ラジオドラマ「バランス家族」

概要:シナリオ学校の課題にて執筆。媒体はラジオドラマという条件。尺は約28分。2015/06/28作。

〇ログライン
 結婚の許しを得ようと恋人の実家を訪れた男が、恋人の奇妙な家族に翻弄される話。

〇登場人物
福田勝(27)サラリーマン
清水梨恵(25)勝の恋人
清水良夫(57)梨恵の父親
清水加奈子(56)梨恵の母親


   SE 街の雑踏

福田「(ため息)遅いなぁ、梨恵、何してんねん」
梨恵「(オフ)勝~!」
福田「あっ! 梨恵! やっと来た」
梨恵「(オフからオン)勝、ごめんね~遅れて。(吹きだして)あはは、ど
 うしたん、そんな顔して。えらい引きつってるやん」
福田「そりゃ誰でも緊張するわ。今から結婚の許しをもらいに行くんやで」
梨恵「もう大丈夫やって。うちの親、ちょっと変わってるけど」
福田「えっ? 変わってる?!」
梨恵「大丈夫大丈夫、変わってるけど、優しいから、結婚も二つ返事でOK
 してくれるよ」
福田「う~ん……」
梨恵「やっぱ、やめとく?」
福田「えっ?」
梨恵「行くのん。え、あ、もしかして結婚の方?!」
福田「(遮って)いやいや、行くって! ちゃんと決めたんや」
梨恵「そう? ほな、はよ行こ。なんか空も曇ってきて雨降りそうやし」
福田「そうやな」
梨恵「あ、そうそう、うちの親、勝さんが来るならって、特上のお肉買って
 きてたわ。お待ちかねやで、たぶん」
福田「う~そんな緊張するようなこと言うなよな」

   SE カップにお茶を淹れる音

加奈子「はい、勝さん。コーヒーです」
福田「あ、どうぞお気遣いなく」
良夫「勝くん、砂糖とミルク、ここに」
福田「あ、ああ! お義父さん、すみません!」
加奈子「これ、パティスリー・ニハチのクッキー」
梨恵「えっ! あの有名なニハチの?! これめっちゃ高いんとちゃう
 の?」
加奈子「大事なお客さんが来るから、奮発しちゃった。これ買うの二時間待
 ちよ」
福田「に、二時間?!」
梨恵「うわっ、すご~!」
加奈子「開店前からすごい行列なんだから」
梨恵「やっぱニハチは並ぶの当たり前よね」
福田「え~そんなに?!」

   SE クッキーの缶の蓋を開ける音

加奈子「見てみて! このクッキー、一枚一枚絵柄が違うのよ。ほら~こん
 な細かい絵、どうやって描くのかしらね」
梨恵「うわっ、ほんまや! なんか食べるのもったいないね」
加奈子「でも、おいしそうでしょ~。勝さん、好きなの召し上がって」
福田「あ、ありがとうございます」
良夫「ほら、勝くん。お皿」
福田「え? ああ、すみません!」
加奈子「勝さん、どれがいい? 遠慮しないで、どんどん食べてね。このチ
 ョコチップのとかどうかしら?」
福田「え、あ、は、はい、いただきます……(一口食べる)」
加奈子「どう? どう?」
梨恵「勝さん、おいしい?」
良夫「え? どうなんだ?」
福田「……お、おいしいです」
加奈子「でしょ? おいしいって、勝さん」
良夫「(拍手しながら)おおっ! そうか! そうなんか!」
梨恵「(拍手しながら)わぁ、よかったよかった~!」
福田「え? あ、あの……」
加奈子「ほらほら! どんどん食べて!」
福田「は、はい……」
梨恵「私ももーらおっと。いただきまーす! (食べて)うん、やっぱおい
 しい」
加奈子「(豪快に音をたてながら)うん、うん。さすがニハチのクッキー。
 あっ! こっちのも食べよっと」
良夫「すまん、勝くん、ちょっと足上げて」
福田「え? あ、あの、お義父さん? 何をなさって……」
加奈子「ああ、勝さん、気にせんといて。お父さん、掃除好きやねん。四六
 時中、コロコロ、コロコロしてるんよ。ねー? お父さん」
良夫「ん……まあ、これがね、趣味みたいなもんやねん」
福田「はあ、そうなんですか……」
加奈子「(食べながら)ほら、勝さん。まだこんなにあるんやから、遠慮せ
 ずどんどん食べてや」
福田「え、あ、いや、えっと、今日はそのお話がありまして」
加奈子「しーっ! 皆、静かに! 勝さん、話があるって! ほら、お父さ
 ん! コロコロやめてはよ座って!」
良夫「なんやなんや」
加奈子「(静かになってから)勝さん、はいどうぞ!」
福田「えっ? あ、いや、今日はその……」

