映像シナリオ「要塞家族」
概要:シナリオ学校の課題にて執筆。“家族モノ”というテーマで、短編の映像シナリオという条件あり。尺は約15分。2008/11/05作。
〇ログライン
自分たち以外すべて敵とみなし、対抗しようとするが、どこかずれてしまっている家族の話。
〇登場人物
斎藤浩之(15)斎藤家の長男 中学三年生
斎藤加奈(17)浩之の姉 高校二年生
斎藤佳子(43)浩之の母 専業主婦
斎藤雄二(45)浩之の父 サラリーマン
森下公子(52)斎藤家の隣人
〇 斉藤家・外観(夕)
閑静な住宅街に建つ二階建の一軒家。
〇 同・浩之の部屋(夕)
勉強中の斉藤浩之(15)。
真っ暗な部屋で勉強机の電気スタンドだけを点けて勉強している。
机の上には教科書やノート、受験対策の参考書が広げられている。
〇 同・台所(夕)
ダイニングテーブルに向かうカウンター式のキッチン。
夕食の準備をしている斉藤佳子(43)。
智子、鼻歌まじりにカレーを味見している。
智子「よし」
お皿に盛ったご飯にカレーをかけ、食卓へ運ぶ
〇 同・居間(夕)
食卓の横にあるソファで、テレビを観ながらくつろぐ斉藤加奈
(17)。
台所からカレーライスを持って来た佳子が加奈に声をかける。
佳子「ほら、あんたも運ぶの手伝って」
加奈「は~い」
面倒くさそうに答え、手伝う加奈。
佳子、居間の扉を開け、二階に向かい大声で浩之に声をかける。
佳子「浩之~! ご飯できたわよ~!」
〇 同・浩之の部屋(夕)
佳子の声が聞こえ、勉強の手を止める浩之。
浩之、伸びをして部屋を出る。
〇 同・居間(夕)
食卓に並ぶ夕食。
加奈、席に座り自分のサラダにドレッシングをかけている。
浩之が入って来て席に座る。
加奈「パパは?」
佳子「う~ん、そろそろ帰ってくると思うけどねぇ」
時計を見ながら答える佳子。
そこへ玄関の方から音がする。
佳子「あ、帰ってきた」
佳子、居間の扉を開け玄関に向かう。
〇 同・玄関(夕)
小走りにやって来る佳子。
佳子「おかえりなさい」
斉藤雄二(45)が玄関の扉を少し開け、警戒したように外の様子を窺
っている。
雄二「静かに」
小声で注意する雄二、厳しい表情で外の様子を窺う。
雄二「誰かにつけられている」
佳子「えっ?! ほんとに?」
佳子、雄二と同じく厳しい表情になり、扉の隙間から外の様子を窺
う。
外には誰もいない。
雄二「……逃げられたか」
雄二、首を振り扉を閉める。
〇 同・居間(夕)
扉を開け入ってくる雄二と佳子。
先に食事をしている加奈と浩之。
加奈、雄二の方を見て笑顔で言う。
加奈「あ、おかえり、パパ」
雄二「お前たち、今夜は気をつけろ!」
真剣な表情で言う雄二。
同じく真剣な表情で付け足す佳子。
佳子「パパ、誰かにつけられたのよ」
加奈「マジ?」
カレーを食べる手を止める加奈。
浩之、呆れたようにため息をつき、黙々とカレーを食べ続ける。
雄二「今夜あたり襲撃してくるかもしれん」
腕を組み考え込む雄二。
佳子「何か対策を考えないといけないわね」
同じく腕を組み考え込む佳子と加奈。
深刻な表情の雄二、ふと食卓に並ぶカレーライスを見ると、笑顔にな
る。
雄二「おお! 今夜はカレーか!」
佳子「そうよ~、パパの好きなカレー」
加奈「早くパパも着替えて食べようよ~」
佳子と加奈、今まで深刻になっていたことなど忘れたかのように笑顔
になる。
雄二「そうだな」
