映像シナリオ「蜘蛛と蝶」
概要:シナリオ学校の課題にて執筆。“今どき・ラブストーリー”という条件あり。尺は約14分。2009/02/14作。
〇ログライン
格差がある相手に片思いをして失恋した男が少し成長する話。
〇登場人物
遠山智(23)サーカスの雑用係
久保梓(21)空中ブランコ乗り
有馬真一(25)梓の恋人
木下和也(23)道化師
白井(53)団長
紙芝居屋の男
〇 サーカスのテント・ステージ
広いステージを取り囲むように客席が並ぶサーカスのテント内。
ステージの中心に空中ブランコのセットがあり、転落防止のネットが
張り巡らされている。
そのセットから離れてステージの周りでは、他の演目の練習をしてい
る団員たちがいる。
空中ブランコの練習をしている団員の中に久保梓(21)がいる。
華麗にブランコからブランコへ飛ぶ梓。
遠山智(23)、小道具が入った箱を抱えたまま、地上からじっと梓を
見つめている。
セットの両端のジャンプ台に戻る梓、有馬真一(25)と楽しそうに笑
う。
その様子を地上から寂しそうな表情で見つめている遠山。
道化師の衣装を持った木下和也(23)、梓を見つめている遠山に気づ
く。
〇 同・機材置き場
遠山、一人でサーカスで使う道具の整理をしている。
梓、静かに近づき興味津々に道具を見わたす。
黙々と作業している遠山、梓には気付いていない。
梓「へぇ~、いろんな道具が揃ってるんですね」
梓の声に驚いて振り返る遠山。
梓、楽しそうに微笑んで遠山を見ている。
梓「これは何に使うの?」
梓、手近にあった短剣を取り上げる。
遠山「……え? ああ、それは手品で使うんだよ」
梓「ふ~ん……じゃあ、これは?」
梓、笑い袋がボールになったものを取り上げる。
遠山「それは、ジャグリングで」
梓「これは?」
シャボン玉が出る飛行機のおもちゃを取り上げる梓。
遠山「それは、道化芸で」
梓「じゃあ、これは何かしら?」
梓、プレゼントのようにラッピングされたビックリ箱を取り出し、蓋
を開ける。
勢いよく中身が飛び出てきて驚く梓。
遠山「それも道化芸の小道具だよ」
笑い合う遠山と梓。
梓「私、今まで空中ブランコの練習ばっか練習してきたから、他の演目には
疎くて……」
梓、少し寂しそうな表情で呟く。
梓「空中ブランコしかできない自分が嫌……」
遠山「そ、そんなことないよ!」
オドオドしながら話す遠山。
遠山「君はこのサーカスのスターなんだよ。そ、それってとてもすごいこと
だと思う」
梓、言葉に詰まりながら話す遠山に微笑みかける。
そこへ白井(53)が梓を探しに来る。
白井「お~梓、こんなとこにいたか」
梓「団長」
白井、笑顔で梓に話しかける。
白井「スポンサーがお前に会いたがっている。お前の演技は素晴らしいって
べた褒めだ。さ、こんなとこで油売ってないで早く来なさい」
白井、遠山を睨み厳しく当たる。
白井「お前、ちゃんと仕事してるんだろうな? サボったら承知しねぇから
な! あ、お前、後で木下と買出しに行ってこいよ」
遠山「はい……」
俯く遠山。
白井、見下した表情で遠山を睨むと、笑顔で梓に話しかける。
白井「さ、行くぞ。スポンサーがお待ちだ」
さっさと歩いていく白井。
梓、心配そうに遠山をちらっと見ると、白井の後についていく。
暗い表情で梓の後ろ姿を見つめる遠山。
〇 街中(夕)
クリスマスの飾りで彩られた街中。
遠山と木下、両手にスーパーの袋を持ち、並んで歩いている。
木下「お前、梓のこと好きなんだろ?」
驚いたように木下を見る遠山。
木下「やめとけ……お前には高嶺の花だ」
少し俯き無言で歩き続ける遠山。
木下、心配そうな表情で遠山を見る。
〇 広場(夕)
噴水がある広場。
大道芸人や路上でポストカードやアクセサリーを売っている人がい
る。
広場を通り抜ける遠山と木下、男が紙芝居をしているのに気づく。
木下「へぇ、今どき紙芝居って珍しいな」
紙芝居の前には客が三人程いる。
紙芝居屋の男、紙芝居の絵を捲りながら黙々と話をしている。
男「……蜘蛛は天高く飛んでいる蝶をじっと見つめていた。厄介な相手を好
きになった。彼は彼女のような蝶を獲物として捕まえる……」
色彩豊かに描かれた紙芝居の絵。
立ち止まって紙芝居に見入る遠山。
木下「おい、そろそろ行こうぜ」
遠山「……あぁ」
紙芝居の結末が気になりながら、その場を去る遠山。
〇 サーカスのテント・ステージ
空中ブランコの練習をしている梓、華麗にブランコからブランコへ飛
ぶ。
遠山、小道具が入った箱を抱えたまま、地上からじっと梓を見つめて
いる。
ジャンプ台に戻る梓、遠山に気付くと真剣な表情から微笑む。
