映像シナリオ「経理マン(仮)」

概要:大学の映画制作の授業にて執筆。授業内容はクラス全員企画プレゼンして2本決め、2組にわかれて30分物の映画制作、企画発案者と監督は別の人が担当する事。当時は脚本家志望ではなく録音部志望だったので企画発案だけで脚本執筆段階には関わりなし。ただ、監督と脚本担当の同期2人から、原案者としてのストーリーのイメージを書いてほしいとの事で、人物名等細かい設定はなしの仮の脚本執筆。2006/09/29作。

〇登場人物
山田一
強盗
支店長
受付嬢
同僚
銀行員1
銀行員2

警察

                                他


○ 銀行
   閉店間際の銀行。
   客が三人残っている。
   その中の一人の客(老婆)が、カウンターで口座の手続きをしてい
   る。
   カウンターで老婆の対応をする受付嬢。
   老婆の耳が遠いらしく、何度も何度も同じ説明をさせられてる受付
   嬢。
受付嬢「……ですから、こちらにお名前と住所を……」
老婆「ん? ……何だって?」
   受付嬢、少しイライラするが笑顔で対応する。
   支店長、その様子を見ながら、自分のデスクでゆっくりとお茶を啜
   る。
   支店長のデスクの上には、小さな男の子の写真が飾られている。
   支店長、その写真を見て微笑み、仕事に戻る。
   奥で事務仕事をする銀行員たち。
   慌ただしく動き回っている者もいれば、自分たちのデスクで黙々と仕
   事をしている者もいる。
   それぞれきちんとした身なりだが、その中でも人一倍きちんとしてい
   る山田が、自分のデスクに向かって黙々と仕事をしている。
   整理整頓されている山田のデスク。
   仕事に必要なもの以外ほとんど置いていない。
   その隣の同僚のデスクの上には、大量の書類が乱雑に置かれている。
   山田、それに気付くと仕事の手を止めて、書類をまっすぐにそろえて
   いく。
   そこへ、そのデスクの持ち主である同僚が戻ってくる。
同僚「あ、いつもいつもすみません」
   山田、自分の仕事をしながら、同僚の方を見ずに坦々と答える。
山田「いえ、曲がっていたので直しただけです」
   同僚、苦い表情。
   軽くため息を吐くと、自分の仕事を始める。
   その様子を見ていた他の銀行員二人が、小声で話す。
銀行員1「山田さん、またやってるよ」
銀行員2「ああ、あの人、人のものにも手ぇ出してくるんだよね。何でもま
 っすぐにしてさぁ、几帳面にもほどがあるっつーの」
銀行員1「そうそう」
   二人の銀行員が笑っていると、咳払いが聞こえる。
   振り返ると支店長がこっちを見ている。
   慌てて仕事に戻る二人。
   黙々と仕事を続けている山田。

    ×    ×    ×

   中年男(強盗)が一人、ベンチに座り落ち着きなく辺りを見回してい
   る。
   強盗、薄汚れた作業着姿で黒いボストンバックを抱えている。
   よく見ると、上着のボタンは掛け違えていて、一つ取れそうなものも
   ある。
   客が一人、また一人と帰っていき銀行内にいる客は強盗一人になる。
   懐に手を当て、落ち着こうとする強盗。
   強盗、意を決して立ち上がってみたが、次の一歩が踏み出せない。
   不審そうに強盗を見る受付嬢。
   受付嬢、強盗に声をかける。
受付嬢「お客様、どうかなされましたか?」
   強盗、驚いてバックを落とす。
   慌てて拾おうとかがんだ強盗の懐から、モデルガンが落ちる。
   受付嬢、小さく悲鳴を上げる。
   その悲鳴で、受付嬢の近くにいた銀行員数名が受付嬢と強盗の方を見
   る。
   何事かと首を傾げる銀行員。
   強盗、慌ててバックとモデルガンを拾うとビクビクしながら、銃口を
   銀行員たちの方へ向ける。
強盗「う、動くなっ! う、うう、動くと撃つぞ!」
   銀行内が静まり返る。
   真っ先に物陰に隠れる支店長。
   凍りついたように動けなくなる受付嬢と銀行員たち。
   驚いて手に持っていたものを落とす銀行員。
   仕事の手を止め強盗を見る山田。
   山田、強盗を見ても、興味なさそうに仕事に戻ろうとする。
   山田、ふと横を見ると、床に大量の書類が落ちている。
   隣の同僚のデスクから落ちたのか、山のようになっていた書類が隣の
   デスクにはない。
   それをじっと見つめる山田、思いたったようにそれらの書類を拾おう
   とする。