   沈黙

福田「(咳払いして)すみません、えっと、その(咳払い)」
梨恵「(小声で)勝さん、ほらコーヒー飲んで」
福田「え? ああ、ありがとう(コーヒーを飲んで)あつっ!」
梨恵「勝さん、大変!」
加奈子「あらまあ!」
良夫「大丈夫かい?」
福田「だ、大丈夫です……」
良夫「コーヒーと言えども油断は禁物やで」
福田「え? は、はい、すみません」
梨恵「(ため息)勝さん、落ち着いて」
福田「うん……(深呼吸して)きょ、今日はその……」
加奈子「あっ!」
福田「は、はい?!」
加奈子「今日って土曜日?」
梨恵「日曜日よ、お母さん」
加奈子「ああ、日曜か。昨日、資源ゴミ出すの忘れちゃったわ」
良夫「私が出しておいた」
加奈子「え、お父さん、やっててくれたの? ありがとう! 助かるわ~」
梨恵「もう、お母さん。いつもゴミの日忘れるよね」
加奈子「やぁね~。もう歳かしら」

   SE 加奈子・良夫・梨恵の笑い声

福田「あ、あの……」
加奈子「あっ! 勝さん、ごめんなさいね、話止めちゃって」
福田「い、いえ……」
加奈子「ほら、皆静かに! (静かになってから)はい、勝さん。何でしょ
 う?」
福田「えっ? あ、あの、今日は、その、なんと言いますか……」
梨恵「(小声で)ほら、勝、頑張って」
福田「(小声で)う、うん……えっと……(深呼吸して)り、梨恵さんを僕
 に」

   SE 雷が落ちる音

全員「わぁっ!」

   SE ザーッと雨が降る音

梨恵「うわぁ、すごい雨!」
加奈子「あら~、やっぱ降ってきたね。あっ、洗濯物干しっぱなし!」
良夫「(オフからオン)洗濯物、取り込んできた」
加奈子「あら、お父さん、ありがとう。それにしても、すごい雨ね」
梨恵「バケツひっくり返したみたい」
加奈子「最近多いよね、こう急に大雨になるん。何て言うんやったっけ? 
 えーっと、げ、げ、げ」
梨恵「ゲリラ豪雨?」
加奈子「そうそう! ゲリラ豪雨! こないだも、買い物帰りにゲリラ豪雨
 にあって、もうビショビショ」
梨恵「私もあったわ。あの時は傘持ってなかったから、もう大変」
加奈子「あら~でも、傘持っててもあんまり意味ないんよね」
梨恵「そうそう! 傘さしてもびしょ濡れ」

   SE 加奈子・梨恵の笑い声

福田「えっと、あの、ちょっと……」
良夫「勝くん、ちょっといいかな?」
福田「は、はい?」
良夫「ちょっと、私の部屋で二人で話さへんか?」
福田「え? 二人で……ですか?」
梨恵「なあに、お父さん。勝さんと二人っきりで話なんて」
良夫「男同士の話や。ほら、勝くん、こっちや」
福田「は、はい……」