雄二、嬉しそうに答え、急いで着替えに居間を出る。
楽しそうに食事を始める佳子と加奈。
浩之、さっさと食べ終り、席を立つ。
浩之「ごちそうさま」
佳子「あら、おかわりは?」
浩之「いらない」
そっけない返事をする浩之、扉を開け居間を出て行く。
美味しそうに食事を続ける佳子と加奈。
〇 同・浩之の部屋(深夜)
受験勉強に集中している浩之。
開けた窓に風が入り、閉めているカーテンがふわっと広がる。
そこへバットを持った佳子がそっと入ってきて、窓の外を警戒しなが
ら浩之の方へ近づく。
浩之「うわっ?! 何?」
佳子に気付き驚く浩之。
佳子「侵入者」
浩之「は?」
深刻な表情で答える佳子。
佳子「侵入者よ! 誰かがパラシュートで下りてきてる」
浩之「はぁ?!」
呆れた表情の浩之。
そこへ窓に風が入り、再びカーテンがふわっと広がる。
佳子「来たっ?!」
佳子、バットを持って身構える。
浩之、ため息をついて立ち上がり、佳子を扉の方へ押しやる。
浩之「はいはい、もういいから出てって」
佳子「でも、誰か来たわよ!」
浩之「風が入っただけだよ。もう邪魔だから」
浩之、扉を開け佳子を部屋の外へ出し、扉を閉める。
佳子「夜食のおにぎり、台所に置いてあるからね~」
抵抗もせず部屋の外に押し出される佳子、浩之に扉を閉められる間に
さらっと言って去る。
浩之、疲れた様子でため息をつき、勉強に戻る。
× × ×
浩之、黙々と勉強をしている。
勉強の手を止め、伸びをする浩之、部屋を出ていく。
〇 同・台所(深夜)
真っ暗な台所。
電気を点け入ってくる浩之。
流しの台に置かれたおにぎりの皿を持ち去ろうとする浩之、ふと居間
の方に目を向けビクッとする。
〇 同・居間(深夜)
真っ暗な居間。
庭へと続くガラス戸のカーテンを少し開け、外の様子を窺う雄二がい
る。
雄二の手にはモデルガン。
おにぎりの皿を持ちながら居間の方へ来る浩之。
浩之「……何してんの?」
真剣な表情で外を見ている雄二。
雄二「いや、ちょっと気になってな」
浩之「あ、そう」
雄二をほっておいて去る浩之に、外の様子をモデルガンを構えながら
窺っている雄二、声をかける。
雄二「勉強、あんまり無理するなよ~」
浩之、少し振りかえるがそのまま去っていく。
〇 同・居間
ソファに寝ころんでテレビを観ている雄二。
ダイニングテーブルの席に座り、ポテトチップスを食べながら雑誌を
読んでいる加奈、時折テレビの方を観ている。
奥の台所で家事をしている佳子が見えている。
インターホンのベルが鳴る。
咄嗟に身構える加奈と雄二、ソファや椅子の裏に隠していたモデルガ
ンを構える。
雄二たちと同じくモデルガンを構えながら、台所から居間へ出てくる
佳子。
佳子、インターホンの受話器を取り返事をすると、雄二たちに目配せ
をして玄関の方へと向かう。
〇 同・玄関
佳子、玄関の扉を開けると隣人の森下公子(52)がニコニコしながら
立っている。
佳子「森下さん、どうしたの?」
公子「回覧板を届けに来たのよ~」
佳子「あら~、ありがとう」
手に持っていたモデルガンを後ろ手に隠し満面の笑みで答える佳子、
公子から回覧板を受け取る。
モデルガンには気付いていない公子、ひそひそと世間話を始める。
公子「ところで、奥さん知ってる~? 最近この辺りに変な人が出るらしい
のよ」
佳子「変な人って?」
次第に声が大きくなる公子。