    ×    ×    ×

   強盗、思い出したようにバックから覆面を出してかぶる。
   慌ててかぶったため、あきらかに覆面の目の位置がおかしい。
   強盗、ある程度直したもののグチャグチャになってしまう。
   怪訝そうな表情で強盗を見る銀行員たち。
   銀行員1・2がひそひそ話している。
銀行員1「おい、あれって意味あるのかなぁ?」
銀行員2「しっ……本人は至って真面目にやってんだから、そっとしておか
 ないと」
銀行員1「それにしてもあの強盗、計画性が全くないような気がするんだけ
 ど……」
銀行員2「……うん、まあたしかに……」
   同情まじりの表情をしながら、強盗を見る2人の銀行員。
   強盗、そんなこと言われてるとは一切気付かない。
   強盗はカウンターに近づき、持っているボストンバックを乱暴にカウ
   ンターの上に置いて、受付嬢に金を要求する。
   鞄が置かれた拍子に、カウンターに置いていたものが落ちていく。
強盗「この鞄に入れれるだけの金を用意しろ。は、早くっ!」
   受付嬢、急いで金庫から札束を用意して入れていく。
   手あたり次第、札束を鞄に詰めこんでいく受付嬢。
   受付嬢、強盗の様子を窺いながら気付かれないように緊急用のボタン
   を押す。
   強盗、それには全く気付いていない。
   強盗、落ち着きなく周りの様子を窺いながら、銀行員たちに銃口を向
   けている。

    ×    ×    ×

   緊迫した雰囲気の銀行内。
   真剣な面持ちで強盗と受付嬢のやりとりを見守るしかない銀行員た
   ち。
   物陰に隠れていた支店長がおそるおそる強盗を説得しようとする。
支店長「こ、こんな事したって何もいいことなんてないぞ。お、落ち着い
 て、その銃を捨て……」
強盗「うるさいっ! し、静かにしないと撃つぞ!」
   強盗、支店長に銃口を向ける。
支店長「ひぃっ!」
   支店長、情けない悲鳴を上げ、急いで物陰に退散する。
   呆れた表情の銀行員たち。
   山田は目に付いた散らかったものを黙々と元に戻している。
   強盗、山田の行動に気付き、山田に銃口を向ける。
強盗「おい、何してる! 動くなって言っただろ!」
   山田、強盗の脅しも聞かず、散らかったものを、元に戻し続ける。
   強盗登場で驚いた同僚が落とした書類。
   他の同僚の曲がったネクタイ。
   フタの閉まってないペン。
   明らかに分かるものから細かいものまでほぼ数ミリ単位で、元の位置
   に戻そうとする。
   山田、散らかったものを元に戻しながら強盗の方へ向かう。
   支店長、それに気付いて小声で山田を呼び戻そうとする。
支店長「や、山田君、何してるんだね?! 動いちゃいかん!」
   山田、支店長の声に気付きその場にあるものを元に戻すのをやめ、支
   店長の方を見ると近づいていき、支店長の眼鏡やネクタイを直す。
   支店長、驚いてされるがままの状態。
   不安そうにその様子を見守るしかない強盗。
   山田、支店長の服装を直し終わると、支店長のデスクの上も片付けて
   いく。
   乱雑に置かれた書類。
   散らばったクリップやペン。
   山田、支店長のデスクの上のものを全てまっすぐにすると、最後に支
   店長の子供の写真が入った写真立てをまっすぐにしていく。
   また周りの散らかったものを元に戻しながら強盗の方へ向かう山田。
   情けない表情のまま山田を見送る支店長。
   周りの銀行員たちも山田の行動に気付き、信じられないといった様
   子。
   鞄に札束を入れていた受付嬢も、手を止めて呆然と山田を見つめる。