   SE 襖の開閉音

良夫「さ、ここが私の部屋や」
福田「わあ、お義父さん。すごい数のフィギュアですね。あっ! これは死
 神ライダー、スケルトン! 子供の頃、好きやったんですよ。懐かしい特
 撮ヒーローのがいっぱいですね」
良夫「恥ずかしながら、特撮モノの映画とか好きでね。ついこんなにも集め
 てしまって(少し笑う)」
福田「へぇ、そうなんですか」
良夫「ところで、勝くん……うちの娘と結婚する気はあるのか?」
福田「え? は、はい、もちろん。今日はその事で伺った次第で……」
良夫「そうか……だったら、勝くん」
福田「はい」
良夫「君に地球を守れるのか?」
福田「はい! え? ちょっと待って、今、何と?」
良夫「君に地球を守れるのかと聞いているんだ!」
福田「ち、地球……ですか?」
良夫「家庭を守る事はすなわち、地球を守る事!」
福田「あ、あの……それがその、梨恵さんとの結婚と何の関係が?」
良夫「家庭を守り地球を守る事は、結果的に梨恵を守る事に繋がる」
福田「は、はあ……でも、お義父さん。何から地球を守るのですか?」
良夫「ズボラからだ」
福田「は? ズボラ?」
良夫「うちの妻、加奈子はえらいズボラでな。あいつが手抜きした家事全
 般、私が陰ながら補い、家庭円満に務めてきたんだ」
福田「は、はあ」
良夫「ほら、さっきのあいつら見たろ? クッキーをボロボロ、ボロボロこ
 ぼしながら食べて。私が掃除しててもお構いなく」
福田「え? あ、ああ」
良夫「それに限らず、あいつら、出したら出したままで片付けない、ゴミが
 落ちててもそのまま」
福田「はあ……」
良夫「私も元々几帳面な方ではない。でも、夫婦共々ズボラでは家庭が崩壊
 してしまう。そんな事あってはならないのだ!」
福田「あ、あの、でもズボラでそこまで大袈裟な……」
良夫「何を言ってるんだ、勝くん! ズボラがこのままはびこったら、どう
 なると思ってるんだ!」
福田「えっと……」
良夫「家庭だけではなく町も汚れ、全国ごみまみれになってしまうんだ
 ぞ!」
福田「いや、そこまでは……」
良夫「ズボラがはびこったら人類がダメになってしまう! まずは家庭内の
 ズボラから退治していかなければならないのだ!」
福田「はあ……」
良夫「しかし残念な事に、うちの娘、梨恵も母親に似て、かなりのズボラで
 な。君もそう思うだろ?」
福田「え、ええ、まあ、そ、その、なんといいますか……そうですね」
良夫「だろ?! だから、そんなズボラの行動をフォローしつつ、快適な暮
 らしを実現させて地球を守らなければならない! そのために、我々は今
 こそ立ち向かわなければならないのだ!」
福田「はあ……」
良夫「そこでだ、娘と結婚するにあたり、君は几帳面という仮面を被り、ズ
 ボラという怪物に立ち向かえるか?」
福田「そ、それは……」
良夫「どうなんだ? 勝くん!」
福田「う~ん……えっと……その……」
良夫「(ため息)……たしかに、すぐに答えを出せというのは酷かもしれな
 いな」
福田「すみません……」
良夫「何かを守るには、それ相応の覚悟がいる。私は自分の体をサイボーグ
 に改造して立ち向かっている」
福田「は? サイボーグ?!」
良夫「そう、私の腕の先をこう回すと、仕込み銃のように箒が出てくるん
 だ。おっと、今は見せられないが」
福田「ほ、箒? ちょっと見せてくださいよ。どうなってるんですか?」
良夫「まあ、待て待て。あとでな」
福田「そうですか……で、でも、そんなもの、腕につけてどうするんです
 か?」
良夫「たとえば、ここに並んでるフィギュアの埃。ここをこう、フィギュア
 の間を縫うようにササッと……ね?」
福田「なるほど、そんな使い方を……でも、なんでまた、箒なんて」
良夫「これがまた家庭を守るために便利なんだ。それに、掃除は家事の基
 本。娘と結婚したら、君にもつけてもらうことになる」
福田「えっ?!」
良夫「大丈夫! 私は工場で働いててね。こんな部品の取り付け、製造とか
 造作もないいことなんだよ」
福田「ちょ、ちょっと待ってください! ほ、箒を腕に?! ん? 腕を
 箒? 箒が腕? えっ? えっ?」
良夫「心配するな! 君にはお掃除ロボより家を綺麗にできるよう、もっと
 性能が良い箒をつけてやるから。まかせておけ!」
福田「い、いや、そうではなくて……」
良夫「家庭円満で地球を守る……君にもその素質があると思っているんだ
 が、どうなんだ?」

   SE 襖の開閉音

福田M「(ため息)なんか、わけわからん事になってしもたな……なんやね
 ん、地球を守るって。しかもサイボーグって……ちょっとどころか、だい
 ぶおかしいぞ、あのお義父さん……ああ、梨恵に聞いてみな。梨恵はどこ
 行ったんやろ? 台所の方か? あ、いたいた」

