映像シナリオ「野を越え山越え谷を越え」

概要:シナリオ学校の課題にて執筆。“超喜劇”というテーマで、短編の映像シナリオという条件あり。尺は約15分。2008/11/23作。

〇ログライン
 運動会へ向かうため障害だらけの道を急ぐ男の話。

〇登場人物
吉田修(26)フリーター
須藤美紀(10)吉田の姪、小学四年生
須藤優子(30)吉田の姉、美紀の母

公園の子どもたち
スーパー店員
主婦たち
老婆
教師
中年男
アナウンス


〇 吉田家(夜)
   六畳一間の古いアパートの一室。
   山のように積み上げられている洗濯物やゴミで散らかった部屋。
   ヨレヨレのTシャツとパジャマのズボンという格好の吉田修(26)が
   ベッドの上で寝転がりくつろいでいる。
   吉田、雑誌を読んでいると携帯電話が鳴る。
吉田「もしもし~」
   めんどくさそうに電話に出る吉田。
   電話の相手は須藤美紀(10)。
美紀の声「もしもし、修兄ちゃん?」
吉田「お~、美紀か。どうした?」
   笑顔で答える吉田。

〇 須藤家・リビング(夜)
   リビングで電話をしている美紀。
美紀「あんな、ちょっとお願いがあって電話してん」
   少しモジモジしながら話す美紀。

〇 吉田家(夜)
   読んでいた雑誌を傍らに置き、ベッドの上に起き上がる吉田。
吉田「何や? 言うてみ」
美紀の声「あんなぁ……明日の運動会、修兄ちゃんに見に来てほしいねん」
吉田「運動会?」
美紀の声「うん。明日な、パパ仕事で行けんくなってママだけやねん。しか
 もママも途中までしかおれんみたいやし……」
   寂しそうに話す美紀。
吉田「よっしゃ、わかった。兄ちゃんが行ったるで」
   にこやかに話す吉田。
美紀の声「ほんま?! やったー!」

〇 須藤家・リビング(夜)
   満面の笑みの美紀。
美紀「美紀なぁ、リレーのアンカーになってん。午前中にあるからそれまで
 に絶対来てな~」
吉田の声「ああ、わかったわかった」
   喜ぶ美紀の傍らに立つ須藤優子(30)、電話をしている美紀に代わっ
   てというジェスチャーをする。
美紀「あ、ママに代わるね」
   美紀、優子に受話器をわたす。
優子「もしもし、修?」

〇 吉田家(夜)
吉田「おお、姉貴」
優子の声「ごめんなぁ、美紀がわがまま言って。何か予定あったんとちゃ
 う?」
吉田「全然。どうせバイトも休みで暇やし」
優子の声「そっか、助かるわ。じゃあ明日の運動会、よろしくね」
吉田「ああ、まかせとけって」
   電話を切り、再びベッドの上に寝転がる吉田、欠伸をする。

    ×    ×    ×

   窓から日の光が差し込んでいる。
   布団にくるまり眠っている吉田、寝ぼけまなこで枕元の目覚まし時計
   を見る。
   時計は十時五十分を指している。
   再び布団の中にもぐりこむ吉田、しばらくしてから慌てて飛び起き
   る。
吉田「やべっ! 寝過ごした!」
   吉田、慌てて着替えようとしてパジャマの裾に引っ掛かり転ぶ。
   転んだ拍子に部屋中に積み上げていた雑誌や洗濯物の山が崩れ、吉田
   の上に覆い被さる。
   しばらくしてからモソモソと雑誌や洗濯物の山から這い出てくる吉
   田。
   吉田、痛そうにしながらも急いで支度をする。
   部屋が散らかっているため、なかなか進まない。
吉田「ああ、もう! なんやねん、この部屋は!」
   イライラしながらも、やっと支度を終える吉田。
   散らかった物に躓きながら玄関へ向かう吉田、急いで靴を履き玄関を
   出る。

〇 古いアパート・外観
   二階建ての古い小さなアパート。
   吉田、アパートの二階の部屋の玄関から出てくる。
   アパートの外階段を急いで駆けおりる
   吉田、途中で躓き転げ落ちる。
吉田「イッタ~……」
   フラフラと立ち上がる吉田、腕時計を見る。
吉田「こりゃ近道するしかねえな」
   吉田、急いで走り出し、近くの塀を飛び超える。
   着地する時、少しよろける吉田。

〇 細い路地
   建物と建物の間の狭い道。
   ポリバケツや室外機でごちゃごちゃしている間を通る吉田。
   吉田、服の裾が室外機の出っ張りに引っかかり動けなくなる。
   無理やり動こうと引っ張る吉田、引っかかっていた部分が取れるが、
   勢いよくポリバケツにお尻から突っ込みはまって抜けなくなる。
吉田「くっ……抜けない……」
   起き上がろうとする吉田、苦戦しながもがいていると、通りかかった
   野良猫がじっと吉田を見つめてるのに気づく。
吉田「そんな目で見るなよ……」
   気まずそうにする吉田、なんとかポリバケツから抜け出し、そそくさ
   と走り去る。

〇 公園
   住宅街の中にある大きめの公園。
   沢山の遊具があり、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
   吉田、子どもたちを避けながら遊具や植木を飛び越える。
   颯爽と飛び越える吉田、最後の最後で足を引っ掛けて派手に転ぶ。
   それを見ていた子どもたち、馬鹿にしたように吉田を笑う。
子どもA「あほや~こけとる~」
子どもB「だっせぇ~」
   吉田、恥ずかしそうにしながら逃げるように走り去る。

