の作品を思い出したわけではないが、あのうだつの上がらない+鬱屈とした空気感がロマンポルノっぽいなと思ったり。男1人女2人の共同生活(同性の間でも性愛が交わされる)とかも、なんかそれっぽい。

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