   SE まな板を叩く包丁の音

梨恵「勝さん、大丈夫かな。お父さんと二人っきりで」
加奈子「大丈夫。お父さん、ああ見えて、勝さん、気に入ってるみたいや
 し」
梨恵「そういや、お父さん、最近家の事にも協力的よね。昔は亭主関白とい
 うか、家事は女の仕事とか言ったりしてたのに」
加奈子「そうやねん。協力的というより、むしろ自主的に掃除とかして、な
 んか不自然なんよ……もしかして、お父さん、私たちの計画に気づいたん
 かも」
梨恵「(笑いながら)まさか、あのお父さんが?」
加奈子「そうよね。お父さん、鈍感やし。でも、それはそれで成功に一歩近
 づいたわ」
梨恵「お父さんの行動が、私たちの思うつぼって事よね?」
加奈子「そう。もし、お父さんが本当に気づいてたとしても、こっちとして
 は好都合」
梨恵「このまま、どんどん突き進んでもらわなね」
加奈子「本部からの報告では、私たちの計画に気づいた者は几帳面になる可
 能性大とかなんかあったわ」
梨恵「それじゃあ、やっぱりお父さんは、ズボラで人類滅亡させないよう、
 几帳面に変身したん?」
加奈子「かもしれんよ」
梨恵「じゃあ、やっぱり計画通りね」
加奈子「でも、ちょっとお父さんを甘く見てたかも。梨恵、勝さんの方は本
 当に大丈夫なんよね?」
梨恵「大丈夫。勝さんも私と同じズボラで面倒くさがりな人やから」
加奈子「そう? よかった。これで我が家もお婿さんを迎えて、ついにアレ
 を始動させる日が……フフッ。梨恵、あなたも良い人見つけたね」
梨恵「えへへ、でしょ~? あの計画にうってつけの人よ」
加奈子「でも、油断したらあかんよ。こっちの仲間になるよう、ちゃんと誘
 導しな。妻は夫をいかに上手く操縦できるかが重要やねんから」
梨恵「わかってるって。バレると計画がパァになるし」
加奈子「そう。これで失敗でもしたら、何千億もかけてきた今までの努力
 が……」

福田M「な、何言ってるんや?! こっちもなんやわけわからん事に……何千
 億もかけたって、二人は何をしようと、あっ?!」

   SE 空き瓶が倒れる音

加奈子「何?! 何の音かしら?!」

福田M「ヤバい! どうしよう……あっ! ここに扉が?! よし! ここ
 に」

   SE 扉を開ける音
   SE 心電図のような機械音

福田「な、何やこの機械だらけの部屋は?! レーダーみたいなのや、意味
 不明な計器やボタンがいっぱい! ん、これは? 何かの通信機
 か……?」
梨恵「(オフ)勝?」
福田「わぁ?! (バタンと扉を閉める)」
梨恵「(オン)勝、何やってんの? こんな所で」
福田「え、あ、いや、べ、べつに何も……」
梨恵「ふ~ん、そう?」
福田「う……」
梨恵「ねぇ、勝」
福田「な、何?」
梨恵「父と何話してたん?」
福田「え、あ、いや、ちょ、ちょっとね……フィ、フィギュア! そう! 
 フィギュアを見せてもらっててん。いやぁ~すごいね、お義父さん。あん
 な沢山、しかもかなりレアな物もあって。ははっ、はははっ」
梨恵「ふ~ん……」
福田「り、梨恵?」
梨恵「お父さん、あんまりお喋りな方じゃないから珍しくてね」
福田「へ、へぇ、そうなんや」
梨恵「何の話してたんかなって思って」
福田「べつに、フィギュアの話で盛り上がってただけやで。うん、それ以外
 は何も話してない」
梨恵「……ねえ、勝」
福田「ん?」
梨恵「ちゃんと私たちの事、考えてくれてるよね?」
福田「えっ?」
梨恵「もう他人じゃないんだから、私たち」
福田「え、そ、それは……」
梨恵「勝ならわかるよね?」
福田「あ、うん……」
梨恵「なら、いいの。でも……(少し笑い)私を悲しませないでね」
福田「えっ?!」
加奈子「(オフ)ご飯できましたよ~!」
梨恵「ほら、皆待ってるから行こう」
福田「え、え、ちょ、ちょっと……」