遠山、咄嗟に視線を逸らすが、ぎこちなく梓の方を見て微笑む。
白井、遠山を怒鳴る。
白井「おい! ぼさっと立ってる暇があったら、さっさと働け!」
遠山、慌ててその場を去る。
〇 同・外(夕)
サーカスのテント裏に並ぶコンテナハウス。
その片隅で一人でぼーっと座っている遠山。
その視線の先に梓と有馬、他の団員二人が通りかかる。
梓たちをじっと見つめる遠山、溜息をつく。
〇 同・ステージ
それぞれ練習している団員たちがいる中で遠山に怒鳴っている白井。
俯きじっと白井の説教を聞いている遠山。
他の団員たち、二人に関わらないように見て見ぬふり。
木下、心配そうに遠山を見るが、すぐに目を逸らす。
梓、心配そうに遠山を見ている。
〇 同・機材置き場
遠山、一人でサーカスで使う道具の整理をしている。
暗い表情で溜息をつく遠山。
梓、心配そうな表情のまま遠山に近づこうとするが、少し立ち止まっ
てから笑顔で気さくに遠山に話しかける。
梓「元気出して。あんなの気にしちゃいけないよ、ほっといたらいいんだか
ら。ね?」
無言で梓を見る遠山。
梓、遠山に微笑みかける。
少し笑顔になる遠山。
遠山「うん……そうだね」
しばらく沈黙する遠山と梓。
少し気まずそうにする遠山、手近の道具を手に取ったり見ている梓に
話しかけようとすると、梓、楽しそうに話し始める。
梓「そうだ……本当はまだ内緒なんだけど、遠山さんにだけ先に教えちゃお
うかな~」
遠山「何を?」
梓、恥ずかしそうにしながら話す。
梓「実はね……私、真一さんと結婚するの」
遠山「えっ……?!」
呆然と梓を見る遠山。
梓、照れたように笑う。
梓「本当は、明日のサーカスの本番で発表しようって、真一さんとサプライ
ズの計画してたんだけど、遠山さんは特別。あ、でも、この事は皆にはま
だ内緒ね」
嬉しそうに話す梓を無言で見つめる遠山。
ステージの方から梓を呼ぶ声が聞こえる。
梓「そろそろ練習に戻るね」
軽く手を振り、走り去る梓をじっと見つめる遠山。
〇 同・ステージ(夜)
暗く誰もいないステージ。
遠山、懐中電灯を片手にステージに上がり、転落防止のネット越しに
空中ブランコのセットを見上げる。
暗闇に浮かぶブランコを真剣な表情で見つめる遠山、意を決したよう
にジャンプ台の下に向かい、梯子を登る。
ジャンプ台の上に辿り着いた遠山、ジャンプ台に固定されたブランコ
のロープを懐から取り出したナイフで切ろうとする。
〇 フラッシュ(遠山の妄想)
華麗に空中ブランコを披露している梓、ブランコからブランコへ飛ぼ
うとした瞬間、ブランコのロープが切れて下に落ちる。
下には転落防止のネットが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
〇 同・ステージ
次の日のサーカス本番。
大勢の客で埋め尽くされたテント内。
ステージ上で華麗に空中ブランコを披露する梓と有馬。
大勢の客の歓声と拍手が響く。
× × ×
梓と有馬、ジャンプ台の上で並んで立ち、観客に向かって笑顔で手を
振る。
観客や他の出演者の拍手と歓声が響く。
〇 同・ステージ袖
遠山、ステージの袖から笑顔で手を振る梓と有馬をじっと見つめてい
る。
遠山、寂しそうな表情をした後、静かにその場を去る。
〇 広場(夕)
夕暮れ時の広場を一人で歩く遠山。
紙芝居屋の男が紙芝居の片付けをしている。
男に近づく遠山、暗い表情で静かに話しかける。
遠山「あの……あの話は最後どうなるんですか? 蝶に恋した蜘蛛の
話……」
男、遠山を怪訝そうに見る。
男「え、まあ一応ハッピーエンドですが……」
遠山「そうですか……でも現実はそう上手くいきませんね」
暗い表情呟き、遠くを見つめる遠山。
男、遠山をじっと見つめる。
男「あなたはどうしたかったのですか?」
遠山、男の方を見る。
男「あの……何があったのかは知りません。でも、上手くいくかいかないか
は、あなた次第と思いますがね」
遠山、黙って聞いている。
少し気まずそうにする男。
男「い、いや、なんとなくあなたを見ているとそう思ったので……物語の結
末は決まってますが、現実は変えることができますから」
無言で聞いている遠山、暗い表情から少し微笑み男を見ると、その場
を去る。
遠山の後ろ姿をじっと見つめる男。
〇 サーカスのテント・ステージ
空中ブランコの練習をしている梓、有馬と共に華麗にブランコからブ
ランコへ飛んでいる。
そこへ遠山が小道具が入った箱を抱えたまま通りかかる。
遠山、転落防止のネット越しに地上から二人を見るが、少し微笑みそ
の場を去る。
(了)