〇 集合団地が並ぶ道
   五階建ての団地が並んでおり、ベランダに洗濯物が干されている所が
   多い。
   急いで走る吉田。
   風に飛ばされた大きな白いシーツがふわふわと飛んできて、吉田の上
   に落ちてくる。
吉田「うわっ!」
   シーツがすっぽりと覆い被さり前が見えなくなる吉田。
   慌ててシーツをどけようとするが、大き過ぎてなかなか出口が見えず
   焦る吉田。
   何とかシーツから脱出できた吉田、シーツを片手に少し不愉快な表情
   で辺りを見回してから、シーツを投げ捨て急いで走り始める。

〇 商店街
   スーパーの店頭でタイムセールの準備をしている。
   店員がメガホンで宣伝をしている。
店員「豚バラ百グラム九十八円! 国産若鶏手羽元百グラム四十九円! 早
 い者勝ち! 無くなり次第終了でーす!」
   スーパー前の道に差し掛かる吉田。
   吉田、走っていると地響きと共に地面が揺れる。
   あらゆる方向からタイムセールを聞きつけた大勢の主婦たちが凄い勢
   いで走ってくる。
吉田「なっ何や?!」
   驚く吉田、集まってきた大勢の主婦たちの波に巻き込まれ、ぐるぐる
   と回りながら、もみくちゃにされる。
主婦A「ちょっと! 私が先に取ったのよ! その手を離しなさいよ!」
主婦B「うるさいわね! 私が先よ!」
主婦C「ちょっと~押さんといて~!」
   タイムセールの品の奪い合いで大騒ぎになっている主婦たちの間を何
   とかくぐり抜ける吉田。
   ボロボロの吉田、目を回し真っ直ぐ走れずヨロヨロとよろける。
   その場にへたり込みながらも何とか立ち上がり、走り始める。

〇 大通り・横断歩道付近
   車が行き交う大通り。
   フラフラと走る吉田。
   横断歩道の手前で杖をついた老婆が一人、渡れずに困った様子でオロ
   オロしている。
   吉田、老婆に気づくと一瞬躊躇するが、気にせず老婆の横を通り過ぎ
   ようとする。
   吉田に聞こえるように独り言を言う老婆。
老婆「あ~あ、なかなか渡れんのう」
   ギクッとして立ち止まる吉田。
   吉田、ぎこちなく振り返ると老婆がじっと吉田を見ている。
   吉田、愛想笑いをして声をかける。
吉田「……あの~、大丈夫ですか? よかったらおぶっていきますよ」
老婆「おや、悪いの~」
   老婆、嬉しそうに微笑む。
   老婆をおぶって少しフラフラになりながらも横断歩道を渡る吉田。
吉田「着きましたよ~」
老婆「はいはい、ありがとね」
   渡り終わって老婆を下ろすと急いで立ち去ろうとする吉田。
老婆「あ~ちょっと待ちなぁ」
   老婆、吉田を呼び止め、鞄の中をごそごそと探し、飴を見つけると吉
   田に渡そうとする。
老婆「ほれ、飴ちゃん」
吉田「いや、いいっすよそんな……」
   苦笑いして断る吉田に強引に飴を渡す老婆。
老婆「ええからええから。お礼じゃあ、持っていきなぁ」
   吉田、疲れた表情で愛想笑いをしながら飴を受け取り、フラフラにな
   りながら急いで走り去る。

〇 小学校・門前
   運動場側にある門。
   運動会の看板が出ており、賑やかな声が響いている。
   フラフラになりながら走ってくる吉田。

〇 同・運動場
   多くの生徒や教師、父兄の人々で賑わう運動場。
   そわそわしながら吉田を待つ美紀。
美紀「修兄ちゃん、遅いな~」
   美紀、フラフラになりながら走ってくる吉田に気づく。
吉田「美紀!」
美紀「あっ! 修兄ちゃん、遅いって~。もうママも帰っちゃったよ~」
   吉田の方へ駆け寄る美紀、不満そうに言う。
吉田「ごめんごめん。これにはちょっと訳があってなぁ……」
   息を切らせながら話す吉田、はっと気づいた様子で恐る恐る美紀に尋
   ねる。
吉田「……もしかして美紀のリレー終わっちゃった?」
   首を横に振る美紀。
美紀「ううん、まだやで。でもギリギリやで~、修兄ちゃん」
吉田「よかった……あはは、ごめんなぁ」
   安心した様子の吉田。
   そこへ近くを慌てた様子で走ってきた教師が吉田に近づいてくる。
教師「あ、ちょうどよかった。すみませんが、次の父兄参加の競技に出ても
 らえませんか? 人数が少なくて……」
   申し訳なさそうに話す教師、吉田を入場門で並んでいる父兄の列に連
   れて行こうとする。
教師「さあ、こちらです」
吉田「えっ? ちょっと……?!」
   吉田、抵抗しようとするが無理やり教師に連れて行かれる。
   されるがままに列の最後尾に並ばされる吉田。
   美紀、その様子を呆然と見ていたが、笑顔で吉田に手を振る。
美紀「修兄ちゃん、頑張って!」
   苦笑いしながら美紀に手を振る吉田。
   父兄の列が入場を始め、渋々ついて行く吉田、隣にいた中年男に尋ね
   る。
吉田「あの~今から何が始まるですか?」
中年男「なんや、兄ちゃん。知らんと参加しとんのか? 障害物競走やで。
 頑張ろな~」
   中年男、笑顔で答え、やる気満々の様子で軽く準備運動をし始める。
吉田「えっ……」
   ひきつった表情の吉田、コース上の様々な障害物を見て呆然とする。
   陽気なアナウンスが放送される。
アナウンス「さあ、父兄参加の障害物競走“野を越え山越え谷を越え”の始ま
 りです! はりきって行きましょう!」
   第一走者の人々が並び、開始のピストルが鳴る。

                              (了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?