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「冷気と熱気。」/ショートストーリー

私は異常に冷たい。そのせいか夏は過ごしやすい。クーラーとかをつけたことがない。だた体温計で測っても普通の体温なので不思議だけど。

身に纏っている何かなのかもしれない。冷気っていうのだろうか。ほかの人はどうなのか聞いたことはないのでわからないが、私と相性の悪いひとは多分ほとんどの場合、私と同じように冷たいはずだ。

私と相性が良いのは私と反対の熱いひとなのだ。特に体の相性は。体の相性は反対のタイプでないと凍えてしまうのではないかと思う。実際に初めての男がそうだった。

ほんとに好きなのかあまりよくわからなかった。ただ勢いでその男との行為のさなか、私は痛みにたえるだけで精一杯だった。それで相手のことまで気がまわらなかったが、行為のあと相手の様子がおかしくなった。

寒い寒いと言って身体をがたがたと震わせる。そういえば、私もなんだか寒いのである。私たちは矢も楯もたまらず風呂に入ることにしたのだ。その時、異常さに気がついた。風呂のお湯があっという間につめたくなってしまったのである。長い間、お湯を出しぱっなしにして、ようやく私たちの身体は温まった。そして泊ることもせずに男のほうは無言で私の部屋をでていった。もし、身体を温めるすべがなかったら私たち二人はどうなっていたのだろう。

男のほうは最初からそのつもりだったのか、それとも私との行為が引き金になったのかわからなかったが、違う女と結婚してしまいそれ以後会うことはなかった。

だがそのおかげで、私はとても慎重につき合うことになった。そして何人かとつきあうとわかったことがあった。私は異常に冷たい。観察するとよく分かった。手を握っただけでもキスしただけでも相手が私と同じタイプだと寒気を感じてしまう。反対になんでもないひともいて、彼らはどうやら私とは反対に熱気を身に纏っているらしい。そういう相手とつき合えれば最高なのだが。ただ、相手の熱気も私の冷気に合わせて異常に熱くないとお互いに喜びを感じることができない。私は好きになるひととか愛するひとが熱気のタイプなんてことはそう上手くはいかないと思っている。体の相性だけではすまされないもの。

ある日。8歳年下のバイト君と帰りが一緒になった。一人っ子の私は、同じ部署のバイト君にたいして弟ができたみたい感じで可愛がっていた。駅へ行くまでの道すがら、バイト君は大学を卒業するのでバイトもそろそろ終わりだと言う。それでは飲みに行こうと私が誘った。ちょうどクリスマスイブ。私もバイト君も一緒に過ごす相手がいなかった。

本当は、バイト君のことを弟でなくて男として好ましかったのだろうか。アルコールも入っていたせいもあったのか、ついいたずらでバイト君にキスしてしまった。下手すると唇が凍傷の恐れもあったのだが、やっぱりクリスマスというシチュエーションだったからかもしれない。


熱い。熱いのだ。こんな熱いキスを経験したことがなかった。結局、私たちふたりはその夜にバイト君の部屋で結ばれた。

12月の寒い寒い朝を迎えた。それなのに部屋には暖房器具がみあたらなかった。

「暖かいね。」とバイト君はそういうと私の肩を抱いてくれた。私と言えば身体がぽかぽかとして眠かった。

「ねえ。僕とつきあって欲しい。」

私はちょっと驚いてバイト君をみつめてしまった。

「だって、今までのつき合ったひとたちは僕のこと熱い熱いって言って、最後までいかないことが多いんだ。気のせいかよく夏は振られる。」と少し顔を赤めて笑って言った。

彼は、どうやらあまり自分の熱気のことが分かっていないらしい。正直、イケメンではないし女のコ慣れしていない感じもする。でも、私にはかわいい。弟からいきなり男になってしまったけど。

「えーと。私のこと好きなの。」

「好意がなかったら一緒に飲みになんか行かないよ。気になっていたけど、僕年下だし。まさか彼氏がいないなんて思わなかった。」

「僕のこと好きだよね。だってあんなに。。。」と最後まで言えずにバイト君は照れくさそうな顔してうつむいた。

私は、あんなに燃えたことがなかった。


私たちの相性は最高だと思う。男女としてつきあうと年齢差がひっかかるかもしれない。それでも、昔の世代とは違うからきっと大丈夫。支えあって生きていけばよい。

冷気と熱気で。

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