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【感想】★★★「一九八四年」ジョージ・オーウェル(高橋和久 訳)

評価 ★★★

内容紹介

■ 〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は以前より、完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるのだが‥‥‥。二十世紀世界文学の最高傑作!

感想

一党独裁の体制の中、人々の考えを支配する為に不都合な過去や真実は改竄し、少しでも不穏な動きな考えがあると見なした人間を消去していく。自由恋愛も誰かと遊ぶことも本を読む事も一切許されないというファンタジーの世界の話ではあるが、中身はとてもリアルであり、現実世界でも少なからずとも実際にあると思う。

序盤は架空の世界の出来事なので、なかなか感情移入が出来辛く、読み進めるのが止まりがちだが、ジュリアと出会う中盤以降から展開が速くなり、面白くなっていく。

主人公のウィンストンは政府機関の真理省で働きながらも、現政府に否定的になりながらも存在を消される対応に怯えながら、少しずつ昔の人間らしい自由な生活をしていた時代の名残を求めていく。
そんなある日、党のスパイだと思っていたジュリアが思いがけず告白される。自由恋愛を禁じられていた世の中で、試行錯誤しながら逢瀬を繰り返していると、オブライエンという党の重要役員から声を掛けられ、反党組織への加担を勧められる。喜び勇んでウィンストンはジュリアと共に反党組織へ協力を約束した。
しかし、ほどなく、しかもあまりにも突如として党に拘束された2人。
ひたすら繰り返される拷問。

物語の終盤にオブライエンが言う「党が権力を求めるのはひたすら権力のために他ならない。他人など知った事ではない」という言葉は現在の世の中でも真実のような気がする。
社会主義、共産主義の恐ろしさを実感すると共に、権力の異常な中毒性を知らしめてくれる。
我々が過ごしている民主主義の中でさえも、歴史の改竄や思想の矯正は行われていると思う。

ラストもくだらない予定調和の恋愛小説のようにはならないし、それでいてなぜかメチャメチャ美しいとさえ思える。

最後に書かれている附録「ニュースピークの諸原理」は読む必要はないが、実はその存在こそが、この作品の結末であったりするというリアリティ!

かなり古い作品ではあるが、「This is 文学」とも言うべき傑作であり、今読んでも全く古さを感じさせない素晴らしい作品だと思う。
個人的には★×4でも良いが、前半の苦痛さもあるし、万人受けはせず単純に面白いという作品ではなく、難解でもあるので★×3にした。


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