    ×    ×    ×

   支店長、我に返って山田を見る。
   黙々と周りを片付けている山田。
   支店長、強盗の様子をうかがいながら山田を説得しようとする。
支店長「ちょ、山田君……危ないって。本当に動いちゃ……お~い」
   支店長、ほとんど半泣き状態。
   その反面、山田は無表情のまま。
   山田の予想外の行動にビクビクしながらも、もう一度脅そうとする強
   盗。
強盗「お、おい! 聞いてるのか。動くなって言ってるんだ! 何度も言わ
 せるな!」
   強盗の脅しは山田に全く効果なし。
   だんだん近づいてくる山田に強盗は、モデルガンを構えたまま後ずさ
   りする。
   山田、強盗に近づいていく間も、目についた散らかったものを元に戻
   している。
   山田、強盗の目の前まで来ると、じっと強盗の顔を見つめる。
強盗「な、何だよ、本当に撃つぞ!」
   強盗、モデルガンを持つ手が震える。
   山田、気にせず強盗の覆面を直そうとするが、少し考えてから覆面を
   取ってしまう。
強盗「うわっ、何するんだ?!」
   強盗、驚いて山田を突きとばしてしまう。
   派手に倒れる山田。
   倒れた拍子にカウンターの上に置いていたものや、その付近のものが
   散乱する。
   騒然となる銀行内。
   受付嬢、慌てて山田に近付こうとする。
受付嬢「山田さんっ!」
   慌てて顔を両手で隠す強盗。
   強盗、顔を手で隠しながら、倒れた山田を心配する。
   今まで威勢よく振舞っていたのに、急に腰が低くなる。
強盗「す、すす、すみません、大丈夫ですか?!」
   強盗、顔を手で隠したままオロオロする。
強盗「うわぁ、どうしよう……」
   受付嬢、山田を心配しながらも強盗のおかしな行動が気になり、おそ
   るおそる声をかける。
受付嬢「……あのぉ……今更隠さなくても、最初からバレバレなんですけ
 ど……」
強盗「へっ?!」
   強盗、間抜けな表情で受付嬢の方を見る。
   山田が倒れた方から音がする。
   その方向を見る強盗と受付嬢。
   ゆっくりと服の埃をはらいながら立ち上がる山田。
   特に痛そうな様子もなく、自分の服の乱れを直し、散乱してしまった
   ものを元に戻していく。
   山田の行動を見守るしかない強盗と受付嬢。
   山田、元に戻し終わると強盗から取った覆面をきれいに畳んでカウン
   ターに置くと、強盗の服装の乱れを直していく。
   強盗のボサボサの髪を整える。
   上着のボタンが掛け違えているのを直し、取れかかっていたボタンは
   ポケットから裁縫セットを出して付け始める。
   強盗、予想外の事に声も出せずに固まったままになる。
   手際良くボタンを付ける山田。
   山田、ボタンを付け終わると、丁寧に針と糸をケースに直す。
   強盗、山田が付けてくれたボタンを触りながら、礼を言う。
強盗「あ、どうも……」
   嬉しそうな恥ずかしそうな表情の強盗。
   受付嬢、変なものでもみるように山田と強盗を見る。
   強盗、受付嬢と目が合い気まずい表情になる。
   強盗、我にかえって山田に強気でいようと試みる。
強盗「か、勝手なことばっかりしないで下さい! 少しは人質らしく、おと
 なしくできないんですか?」
   しかし、山田は強盗の言うことを聞かない。
   強盗、困惑した表情。
   山田、直し終わると、受付嬢が札束を入れてる最中の鞄に近づき、鞄
   の中を確認する。
   札束を突っ込んだままの状態。
   山田、それらの札束を一旦出して、一束ずつきっちりと揃えて入れ始
   める。
   受付嬢、遠慮がちに声をかける。
受付嬢「……あのぉ山田さん、私が入れましょうか? 元々私がやらされて
 いたことですし……」
   山田、受付嬢の方を見ないで作業したまま、
山田「いえ、結構です。あなたはただ入れるだけですから、本来この鞄に入
 るはずの量が入りきれません。こういうのはしっかり隙間なくいれないと
 だめです。今度から気を付けて下さい」
受付嬢「はぁ、すみません……」
   受付嬢、なんだか釈然としない表情。
   強盗、黙って山田と受付嬢のやりとりを見ていたが、黙々と作業する
   山田にイライラする。
強盗「ああ、もう! こんなにキッチリしなくていいから、適当にやって下
 さいよぉ」
   そう言いながら強盗はモデルガンをカウンターの端に置くと、山田か
   ら札束を取り上げ、適当に鞄に入れようとする。
   しかし、山田は札束を持つ強盗の腕を掴むと札束を取り返す。
   山田が腕を掴んだ時の力が、見た目以上に強くて、痛がる強盗。
強盗「イタタタタタッ!!」
   山田、手を離すとまた黙々と作業を続ける。
   強盗、自分の腕を痛そうにさする。

