映像シナリオ「Under the rain」

概要:シナリオ学校の自由課題にて執筆。尺は約8分。2011/10/18作。

〇ログライン
 一本のビニール傘を通して見る人間模様。

〇登場人物
ユウジ(25)刑事
カオリ(24)ユウジの彼女
タクヤ(27)カオリの浮気相手
マミ(17)女子高生
マリコ(43)マミの母親
ヒデオ(56)サラリーマン
ゴロウ(56)ユウジの上司


〇 ユウジの部屋(夜)
   狭いワンルームの部屋。
   四畳半の和室で、少し散らかっている。
   雨が降り出す音が聞こえる。
   ユウジ(25)がぼーっとテレビを見ている。
   ちゃぶ台の上の携帯電話が鳴る。
   ユウジ、携帯電話を手に取り、メールを確認。
   カオリから“今日は会えない”というメール。
   寝転んで天井を見つめるユウジ、ふと思い立ったように起き上がり、
   玄関のビニール傘を手に外へ出る。

〇 コンビニ(夜)
   傘立てに傘を置き、店内へ入るユウジ。
   雑誌売り場で立ち読みをしてるタクヤ(27)、腕時計を見て雑誌を置
   き、店を出る。
   雨が降っていることを確認し、面倒くさそうな様子のタクヤ、ふと傘
   立てを見ると、似たようなビニール傘が三本。
   タクヤ、店内を見て傘立てからユウジが置いた傘を取り足早に去る。

〇 住宅街(夜)
   住宅街の静かな道。
   傘を差し歩いているタクヤ、前方にカオリ(24)が傘を持たずにアパ
   ートの軒下で待っているのを見つける。
タクヤ「カオリ!」
   タクヤの声に気づくカオリ、笑顔でタクヤに駆け寄り抱きつく。
タクヤ「彼氏は?」
カオリ「メールしといた」
   手をつなぎながらアパートに入ろうとする二人。
   アパートから暗い表情で出てくる制服姿のマミ(17)、傘も差さずに
   歩いていこうとする。
タクヤ「おい、これ使えよ」
   マミを呼び止め、傘をわたすタクヤ。
   戸惑った様子で傘とタクヤを見るマミ、恐る恐る傘を受け取る。
カオリ「もう、女の子には優しいんだから」
タクヤ「うるせぇ」
   笑いながらアパートの奥へ去っていくタクヤとカオリ。
   傘を手に呆然と立つマミ。

〇 繁華街(夜)
   人が行き交う道を浮かない表情で傘を差しながら歩くマミ。
   派手な男の二人組が声をかけてくるが無視するマミ。
   その一人に腕を掴まれるが振り切って走り出すマミ。

〇 路地裏(夜)
   人通りのまばらな道。
   息を切らせて走ってくるマミ、立ち止まり呼吸を整える。
   ふと横を見ると一匹の子猫が雨に濡れて震えている。
   マミ、子猫を抱き上げ、歩いていく。

〇 公園(夜)
   公園横の道を歩くマミ。
   抱きかかえていた子猫が、急に飛び降り公園の方へ走っていく。
   その拍子で持っていた傘を落とすマミ。
   子猫は公園にいた猫とそのまま去っていく。
   その様子をじっと見つめるマミに呼びかけるマリコの声。
マリコ「マミ!」
   マミ、声が聞こえた方へ目を向けると赤い傘を差し心配そうに立って
   いるマリコ(43)がいる。
マミ「……お母さん」
   戸惑うマミにゆっくりと近づくマリコ。
マリコ「……帰るよ」
   マミ、少し躊躇するがうなずく。
   並んで歩いていくマミとマリコ。
   その場に置き去りにされたままのビニール傘。

    ×     ×     ×

   雨にうたれるビニール傘。
   サラリーマン姿のヒデオ(56)が、千鳥足で近づいてくる。
ヒデオ「なんだぁ、この傘」
   ヒデオ、傘を拾い上げる。
ヒデオ「ヒヒッ、ちょうどいいや」
   ヒデオ、傘を差し歩いていく。

〇 交差点(夜)
   車の多い道。
   傘を差しながら千鳥足で歩くヒデオ。
ヒデオ「あ~あ、明日からどうやって生きてきゃいいんだよ~」
   道端の電柱にもたれつつ、かなり危なっかしく歩いているヒデオ。
ヒデオ「あと少しで定年なんだからさ~、それまで雇ってくれたっていいじ
 ゃないか」
   ふらふらと歩道橋の階段に近づくヒデオ。

〇 歩道橋(夜)
   歩道橋の上。
   真ん中の辺りで手すりにもたれ、下を行き交う車を見つめるヒデオ。
   ふと、手にした傘を見るヒデオ。
ヒデオ「そういや、お前も捨てられてたんだよなぁ」
   くるくると傘を回すヒデオ。
ヒデオ「俺も誰か拾ってくんねぇかな……なんてな」
   苦笑いをするヒデオ、ゆっくりと階段の方へ歩き出す。
   危なっかしい歩き方で階段を下りようとするヒデオ、途中で足を踏み
   外し、階段から落ちる。
   地面に頭を強く打ったヒデオ、倒れたまま動かなくなる。
   そのそばには、骨が折れたビニール傘が雨にうたれている。

    ×     ×     ×

   パトカーの赤色灯。
   数人の警官が行き交っている。
   刑事のゴロウ(56)がビニール傘を差しながら、倒れているヒデオを
   苦い表情で見つめている。
   そこへ駆け寄ってくるユウジ。
ユウジ「おそらく事故でしょう。雨で濡れた地面に滑ったようです」
ゴロウ「そうか……」
   ため息をつき、ヒデオを見つめるゴロウ。
ゴロウ「悪りぃな。非番だったのによ」
ユウジ「いえ、とくに用事もありませんでしたから……」
ゴロウ「彼女にでもフラれたか?」
ユウジ「ち、違いますよ!」
   少しムッとした表情でゴロウを見るユウジ。
   ゴロウ、少し笑うとゆっくりとその場から去っていく。
   ゴロウについていこうとするユウジ、ふと振り返り、ヒデオの傍らに
   落ちているビニール傘を見る。
   雨にうたれるビニール傘。
   ユウジ、ゴロウの方へと去っていく。
   しとしとと降っていた雨が止む。

                               (了)

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