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森田芳光全映画フルマラソン

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抽選で当たった森田芳光監督作品Blu-rayボックスを観て感想を書いていくシリーズ。
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森田芳光全映画フルマラソン⑪「愛と平成の色男」──グルーヴィー!パロディー!バブリー!!

森田芳光全映画フルマラソン⑪「愛と平成の色男」──グルーヴィー!パロディー!バブリー!!

"石田純一が"、"プレイボーイの役を演じる"、"1989年の映画"というだけで、その時代の浮かれ具合を感じずにはいられないのが本作、「愛と平成の色男」。実際はバブル崩壊直前、石田純一も不倫文化野郎のレッテルが貼られる前に作られた作品だが(石田に対し真面目な印象を抱いていた森田芳光が、あえて逆の役を演じてもらおうではないかとキャスティングしたのだそう。今ではただのタイプキャスト。)、バブル未経験,

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森田芳光全映画フルマラソン⑩「悲しい色やねん」──シュールでほろ苦い、異色のヤクザ映画

森田芳光全映画フルマラソン⑩「悲しい色やねん」──シュールでほろ苦い、異色のヤクザ映画

「悲しい色やねん」は、森田芳光のフィルモグラフィー唯一のヤクザ映画である。この頃(本作は1988年公開)のヤクザ映画を調べれば、「鬼龍院花子の生涯」や「極道の妻たち」など女性の情念を激しい濡れ場や乱闘シーンで表現した五社英雄が活躍した時代であることが分かる。五社とは正反対の作家性の森田は、そんな中でどのようなヤクザ映画を手掛けたのか?

あらすじ(「森田芳光全映画」より引用)

夕張トオル(仲

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森田芳光映画フルマラソン⑨:「そろばんずく」──やってやって、やりまくりの広告業界コメデ ィ

まず始めに──「そろばんずく」は"幻の作品"?

「森田芳光全監督作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray box」に(の・ようなもの)と入っているのは、今回取り上げる「そろばんずく」が収録されていないからである。書籍「森田芳光全映画」共著者の宇多丸のラジオでの発言や書籍収録のスチール写真などから分析するに、どうも本作の主演、とんねるずの二人及びヒロインの安田成美側からの版権許諾がおりな

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森田芳光全映画フルマラソン⑧:「それから」──森田芳光の新境地と映画史の"それから"

森田芳光全映画フルマラソン⑧:「それから」──森田芳光の新境地と映画史の"それから"

「家族ゲーム」で意気投合し、それぞれ高い評価を得た森田芳光と松田優作。「家族ゲーム」から2年後、再びタッグを組んだ二人が挑んだのが、兼ねてから森田芳光が映画化を望んでいた、文豪夏目漱石の「それから」。本作で再びキネマ旬報ベスト・テン第一位を獲得、その他映画賞も総なめした森田芳光は、名実共に「若き巨匠」(当時35歳)へとステップアップを果たした。

あらすじ

高等遊民を自認する長井代助(松田優

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森田芳光全映画フルマラソン⑦:「メイン・テーマ」──技術と遊び心のマジックボックス

森田芳光全映画フルマラソン⑦:「メイン・テーマ」──技術と遊び心のマジックボックス

「家族ゲーム」、「ときめきに死す」とダークな色の強い作品が続いた中で、森田芳光が次に撮ったのは、80年代日本映画を代表するプロデューサー角川春樹製作、人気アイドル薬師丸ひろ子主演の「メイン・テーマ」。予算もこれまでの森田作品と比べ格段に上がり、浜松、大阪、神戸、沖縄と一大ロケを敢行、併映の「愛情物語」と共に大ヒットを記録した。

あらすじ

幼稚園の先生だった小笠原しぶき(薬師丸ひろ子)は、些細

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森田芳光全映画フルマラソン⑥:「ときめきに死す」──涼やかな緑の地獄

森田芳光全映画フルマラソン⑥:「ときめきに死す」──涼やかな緑の地獄

それまでのコミカルでスタイリッシュな手法で描かれた青春劇から様相を変え、全編に厭な緊張感が張り詰めたブラックコメディの傑作「家族ゲーム」は、1983年の日本映画界を席巻し、名実共に森田芳光の代表作となった。その「家族ゲーム」完成直後、沢田研二主演の企画として監督の元へやって来た本作「ときめきに死す」は、公開時こそあまり高い評価を得ることは出来なかったものの、岩井俊二、細田守、菊地成孔、そして「森

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森田芳光全映画フルマラソン⑤:「家族ゲーム」──過渡期についての観察劇、そして松田優作。

森田芳光全映画フルマラソン⑤:「家族ゲーム」──過渡期についての観察劇、そして松田優作。

ロマンポルノ二作を監督し、カメラの動かし方、セットの使い方など職業監督としての技術を習得した森田芳光。その次に控えていた本間洋平による同名小説の映画化「家族ゲーム」は、「の・ようなもの」から続いていた明るく牧歌的な青春映画路線とは異なる、時代の変容を独特のタッチで表現した気味の悪いホームドラマを完成させ、80年代を代表する日本映画の名作となった。

あらすじ 中学3年生の沼田茂之(宮川一朗

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森田芳光全映画フルマラソン③④:「(本)噂のストリッパー」「ピンクカット 太く愛して深く愛して」──森田流ロマンポルノ2本立て

森田芳光全映画フルマラソン③④:「(本)噂のストリッパー」「ピンクカット 太く愛して深く愛して」──森田流ロマンポルノ2本立て

シブがき隊主演「ボーイズ&ガールズ」撮影後、間髪入れずに撮られたのが映画史に一時代を築いたにっかつロマンポルノとして制作された「(本)噂のストリッパー」。本作がにっかつ重役からも好評をはくし、続けざまに制作された「ピンクカット 太く愛して深く愛して」。

ロマンポルノというと、数本しか観たことがないけれど、"うらぶれた男女がやるせなく情事を重ね……"というような、泥臭さや場末感が独特の味になって

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森田芳光全映画フルマラソン②:「ボーイズ&ガールズ」──より堅実,より無邪気

森田芳光全映画フルマラソン②:「ボーイズ&ガールズ」──より堅実,より無邪気

独立独歩で撮った「の・ようなもの」で高い評価を得た森田芳光監督。「の・ようなもの」発表後は製作費の回収のために、

・日活ロマンポルノ「(本)噂のストリッパー」の脚本
・言わずと知れた代表作「家族ゲーム」の脚本

そして本作、

・売り出し中のジャニーズアイドル「シブがき隊」の主演映画「ボーイズ&ガールズ」

この3本の脚本を、僅か1ヶ月で書き上げるという、馬車馬並みのえげつなハードワークをこ

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森田芳光全映画フルマラソン①:「の・ようなもの」──脱線の肯定

森田芳光全映画フルマラソン①:「の・ようなもの」──脱線の肯定

然る年末の夕暮れ、俺の家に覚えのない小包が届いた。

あっ!「生誕70周年記念 森田芳光全監督作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」じゃない!
そうだ。ケーブルテレビで「抽選2名様にプレゼント!」というキャンペーンのCMをやっているのを見て、俺も応募したんだった。なんと、2名様の内の1名様に選ばれたのが俺だったのだ。

突如訪れたビッグサプライズに戸惑い

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