    ×    ×    ×

   カウンターに無造作に置かれているモデルガン。
   受付嬢、それに気付くと、強盗に気付かれないようにそっと手をのば
   す。
   それに気付く強盗、慌ててモデルガンを取る。
   悔しそうな受付嬢。
   その様子を離れた所から見ていた銀行員1・2も悔しそう。
   モデルガンを手にほっとする強盗。
   そんな状況に興味のない山田は、隙間なく札束を鞄に入れ終わると、
   鞄の形を丁寧に整え強盗にわたす。
   油断していた強盗、山田から鞄を受けとると重さで少しよろめく。
山田「はい、これであなたのご希望通りこの鞄に入れれるだけのお金を用意
 しました。他に何か要求はありますか? ないのであれば私たちは閉店後
 の業務がありますので、お引取り下さい」
   坦々と話す山田。
   山田の勢いに少し押され気味の強盗。
   強盗、鞄と山田を交互に見て、考えながら答える。
強盗「え、えっと……他に要求は……もうないけど……う~ん、何かないかな
 ぁ……あっ警察! 警察には絶対に知らせないで下さい!」
   強盗が言い終わったのと同時に、パトカーのサイレンが聞こえてく
   る。
   受付嬢、申し訳なさそうに話す。
受付嬢「あのぉ、すみません。もう緊急用のボタン押してしまいまし
 た……」
   窓の方を見る強盗と山田以外の銀行員たち。
   外から警察の声が聞こえる。
警察「犯人に告ぐ! お前はもう完全に包囲されている! 無駄な抵抗はや
 めておとなしく出てきなさい!」
   強盗、だんだん青ざめた表情になる。
強盗「ど、ど、どうしよう……こんな大ごとにするつもりなかったの
 に……」
   窓から外の様子を見ながらオロオロする強盗。
   山田、強盗には興味なさそうに黙々と散らかったもの、曲がったもの
   をまっすぐにしている。
   他の銀行員たちも緊張感がなくなってきた様子。
   あくびをしたり、自分の仕事の続きをこっそり始めたりする者もでて
   くる。
   再びひそひそ話し始める銀行員1・2。
銀行員「あ~あ、警察来ちゃったよ~。どうするんだろね、あの強盗」
銀行員2「あいつ、本当にやる気あんのかなぁ」
銀行員1「そうだよな。オドオドしすぎて、見ているこっちがイライラして
 くるよ」
銀行員2「イライラしてくるといえば、支店長のヘタレっぷり。あれもどう
 にかしてくれって感じだよな」
   笑い合う銀行員1・2。
   支店長、警察が来て安心したのか、今まで隠れていた物陰から少し顔
   を出して様子を窺っている。
   銀行員2、支店長と目があってしまい、ぎょっとする。

    ×    ×    ×

   強盗、お金が入った鞄を床に置き、ため息をつく。
   ブツブツと独り言を言う強盗。
強盗「こんなことになるなら、強盗なんかやんなきゃよかったなぁ……」
   強盗、懐からクシャクシャになった写真を取り出し見つめる。
   小さな女の子と若い時の強盗が笑顔で写っている。
   顔が綻ぶ強盗。
   強盗の様子を窺う受付嬢。
   強盗、受付嬢に気付いて急いで写真を懐に戻し、何事もなかったかの
   ように振舞おうとするが、あきらかに不自然になっている。