公子「なんでも自分がスパイか何かと勘違いしてる挙動不審な人なんだっ
て!」
佳子「何それ~、そんな人いるの?!」
公子「そうなのよ~、笑っちゃうよね~」
佳子「ほんとほんと」
楽しそうに笑う佳子と公子。
その様子をそっと階段の陰から窺っている浩之、暗い表情をしてい
る。
〇 同・居間
居間に戻ってくる佳子。
佳子の方を見る雄二と加奈。
雄二「誰だった?」
佳子「お隣の森下さん。最近スパイ気取りの変な人が出るって話してたわ」
雄二「それでお前どうした?!」
少し焦った様子で尋ねる雄二。
佳子「一緒に楽しく笑っただけ。ちょっとやそっとじゃ、私の表情は崩せな
いわよ~」
自慢げに話す佳子。
加奈「ママ、やるぅ~」
楽しそうに笑う雄二と加奈。
そこへ不機嫌そうな浩之が入ってくる。
浩之「もうやめろよ!」
突然怒鳴る浩之を驚いた表情で見る雄二、佳子、加奈。
佳子「浩之、どうしたの?!」
佳子、浩之に近づこうとする。
浩之、泣きそうな表情で雄二たちを見て、居間から走り去る。
雄二たち、顔を見合わせると、急いで浩之を追う。
〇 同・二階の廊下
階段を駆け上る浩之。
その後を追う雄二、佳子、加奈。
浩之、自分の部屋の前で立ち止まり、振り返る。
同じく立ち止まる雄二たち。
浩之、雄二たちに向かって怒鳴る。
浩之「いい加減にしろよ! こっちは受験で切羽詰ってるっていうのに、な
にスパイごっこなんかしてんだよ! 近所の人にバレたらどうすんだっ?
! 僕まで恥ずかしい思いしなきゃならないんだよ?!」
顔を真っ赤にして雄二たちを睨む浩之。
驚いた様子でじっと浩之を見る雄二たち。
雄二「浩之……」
雄二、寂しそうに話し始める。
雄二「……すまん、そんなに迷惑だったのか。悪いことしてしまったなぁ」
佳子「そうね、ちょっとやり過ぎたかしら……」
加奈「ごめんね、浩之」
寂しそうに話す佳子と加奈。
佳子「でもね浩之、少しでも受験勉強の気分転換になってくれればと、お父
さんが考えてくれたのよ。お父さんの気持ちも少しはわかってあげ
て……」
佳子を制して話す雄二。
雄二「いや、いいんだ母さん……すまんな、浩之。お前の気持ちに気付いて
やれなくて」
俯く雄二。
佳子と加奈も反省したように俯いている。
浩之「父さん……」
動揺する浩之。
浩之、反省した様子の雄二たちに優しく声をかける。
浩之「……いいんだよ、父さん。それに母さんと姉ちゃん。皆がそんなに想
ってくれていたなんて……僕の方こそ言い過ぎてごめ……」
浩之、気まずそうに少し微笑みながら謝ろうとする時、インターホン
のベルがなる。
そのベルに反応する雄二、佳子、加奈、素早く隠し持っていたモデル
ガンを構えると、何事もなかったように対応する。
雄二「母さんは玄関へ、加奈は裏口へ行ってくれ! 居間は父さんが守る!
」
佳子・加奈「了解!」
雄二「チッ、こんな時に誰だ?!」
加奈「宅配便かなぁ?」
佳子「いや、またお隣の森下さんかもよ~」
がやがやと騒ぎながら階段を下りていく雄二、佳子、加奈。
浩之「あ、あの、ちょっと……」
置いてけぼりになり、しばらく呆然と階下を見る浩之。
諦めたようにため息をつく浩之。
浩之「父さ~ん、僕はどこ守ればいい?」
浩之、雄二に呼びかけながら階段を下りていく。
(了)
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