   SE 鍋がグツグツ煮える音

加奈子「さあ、すき焼きができましたよ~! どうぞ、召し上がれ。勝さ
 ん、お肉沢山あるから、遠慮せずどんどん食べてね」
福田「あ、ありがとうございます」
加奈子「このお肉ね、A5ランクの霜降り和牛なのよ~!」
良夫「それはすごいやないか! ほら、勝くん。どんどん食べて力をつけな
 さい」
福田「えっ? あ、では、いただきます……(一口食べる)」
加奈子「どう? どう?」
梨恵「勝さん、おいしい?」
良夫「え? どうなんだ?」
福田「……お、おいしいです」
加奈子「でしょ? でしょでしょ? 皆! おいしいって、勝さん」
良夫「(拍手しながら)おおっ! そうかそうか! そりゃよかった!」
梨恵「(拍手しながら)わぁ、奮発してよかったね、お母さん!」
福田「は、はあ……」
加奈子「ほらほら! どんどん食べて! あっ、そうや! ビールも!」
良夫「はい、勝くん。グラスを」
福田「ああ、どうも」
梨恵「お父さん、待って。私が注ぐわ」
良夫「おお、そうか」
梨恵「はい、勝さん」
福田「あ、ありがとう……」

   SE ビールを注ぐ音

福田M「やっぱり……この三人、べつにおかしなところはないねん、今はな。
 でも、さっきは地球がどうとか、ズボラや几帳面やなんかわけわからん事
 を……いや、待てよ……この人たち、俺の事騙してんのとちゃうか? 困惑
 してる俺を見て陰で笑ってるとか……(鼻で笑い)まさかな、そんな事あ
 るわけないやん。でも、もしかしたら……」

加奈子「ところで、勝さん、今日はほら」
福田「え?」
良夫「これ、母さん、そんなに急かしちゃ」
加奈子「だって、お父さん。勝さん、なかなか言ってくれへんもん。ねぇ、
 梨恵もそう思うでしょ?」
梨恵「もう、お母さんったら」
良夫「まったく、二人とも……(ため息)で、勝くん、どうなんだ?」
福田「え、えっと……」
加奈子「そうそう、話って何やったん?」

福田M「どうしよう、何か答えな。ああ、でも……えっと……」

福田「じ、じつは」
良夫「えっ、何?」
梨恵「じつは?」
加奈子「なになに、じつはって」
福田「僕は」
良夫「何、僕は?」
梨恵「僕は何なん?」
加奈子「ほら、はよ言って言って」
福田「(咳払いして)僕は、ズボラと几帳面の調査員なんです」
梨恵「えっ?」
加奈子「はい?」
良夫「ん? 調査員? なんだ、それは」
福田「えっと、この地球のズボラと几帳面を調査して……」
梨恵「調査してどうすんの?」
福田「ちょ、調査して、ズボラと几帳面を、えっと、研究を……」
加奈子「研究って、え、え、それは?」
福田「ズボラと几帳面が、えっと、どんな時にどんな行動をとるか、研究し
 て……え~……あ、こ、この地球で、ズボラと几帳面が共存できるよう調査
 する役目を持って、ここにいるんです! えっと、その、今まで隠してい
 てすみませんでした!」
加奈子「へ、へぇ~、そんな研究が? いつの間に……」
福田「え、ええ、本当は秘密裏に進められているのですが……」
梨恵「え、言っちゃっていいの? 勝」
福田「だ、だって、その、隠し事はあかんかなと思って……」
良夫「う~ん……」

   SE 鍋がグツグツ煮える音

福田「……あ、あの~……」
良夫「よくぞ言ってくれた!」
福田「へ?」
加奈子「さすがね、勝さん」
梨恵「ほんとほんと」
福田「え、えっと……」
良夫「やっぱり、私が見込んだだけの男だ」
加奈子「そうよ。梨恵もそう思うよね?」
梨恵「うんうん」
福田「は、はあ……」
良夫「よっしゃ、乾杯や!」
加奈子「そうね、乾杯しましょ!」
梨恵「ほらほら、勝。グラス持って!」
福田「え、あ、ああ」
良夫「よし、それでは乾杯!」
加奈子・梨恵「乾杯!」

   SE 乾杯する音

良夫「ま、これでちょうどいいバランスちゃうかな。この家族は」

   SE 四人の笑い声

                              (了)

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