    ×    ×    ×

   強盗、落ち着きなく銀行内を歩きまわる。
   その時、気持ちを落ち着かせようと置いているものを触りながら歩き
   まわるため、強盗が歩きまわった後は散らかり、山田が元に戻したと
   ころも台無しになる。
   山田、それを見ると強盗の後ろについて行き、強盗が触って曲がった
   ものを元に戻していく。
   強盗、後ろに山田がついて来ていることに気付かない。
   その様子が少し滑稽に見える。
   受付嬢や他の銀行員たちは、それを見て笑いそうになるのを我慢して
   いる。
   支店長、最初は少し心配そうにしているが、だんだん顔が緩んでく
   る。
   強盗、周りの様子が変なことに気付き、後ろを振り返る。
   今まで強盗が触って曲がったり位置がずれてしまったものを、黙々と
   直している山田。
   強盗、驚いて手にしていたモデルガンを落とす。
強盗「ちょ、ちょっと! なんでついて来るんですか?!」
   山田、手を止め強盗の方を見ると、無表情のままで、
山田「あなたのすることが全て曲がっているので、直しているだけです」
   再び曲がったものを元に戻し始める山田。
   強盗、返す言葉がなく、呆然と立ちすくんでいる。
   再び強盗にだんだん近づいてくる山田。
   強盗、山田から逃げようとする。
   こけそうになりながらも山田から離れようと必死になる強盗。
   山田、強盗の後をついて行き、無言で曲がったものを元に戻してい
   く。
   山田に強盗を追いかけようという気はまったくない。
強盗「く、来るなっ!」
   周りにあるものを手あたり次第、山田に投げつける強盗。
   山田、強盗が投げたものに当たりながらも無表情でそれらを拾って、
   元の場所に戻そうとしていく。
   山田を恐れる表情の強盗。
   強盗、近くに置いていたお金の入った鞄を山田に投げつける。
   しかし、重すぎてとどかない。
   山田、強盗が投げた鞄を拾うと、埃をはらいカウンターの上に置く。
   強盗、恐ろしいものから逃げるように後ずさりをする。
   強盗、そのまま銀行の出入り口から逃げて行く。
   呆気にとられた顔で強盗を見送る、山田以外の銀行員たち。
   山田、他に曲がったものはないか、周りを見回している。

    ×    ×    ×

   銀行から慌てて出てくる強盗。
強盗「あ……」
   銀行の外で待ち構えていた警察。
   強盗はその場で取り押さえられる。
   強盗、一切抵抗しない。
   諦めているようだが穏やかな表情の強盗。

    ×    ×    ×

   銀行に駆けつけた報道陣。
   取材を受ける支店長、しどろもどろになりながらも答えている。
支店長「……は、はい。私、その時強盗に言ってやったんですよ。こんなこ
 とやってると田舎のお袋さんが悲しんでるぞって。いやぁ、やっぱり強盗
 にはこの言葉が一番効きますね。ハッハッハ……」
   あることないことを喋っている支店長を、呆れた顔で見ている銀行員
   1・2。
   強盗の落としたモデルガンに興味津々の受付嬢。

    ×    ×    ×

   まだ、大勢の人で騒々しい銀行内。
   走りまわっている警察官。
   刑事、その警察官を呼び止める。
刑事「おい、銀行の職員全員の事情聴取は終わったか?」
警察官「はい、それが、一人だけなかなか事情聴取をさせていただけないん
 です」
刑事「一人だけ? どうしてだ?」
警察官「それが……話しかけても曲がったものをまっすぐにしてから行きま
 すと言って、なかなか来てくれないんです……」
   怪訝そうな表情の刑事。
刑事「は? 何だそれ! どいつだ? そんなこと言う奴は」
警察官「はい、あちらにいます」
   警察官、刑事を連れて銀行の金庫へ向かう。
警察官「……あの方です」
   刑事、警察官が言った人物の方をみる。
   そこには山田がいる。
   強盗の鞄から札束を取り、一束一束向きを揃えて金庫に直している。

                              (了)

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