ラジオドラマ「はなせない訳」

概要:シナリオ学校の課題にて執筆。媒体はラジオドラマという条件。尺は約5分。2009/09/23作。

〇登場人物
タケル(27)
アキラ(27)
ユカリ(24)


   SE 強い風の音

アキラ「おい! 離せ!」
ユカリ「(小さな声で)離して」
タケル「嫌や!」
アキラ「いいから離せって!」
ユカリ「(小さな声で)離してよ」
タケル「いや、絶対離さん!」
アキラ「なんでやねん! 離せよ!」
タケル「嫌や! 離したくない!」
アキラ「なんで離さんねん! お前っていつもそうやな。俺んちのベランダ
 でも、駅のホームでも……絶対離してくれへんかったよな」
タケル「だって……」
アキラ「頼むから離してくれよ」
タケル「嫌や!」
アキラ「なんで離してくれへんねん……友達やろ?」
タケル「友達やからこそ離したくないねん!」
アキラ「いいから離せって!」
ユカリ「(少し大きな声で)離して」
タケル「そんなことしたら、この崖からお前が落ちてしまうやんか!」
アキラ「いいねん! 俺はそれを望んでるんやから!」
タケル「そんな……」
アキラ「いい加減、その手を離してくれ!」
タケル「お前こそいい加減にしろよ! いくらユカリが自殺したからって、
 お前がその後を追うことないやろ!」
アキラ「……」
タケル「お前が責任を感じることはない。ユカリだってそんなこと望んでな
 いって!」
アキラ「……ええねん、もう疲れた」
タケル「……」
アキラ「それにな……なんかユカリがそばにいる気がするねん」
タケル「えっ……?!」
アキラ「あいつが飛び下りたあの日からずっと……あいつは俺のそばにい
 る」
タケル「……」
アキラ「あいつは寂しいんや、絶対。俺はあいつを一人にしたくない」
タケル「アキラ……」

   SE 強くなる風の音

タケル「……もうやめようや、こんなこと。空も荒れてきたし、さっさと帰
 ろう。な?」
アキラ「離せって! なんで離してくれへんねん?!」
タケル「だって、それはお前がなんか引っ張られてるような気がして……」
アキラ「頼むから離してくれ!」
ユカリ「(強い口調で)離しなさい」
タケル「嫌や! 絶対離さん!」

   SE ズルッと滑る音

アキラ「このままじゃ、お前まで落ちてしまうぞ!」
タケル「(苦しそうに)くっ……」
アキラ「早く離せ! お前を巻き込みたくない!」
タケル「何言ってんねん……ふんっ……友達やろ」
アキラ「タケル……」
タケル「絶対お前を死なさへん!」

   SE ズルズルッと滑っていく音

タケル・アキラ「うわぁー!」

   SE 崖から滑り落ちる音
   SE 木の枝を折りながらドスン落ちる音

タケル「……うぅ~、いてて」
アキラ「うぅ……」
タケル「おい! 大丈夫か?」
アキラ「どうなったんや……俺は生きてるんか?」
タケル「あぁ! 途中の木がクッションになって助かったみたいや!」
アキラ「そうか……生きてるのか、俺は」
タケル「ユカリがお前に生きろって言ってるんやって、絶対」
アキラ「そうか……そうかもな、ははっ」
タケル「もう死のうとかせんといてくれよ」
アキラ「あぁ……俺はこれからも生きるよ。ユカリの分も」

   笑い合うタケルとアキラ

ユカリ「(うらめしそうに)……死ねばよかったのに」

   SE 強い風の音

                              (了)

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