ラジオドラマ「その一口がブタの元」

概要:関西の某ミニFMの番組内のラジオドラマ用に執筆(諸事情によりO.A.ならず)。登場人物は女性三人という条件。尺は約15分。2014/11/12作。

〇ログライン
 何度もダイエットに失敗してきた主婦が、友人や姑の言葉に反発しながらも励まされ、再びダイエットに挑戦する話。

〇登場人物
永井文子(46)肥満の主婦
福島雪子(46)文子の友人
永井咲江(73)文子の姑


   SE 小鳥の鳴き声

文子「いってらっしゃい! 頑張って練習しいや! ……やれやれ、夫は出
 張、子どもは合宿行ったし、これからは私だけの時間や」

   SE お菓子の袋を開ける音

文子「(煎餅をかじりながら)う……う……うまい! ああ、やっぱり食べて
 る時が一番幸せやわ」

   SE 玄関のチャイムの音

文子「やばい! お義母さんかも(慌てて袋を片付けて)はーい!」

   SE 扉を開ける音

咲江「おはよう。文子さん」
文子「ああ、お義母さん。おはようございます。どうされました? こんな
 朝から」
咲江「こないだ旅行行ってきたから、お土産持って来たんやけど……文子さ
 ん、あんた、ついてるで」
文子「はい?」
咲江「ほら、ここ。口のとこに食べかすが」
文子「え? あ、す、すみません」
咲江「(ため息)また、朝からお菓子バクバク食べてるんやろ。いい加減に
 しいや。自分の姿、いっぺん鏡で見てみい」
文子「……はい、わかっています」
咲江「何もわかってへん! うちは嫌味で言ってんのとちゃうの。文子さん
 の健康を思って言ってあげてるんやで」
文子「はい……」
咲江「今度こそ痩せなさい。でないと、うちの息子とは離婚やで。離婚!」
文子「えぇっ?!」

   ファミレスの店内BGM
   SE 店内の喧騒

文子「(食器の音をたて食べながら)なあ、雪子。たしかに、私は太ってる
 と思うけど、痩せんかったら離婚とか言われてん。どう思う?」
雪子「どうって……ケーキばくばく食べながら言われてもな、文子」
文子「食べなやってられへんわ」
雪子「でも、それくらい切羽詰まらんと、あんた本気で痩せようとせえへん
 やろ?」
文子「う~ん、でも、今まで何回ダイエット挑戦しても失敗ばっかりやった
 もん。雪子みたいなほっそりした体型になりたいけど、私には無理やわ」
雪子「ムリムリ言うてたら、痩せるもんも痩せんで。ほら、食べるのやめて
 さっさとやるで」
文子「は? 何を?」
雪子「ダイエットに決まってるやろ! あんたなぁ、これ何やと思ってん
 の? こんなにつまめるもん」
文子「いたっ! いたたたっ! 雪子! 痛いって! ほっぺたつままんと
 いて!」
雪子「つままれたくなかったら、脂肪落とし。まずは家まで走る! 文子の
 チャリンコは私が乗るから。ほら、行くで!」
文子「えっ?! ちょ、ちょっと待って!」

   SE 自転車のベルの音

雪子「ほら、もっと腕ふって走って!」
文子「はぁはぁ……ゆ、雪子、はぁはぁ……も、もう無理……死にそう……」
雪子「はいはい、そんなんで人は死なんから。さっさと走る!」
文子「えぇっ?! ちょ、ちょっと……はぁはぁ……待ってや」

   SE なわとびを跳ぶ音

文子「(跳びながら)はぁはぁはぁはぁ」
雪子「(手を叩きながら)もっとリズミカルに! ほら、ボクシングの選手
 みたいにもっと軽やかに跳んでみいや」
文子「はぁはぁ……(跳ぶのをやめて)あ~しんど! ちょっと休憩」
雪子「こらっ! 何やめてんの! まだ一分も跳んでないで!」
文子「え~?! 疲れた。こんなしんどい事しなアンタみたいになられへん
 のやったら、もうええわ」
雪子「そんなん言ってたら離婚やで。り、こ、ん」
文子「なんで雪子にそこまで言われなあかんの? もう嫌や!」
雪子「ちょっと! 文子、どこ行くん?」
文子「ほっといて! もうやりたくないねん、こんなん」

   SE 駆け出す音
   SE 街の雑踏

文子「(ため息)なんで皆、そこまで頑張るんよ。太り過ぎで死ぬわけじゃ
 あるまいし。もう、めんどくさいなぁ。べつに太ってるの私だけちゃうや
 んか。ほら、あっちにもこっちにも、太ってる人いっぱいおるやん。何も
 焦る必要ないわ」

   SE 玄関の扉を開ける音

文子「雪子はもう帰ってるみたいやな……ああ、お腹すいた。お菓子お菓
 子……あれ? ここに置いてたお煎餅がない?! さては雪子のやつ、隠
 したな。べつにいいもん、うちにはちょっとした地下室くらいある大型の
 床下収納があるもんね。そこにいっぱい食べ物隠してるし……(扉を開け
 る音)えっと、どこやったかな……あ、あったあった! あんな奥に。よ
 っと。ここからじゃ届かんな。一旦降りな……よいしょっと……あれ? こ
 この収納の出入口、こんなに狭かったっけ? なんか入りにくいな……よ
 っと……あれっ? ほっ……え、ちょ、嘘やろっ?! お腹がつっかえて動
 かれへん! うわ、どうしよう……挟まってしもた……(ため息)しゃあな
 い、そのうち誰か帰ってくるやろ……いや、あかん! 夫も子どもも、出
 張と合宿で今日から二、三日帰ってこーへんやん! えー?! まさ
 か……このまま床下収納に挟まったまま?! もし誰にも気づかれんまま
 やったら……衰弱死?! あかんあかん! こんなとこで死んでる場合や
 ない! まだまだ食べたい物いっぱいあるのに。なんとかしてここから出
 な! くっ、ふんっ、よっと……(ため息)あかん、やっぱひとりじゃ抜
 け出せん……」

   SE 玄関のチャイムの音

文子「あっ! 誰か来た?! おーい! 助けて~! ちょっと~! 誰か
 ~!」

   SE 玄関のチャイムの音

文子「はいはい、いますよ! 聞こえてへんのかな……おーい! 助けて! 
 あれっ?! 行ってしもた?! ちょ、ちょっと待って! お願い! 助
 けて! ……あかん、行ってしもた……(ため息)なんとかして助けを呼ば
 な……携帯……そうや、携帯電話、どこやったっけ? えっと……あ、あんな
 とこ落ちてる。よかった、手のばせば届きそうな距離……よっと……くっ……
 う~、あとちょっと、もうちょっとで指が、ふんっ、届きそうやねんけ
 ど……ほっ! ああっ! 勢い余って携帯遠くへ押してもうた! う~届
 かん! (ため息)あかん……どうしよう……やっぱり私、このまま死ぬん
 か? 私の人生、ここで終わり? ああ、こんな事なら、もっと本気でダ
 イエットしときゃよかったなぁ……」

   悲しげなBGM

文子「神様~! 己の食欲に負けてこんなにブクブク太ってしまった私が悪
 うございました。でも、だからって、こんな死に方、あんまりじゃないで
 すか~! どうかもう一度、私にチャンスを……今度はちゃんとダイエッ
 トしますから……ああ、こんなとこで死ぬなんて……なんてあっけなく終わ
 る人生や……」
雪子「(オフ)文子! 文子!」
文子「ああ、遠くで雪子の声がする……雪子、ごめんな~……私のためを思っ
 てやってくれてたのに、こんな事になっちゃって……私、もうここでおし
 まいみたいやわ……お義母さんも心配してくれてたのに……ああ、お父さん
 とりっちゃんも、今朝送り出したのが最後なんて……ごめんなぁ……ああ、
 死ぬ前にもう一度……皆に会いたかった……」
雪子「(オフ)文子! 文子!」
文子「ああ、三途の川らしきものが見えてるわ……雪子、今までありがと
 う……私、もう逝かなあかんみたい……」
雪子「(オン)文子! 文子!」
文子「ああ、雪子が呼んでる……でも、もう逝かな……さようなら……雪子」
雪子「文子! 何言ってんの?! しっかりして!」
文子「え? 雪子? え? え? 雪子!」
雪子「文子?! ちょっと、どしたん?! こんな所で何してんの?! え
 らいけったいな格好してまあ!」
文子「ああ、雪子~! 助かった~!」

   SE なわとびを跳ぶ音

文子「(跳びながら)はぁはぁはぁはぁ」
雪子「(手を叩きながら)はいはい、ほら、もっとリズミカルに……よし! 
 三分経った。ちょっと休憩しよか」
文子「(跳ぶのをやめて)ふぅ、疲れた」
雪子「文子、だいぶ続くようになったな。頑張ってるやん」
文子「私はいっぺん死んだ人間やから、生まれ変わって本気でダイエット頑
 張るねん」
雪子「大げさやなぁ」

   SE 玄関のチャイムの音

咲江「(オフ)文子さ~ん」
文子「あ、お義母さんの声。はーい! 庭の方にいまーす!」
咲江「ああ、こっちにいたんやね」
文子「お義母さん?! どうされたんですか?! その姿……なんか前より
 ふっくらされたような……」
咲江「そうやねん……文子さん、あんたのせいやで!」
文子「えっ?!」
咲江「ちょっと聞いて! 文子さんのためにダイエット料理習っててん」
文子「えっ?! ありがとうございます!」
咲江「いや、ちゃうねん。それで料理教室行ったのが、間違いやってん」
文子「え? なんでですか?」
咲江「料理作るたび、味見と称してバクバクつまみ食いしてたら、こんな姿
 に……」
文子「ははっ……それはお気の毒に」
咲江「いくら低カロリーでも食べ過ぎはあかんなぁ、ほんま」
雪子「そうですよ、お義母さん。その一口がブタの元です」
咲江「そうやねん。ほんま気をつけな……って、あんた誰や?」
文子「あ、ああ、この人、私の友達でダイエットの指導してもらってるんで
 す」
咲江「そうか……なあ、あんた。うちも文子さんと一緒にダイエット教えて
 や」
雪子「いいですよ。そのかわり、厳しくいきますよ。痩せなかったら離婚で
 す」
文子「ゆ、雪子?!」
咲江「(豪快に笑って)それはええな。あんな旦那と離婚してもええけど、
 まずは痩せな。ほら、文子さん。頑張ってダイエットしましょ」
文子「は、はい! 頑張りましょう!」

   SE なわとびを跳ぶ音

                              (了)

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